NO26 「それは…僕の音だけじゃない。君の…君の心臓も同じ音をしてる」 辛うじて声を出した僕は、髪を捕まれそのまま引き上げられた。 「そんな事、どうでもいいんですよ。ただ…あたなの音が耳に付いて離れない。…それが許せないんです」 持ち上げられた僕の左胸に手を翳し、彼は口の端を微かにあげ、微笑んだ。 「だから…消して下さい、音」 「 至近距離で食らった彼の力はとてつもなく強く、僕の心臓は、一瞬彼の望み通り音を消した。 息が…出来ない。目の前が真っ暗になる。周りの音が…遠ざかっていく… 「朝幸!!!」 …この、声は。 「朝幸!!!しっかりしろ!!!」 …僕を、呼んでる。 「起きろ!!!!眼を醒ますんだぁ!!!」 …そう、だ。僕は…約束…したんだ…。 ゆっくりと心臓が動きを取り戻す。 呼吸が楽になる。意識が覚醒する。 死ぬわけには…いかない。 ゆっくりと眼をあける。 目の前に、少し眼を見開いた島田の顔があった。 「僕は…死なない。約束、したから。皆の為に戦うって…約束したから」 だから… 「負けるわけには、いかない」 睨みつけた僕を見て、島田の瞳は少し狼狽したように見えた、がすぐにまた挑発的な視線で僕を見据えてきた。 「せいぜい、頑張ってください。あなた達に、勝ち目はない」 そう言うと、後ろを振り向き、 「石田、萩原。残りを回収しろ。いいか、大切な実験対象だ。傷をつけるな」 「了解」 そう言って、石田と萩原はよっくん達に近づき、次々と皆の意識を失わせていく。 手を翳されると、皆は膝を折って倒れていく。 なんてすごい能力なんだろう…彼等は…本当に強い。 でも… 「皆は連れて行かせない」 そう告げた僕に 「あなたに何が出来るって言うんですか」 ニヤリ、と島田は笑う。 その島田の肩に手を置き、力を込める。 「な、なんだよッ」 「本当は…嫌だけど。皆を守る為だから…」 一緒に…壊れてしまえばいい。 勝つ事は出来なくても…道連れには出来る。 僕は、慎吾の方を振り向いた。 「朝幸!!!止めろ!!止めるんだ!!!」 僕の心を読んだかのように、慎吾は僕を止めようとしてる。 でも… 「ありがと。慎吾…優しくしてくれて、本当にありがと。僕…慎吾の事、大好きだよ」 「朝幸!!!早まるんじゃない!!!」 「僕は…皆が大好きだから。だから…皆を…助けたい。今まで、皆に助けてもらってきたから…」 せめてもの…恩返しに。 「バイバイ…慎吾。大好きだよ」 「朝幸ー!!!」 慎吾の声を聞きながら、僕は思い切り島田を抱き寄せた。 「や、やめろよ!!!」 「ゴメンね…君だって本当は辛いんだよね…でも…皆を助けるためには、仕方ないんだ」 サヨナラ… 全ての力を…一気に体の中心に集め…思いきり放出した。 「う、わぁぁッ!!!!」 島田の叫び声が…耳に響いて…そして…僕は… また、ゆるゆると真っ赤な世界の底へと… ゆっくりと… 落ちて… い…く… ++ ++ ++ 「島田!!!」 萩原の声に、何とか眼を開けた。 「大丈夫か?」 駆け寄る石田に 「あぁ…少しクラクラするけどな」 と、答え足元を見た。 屋良が…両目から大量の血を流していた。 それは、屋良の心が流している涙にも見え、少し嫌な気分をさそう。 「…島田」 良知君が近づいてきた。 「大丈夫…殺して、ないよ」 そう…あの瞬間、俺は力を放出した。 それは…屋良に向かってではなく。 屋良の力を外へと飛ばす為に。 あのまま、屋良に向かって放出していれば、俺は無傷で助かり、屋良だけが死んでいたはず。 でも…俺は… 「何故だ…」 力を体全体に受けながら…その力を外へと飛ばす為に、必死に能力を使っていた。 まるで…屋良を助けるために。 「…何故なんだ」 わからない…自分でも全くわからない。 