NO25

目を醒ますと薄暗いホテルの天井が見えた。
どうやら、しばらく眠っていたらしい。
横を向くと、俺の視線に気がついた萩原が駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
心配そうな顔に、思わず笑みがこぼれた。
「大丈夫だよ、お前のおかげで。それより…お前こそ大丈夫なのか?」
全員、かなりのダメージを受けていた。あれを一人で治したとなると、かなりの力を消耗したのが安易に想像できた。
「うん。もう大丈夫。ゆっくり寝たし」
ニッコリと笑う萩原の後ろから、石田と良知君が覗き込んできた。
「島田、起きたのか?」
「大丈夫なのか?」
二人に頷いてみせ、俺は上体を起した。
「油断…しすぎてた」
「確かに…あれほどの力とは思わなかった」
石田が肩をすくめる。
「次は必ず…」
そこまで言葉にして、俺は不図考えた。
必ず…どうしたいのか。
頭の中がごちゃごちゃしていて、よくわからない。
「島田?大丈夫か?」
良知君に問われ、顔を上げる。
良知君と目が合う。
その瞬間、無意識に出てきた言葉。
「良知君は…俺達の、味方だよね?」
自分でも意味のわからない問いかけに、良知君は少しビックリした表情を見せたが、すぐに深く頷いた。
「もちろん…仲間じゃないか」
++ ++ ++
…声が聞こえる。
「屋良っち、大丈夫かな?」
「魘されている様子はないし…多分、今はぐっすり眠ってるんじゃないかな」
「やっぱり、屋良っちだけに負担がかかるのは危険だよ」
…何の話をしているんだろう。
何が、あったんだっけ…
あぁ、そうか。追撃者が来たんだ。
それで…よっくんと誠君が倒れて…
その後、僕は…
僕は…
目を開けた。
真っ暗な世界から光射す世界へと戻ってきた。…戻ってくることが出来た。
「屋良っち!!!」
よっくんが駆け寄ってくる。
「…よっくん。大丈夫なの?」
あの時、よっくんも誠君も、もう動かないんじゃないかって思うほどグッタリと倒れてて…
「大丈夫。軽い脳震盪起しただけだから。それより、屋良っち、大丈夫?」
「…僕、が?なんで?」
「力、出しすぎて気を失ったんだよ。町田さんが安定剤を打ってくれたんだ」
「そう、なの?」
慎吾の方を見ると、慎吾がコクっと頷いてた。
「薬、打とうと思ったんだけど…朝幸、アナフィラキシーみたいだから、安定剤で押えるしかなかったんだ」
「アナフィラキシー?」
「極度のアレルギーみたいな感じかな。酷い場合、命に関わるからね。気をつけないと。朝幸はほとんどの薬に対して、過敏に反応するみたいだ」
「…よく、わかんないや」
口を尖らせた僕に、慎吾は微笑んで続けた。
「とにかく、朝幸は僕が出す薬以外は口にしちゃだめだよって事」
「…わかった。慎吾がくれたのしか飲まないよ」
「いい子だ」
ニッコリと笑って頭を撫でてくれる慎吾に向かって呟いた。
「家、壊れちゃったね」
「そうだね、でも壊れたのは半分くらいだから。住める場所は残ってるよ」
だから、大丈夫。
そう言って慎吾は笑う。
「…あいつ等、また来るかな?」
尋ねた僕に
「来るよ…きっと。どこにいても見つけだすって言ってたから…」
「どこに、いても?」
「そう、向こうにはリモートビューイングの能力をもった子がいるみたいだ」
だから…
「逃げても、無駄なんだ」
慎吾の言葉に、全員が息を呑んだ。
「すぐにでも…彼らはやってくる。だから、このまま、ここで待とう。戦うしか…道はないんだ」
覚悟を決めた慎吾の言葉。
僕は決心した。例え僕が壊れても…皆を助けてみせる。
++ ++ ++
「さて、島田も起きた事だし。行こうか」
石田の言葉に、俺は頷きながらも、少し考え込んだ。
果たして、このままもう1度乗り込んでも大丈夫だろうか。
作戦を考えた方がいいのだろうか。
だが…作戦を立てたところで、彼らの…いや、屋良の力に対抗なんて出来るのか。
「…よし、行こう」
ゆっくりと立ちあがる。
考えても無駄だ。ただ、戦えばいい。それしかないのだ。
不図良知君を見た。
言いようの無い奇妙な感覚を覚える。
「良知君…俺を…俺達を…見捨てないで」
何故だか零れ落ちた言葉。
良知君は眼を少し見開いたが、深く頷いた。
少し…安堵する。
何故、自分でも良知君にこんなにもすがるような言葉を告げてしまうのかはわからなかった。
ただ、漠然と良知君が自分の傍から離れてしまうような気がしたのだ。
「早く、行こうぜ」
石田の声に、我に返る。頷いて、ドアをあけた。
何故か…いつもより重く感じられたドアをあけ、歩き出した。
また戦う為に…
++ ++ ++
僕らは、ただ黙っていた。
少しずつ早くなる心音は、また追撃者が近づいてる事を僕に教えていた。
僕には、別にそんな能力があるわけではなく…ただ、嫌な予感がする…ただそれだけなのだけど。
皆も多分同じなんだと思う。口を開こうとする人は誰もいなかった。
もし…今度彼らと戦う事になって、僕の力が制御不能になったとしたら。
僕は、どうなるのだろう。
オーバードライブ。
研究所で言われた事を思い出す。
僕らは、力を使いすぎると死んでしまうかもしれない、と。
だから、必ず薬を飲むようにって。
けど、戦わなければ…皆、またあの研究所に…真都に戻る事になる。
そんな事は耐えられない。皆がまた苦しむくらいなら…
僕は、僕の全てをかけて彼らと戦おう。
たとえ、この身体が朽ち果ててしまっても。

トクン…
来る…
トクントクン…
わかる。何故か、僕にはわかる。
トクントクントクン…
共鳴している…彼の…心音と。
ドクッ…
彼も…気づいているのだろうか。
ドクッドクッ…
もう…すぐそこにいる。
ドクッドクッドクッ…
そう…目の前まで…

「皆!!!来るッ!!!」
僕の叫び声に全員が立ちあがった。
同時に崩れ落ちた壁の瓦礫を超え現れた人影。
「今度こそ、逃がさない」
射貫くような視線。その心臓は悲鳴をあげそうな程早い。
そう、僕と同じだ。
「絶対に…負けない」
見返した僕に、彼は少し眉を潜め、そしてニヤリと笑った。
「それは…どうかな?」
瞬間、彼の手から放たれた力は僕の心臓を直撃した。
「ウ…ッ」
崩れ落ちた僕の頭上で、彼の声がする。
「耳障りなんですよ。あなたの心音が」




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25話です
結局お待たせしてしまいました。
しかも、途中でぶつ切り状態ですいません(汗)。
予定してた話には全く辿りついておりません(爆)。
次回で書きます。
ちなみに、そろそろまたすずっくん達も出したいなぁと。
彼らにも頑張ってもらいます。
…っていうか、私が頑張れって感じ(死)。

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