COLORS 〜第八話〜 | back | next | index |
山口君に教えて貰った場所にタクシーが到着した。 結構立派なマンションだけど……これって、誰がお金払ってんだろ? なんて、どうでもいい事を考えてる場合じゃなかった。 「直樹……着いたよ?」 そっと、肩を揺する。 眉間に皺を寄せて小さく唸る直樹。 やっぱり、相当酷く殴られたんだ。 凄く辛そう。 「直樹?起きれる?」 二度目の問いかけに、ゆっくりと目を開ける。 「……ついた、のか?」 「うん。歩ける?」 「大丈夫」 そう言って、直樹はポケットに手を突っ込むと 「これ」 と、運転手に万札を2枚差し出した。 「お釣り、いらない」 えぇ!! ちょっと!!貰おうって!! ……じゃなくて! 「直樹、僕払うから!」 「今日、世話になるから」 「でも!!」 と、言ってから大変な事に気がついた。 僕……実体化する気なんて全く無かったから…… 現金もカードも支給してもらってなかった…… 「……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」 慌てて言い換えて、僕らはタクシーを降りた。 「此処?結構良い所住んでんじゃん」 小さく口笛を吹いて、僕を見てニヤリ、と笑った。 「ま、まぁね」 曖昧に返事をしながら、教えられた部屋へと向う。 エレベーターに乗って、9階を押す。 「太一ってさ」 エレベーターの中で、直樹が突然話しかけてきた。 「何?」 「一人暮らしなの?」 「そ、そうだけど?」 「ふ〜ん。やっぱ、楽?」 「楽って?」 「一人だと、気が楽?って聞いてんの」 「う〜ん、寂しい、かな?」 基本、僕は誰かと一緒に過ごす時間が好きだ。 もちろん、一人の時間も好きだけど…… 「ずっと一人っていうのは、寂しいな」 「誰かといる方が、ずっと寂しい気がするけどな」 小さく呟かれた直樹の言葉。 何か、言わなきゃいけない気がして 言葉を探している間に9階に到着してしまった。 山口君から教わっていた隠し場所から鍵を取り出し、開ける。 「入って?」 ドアを開けて直樹の背中を押す。 「すげ……広いな」 後から入った僕もビックリ。 ホント、広すぎない? 「太一って……金持ち?」 聞かれて 「いや、別にそんなわけじゃ……」 しどろもどろになっていると 「ま、別にいいけど」 肩を竦めて、直樹はまるで自分の家のようにズンズンと進んでリビングへと入っていった。 「はぁ……」 大きく溜息をついて、ソファへと体を投げ出す。 「大丈夫?」 「だから、何回も言わせるな」 「……だって」 「何?」 「大丈夫じゃなさそうなんだもん」 「……」 「別に、無理しないでいいんだよ?」 言うと、 「……ったく」 と、小さく吐き出された呟き。 「何?何か、変なこと言った?」 怒られるような事、言っただろうか……? 「……調子、狂う」 「え?」 「太一みたいなの、ホント初めてだから。どう対応して良いのか、わかんねぇ」 僕は その言葉に 無性に悲しくなった。 直樹は今まで 辛い事や悲しい事 痛みや苦しみ 全てを素直に表現する事がなかったって事だ 彼の周りの環境は それすらも許してくれないものなのか 「……直樹」 「ん?なんで、太一が泣きそうな顔してんだ?」 おかしなヤツ。 そう言って、直樹は少し笑うと、僕の頭にパフっと手を置いた。 「シャワー、借りていい?」 埃くせぇし、俺。 「あ、うん!終わったら、手当てするから!!」 「よろしく。で、バスルームどこ?」 言われて、アワアワとしつつも、勘で開けたドアは助かった事にバスルームだった。 タオルも何もかも準備してある。 ホント、助かる…… 「ちゃんと、傷口とか綺麗に洗い流してくる事!」 ビシっと指をさして告げると 「はいはい。分かったから、ドア閉めてくれねぇ?それとも、見たいの?」 ニヤ、と笑われ、言われた意味を理解して…… 「この、マセガキ!!さっさと入れ!!」 ドアをバタンと閉めてやった。 全く!! ■□■□■□■□ 直樹がシャワーを浴びている間に山口君に再度連絡。 「どうした?」 「あのね、救急箱とかある?それから……僕、しばらく実体化する事になると思うから……資金が……」 「あ、大丈夫。救急箱は寝室の棚の上。あと、書斎の奥に金庫あるから。暗証番号教えるから、それ入力して開けたら金入ってる」 ……っていうかさ。 「ね、一体このお金とかってさ。どっから出てるの?」 「ま、それは今度じっくり説明してやる」 「今聞きたい」 「時間かかるけど?」 「……じゃあ、止めとく」 「いい子だね〜太一は」 「子供じゃないってば!」 「……で、どうなの?」 「何が?」 「どうするか、決めたのか?」 急に真剣な山口君の問いかけ。 「……決めたよ」 「そっか」 「僕は……助けてみせる」 「太一が決めたんなら……それが正解だ。頑張れよ。困った事があったら、いつでも連絡して来い」 「ありがと、山口君」 「な〜に。可愛い弟分の為だからな」 そう言って、山口君は通信を切った。 同時に、リビングのドアが開いて、直樹が入ってきた。 「ちゃんと、傷口洗った?」 聞くと 「洗ったってば」 と、苦笑する。 なんだか、少しホッとした。 ちょっとづつだけど、直樹が僕に心を開いてきてくれている。 見せてくれる表情がどんどん増えていく。 それが、嬉しい。 「じゃ、手当てしよう!」 「大した傷じゃないけど」 「だめ!甘く見てると痛い目みるぞ!」 そう言って、僕は救急箱を持ってきて、直樹の傷に取り掛かった。 大した傷じゃないなんて言ってたけど、結構深く切られている場所もあって。 「病院、行かなくても大丈夫かなぁ?」 包帯を巻きながら呟くと 「平気だって。もっと酷くても行った事ねぇ」 事も無げに答える直樹。 「……ねぇ」 「何?」 「痛いって分かる?」 「は?」 直樹は眼を丸くして固まった。 僕も、なんでこんな台詞が出てきたのか分からない。 でも、口を吐いて出てたんだ。 「あのね。痛い時は痛い。辛い時は辛いって、声にしないと……そのうち、分からなくなっちゃうと思うんだ」 「太一?」 直樹の腕に包帯を巻きながら、僕は続けた。 「泣きたい時に泣けなかったら、それはどんどん心に溜まっていくと思うんだ。痛みもそう。痛いのに痛いと言えなかったら、それは心に溜まる。そうして、どんどん溜め込んじゃったら、心がパンクしちゃうだろ?それでも、溜め続けてたら……麻痺してしまって、何も感じなくなっちゃうと思うんだ」 「……太一」 「直樹は……死んでもいいって言ったよね?あの時」 「……あぁ」 「それはね、やっぱり麻痺しちゃってると思うんだ。すぐ治せるものでもないと思う。でも……コレだけは覚えておいて欲しい」 僕は、巻き終った包帯を留めて、直樹の顔を真っ直ぐに見た。 「僕は……直樹が死ぬのは嫌だ。直樹が死んだら悲しい。それに辛い。一人でもそう思ってる人がいるんだから……死ぬのはダメだよ」 それに…… 「世の中には、生きたいと思っていても生きられない人だっている。生きることが出来るのに、死を選ぶのは……世の中の人に対しても、自分に対しても失礼だと思う」 「……別に、死のうと思ってるわけじゃ」 「死のうと思ってないけど……死んでもかまわないって思ってるなら一緒!」 「太一……」 「とりあえず、難しい事はこの際どうでもいい!僕が嫌だ!!」 勢いよく叫んだ僕の言葉に 直樹は眼を丸くして僕を凝視して…… 「痛ぇ……」 小さく呟いた。 「え!怪我、他にもどこか痛い?」 慌てて尋ねた僕に 「心臓、痛ぇよ……」 そう言って、僕の服をギュっと両手で掴んで…… 僕の胸に額をコツっと当てた。 「太一の言葉……刺さって痛ぇよ……」 「直樹……」 僕の胸の辺りに、落ちてくる雫。 この子は どれだけのモノを背負ってきたのだろう。 どれだけの痛みを隠してきたのだろう。 どれだけの感情を殺してきたのだろう。 それでも…… 今、こうして泣く事が出来てる。 だから、大丈夫。 まだ、手遅れなんかじゃない。 彼の心を、ちゃんと治してあげることが出来る。 僕は、声を上げて泣く事が出来ない直樹の肩を そっと抱き込んだ。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 長くなったので、此処で一旦切ります。 即続きUP。 う〜ん、COLORSは2話連続パターン多いな(笑)。 |