混乱する思考を振りきるように頭を左右に振り、俺は全員に告げた。 「とにかく、回収作業を続けよう。屋良は…再起不能だろう。回収の必要は…ない」 「島田!!」 「良知君…仲間、だよね。だったら…俺のやる事に意義はないよね」 「…島田。確かに俺は仲間だ。でも…」 「その先は…今は聞きたくないよ。とにかく、回収が先だ」 そう答えて、背を向ける。 何故だか、良知君の話を聞くのが怖かった。 歩き出そうとして、不図足もとの屋良に眼をやる。 彼は…何故だか幸せそうに見えた。 感情が…渦巻いている。 よくわからない感情が脳内に溢れかえっていた。 ヤメロ…ヤメテクレ… 気にしないようにしようと、俺は萩原に声をかけた。 「NO001が何処かに居るはずだ。探して回収しなきゃな」 「…大野、智の事?」 「そう。あの人が1番の重要人物らしいからな」 「わかった。探してくる」 そう言って萩原が奥へと向かおうとしたその時、 「止めろ!!!大野はもうそっとしておいてくれ!!!!」 町田の叫び声が聞こえた。 「…良知君。その人も早く回収してよ」 「…島田。俺には、出来ない」 「良知君…?」 「真都は…間違ってる。皆だって洗脳されてるんだ。俺は…彼等を…兄さん達を助けたい」 「…兄さん?」 石田が首を傾げる。 「良知君…裏切るのか?」 俺を…俺達を… 「違う。俺が裏切るのはお前じゃない。…真都だ」 「一緒だよ。真都を裏切るのは…俺達を裏切るって事だ」 「違うんだよ!!!俺は、助けたいんだ!!!お前達の事も!!!」 「俺は…俺は…」 言葉が…続かない。 俺は…どうしたいんだ。 良知君に…助けて、欲しいのか? それとも…真都の為に、良知君と戦わなくてはいけないのか? わからない…わからない… 『君だって本当は辛いんだよね』 屋良の言葉が頭をグルグルと回る。 俺は…俺は… 辛いのだろうか… 一体…何が辛いんだろう… 頭痛が…もうずっと…とれない。 徐々に痛みを増す。 こめかみを思いきり押え俯く。 もう…どうしていいのかも… 何を、するべきなのかも… 何故…生きているのかさえも… 何もかも…わからない… 「…島田?」 心配そうな良知君の声。 その声に答えようと、不図頭を上げた瞬間。 突如、頭の中に別の人間の波動が流れこんできた。 それは物凄い勢いで脳と心を蝕んでいく。 言い様の無い深い哀しみ、そして不安、憐れみ。 それらの思考がドロドロに渦巻いている。 その意識はすぐに自分の意識にすりかわり精神に襲いかかってくる。 「うわぁ!」 思わず頭を抱えて蹲る。 耐えることの出来ない苦痛。 「島田、どうした!」 石田が叫ぶ。 答えようにも心臓を握り潰されているかのような息苦しさに声がでない。 「島田ぁ!」 萩原の声が聞こえた。 だが、その声を最後に…世界は静寂に包まれた。 何も…聞こえない。 自分の心音が急速に加速しているのだけがわかる。 「うぁぁぁッ!!!!!」 突然激痛が走った。 そして…その瞬間…。 全ての音が停止した。 何も聞こえない。 何も見えない。 そして… 俺の中で… 何かが…壊れた ********** 26話です 大変長らくお待たせ致しました。 何とか26話をUP致しました。 痛いです。えぇ、痛いです。予定とちょっと違ってますが、後半の島田さんが壊れる部分が書きとめてあった場所なので、そこに繋げる為に何とか頑張りました。 さて、島田さんを破壊してしまった感情は誰のものなのか(バレバレって話もある・苦笑)。 27話に続きます。えぇ、まだまだ続きます。 かなりな長編になってきたぞ(苦笑)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |