NO32

「どうする?」
石田の言葉に、萩原はゆっくりと顔を上げた。
3人の為に準備してもらった部屋。
良知は今、町田と話をしに行っている。
部屋には、石田と萩原だけだった。
「な、に?」
少し、空ろな萩原の目を見て、石田は少しだけ溜息をついた。
「大丈夫かよ、」
「…僕?何で?」
「わかってねぇなら、いい」
そう言って、石田はもう一度尋ねる。
「どうする?」
「…どちらにつくか、って事?」
聞き返してきた萩原に、石田はコクっと頷いた。
「俺は…まだ、何も考えられねぇんだよ。何だか、何が何だかわかんねぇ感じ」
その言葉に、萩原も頷く。
「そうだよね、急に言われても、一度に理解は出来ないよ…」
それに…
「島田の事だってあるし」
そこまで言って、萩原は口を閉ざした。
「でも…あと2日しかない。彼等と、戦うか。それとも手を組むか。正直なところ、俺は彼等と…って言うよりも、この先、良知君と戦っていくかどうかって事が重要なんだよな」
石田が溜息をついた。
確かにそうだった。
彼等と戦う事になれば、良知君とは敵、という事になってしまう。
「それは…嫌だな」
呟いた萩原に
「けどさ、良知君は完全に彼等と一緒に戦う気持ちが固まってるじゃないか。だとしたら…」
石田は言葉を呑んだ。
「とにかく…今日は、考えられないよ」
萩原が、消え入るような声で告げた。
「そ…うだな。ゴメン…」
謝ると、石田はソファに蹲った。
暫くすると、寝息が聞こえてくる。
「石田君…寝ちゃった?」
返事はない。
萩原は暫く天井を見つめていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。
石田を起こさないように静かにドアを開け、階段を下りる。
そして、ある部屋の前に立ち止まった。
「…島田」
返事があるわけがない。
それはよくわかっていた。
それでも、なお名前を呼び続けたい衝動に駆られる。
「どうしたの?」
後ろから突然声をかけられ、ビクっと肩を震わせた。
「あ、あの…」
振り向くと、そこには柔らかい笑顔の町田が立っていた。
言葉の続かない萩原に、町田はあぁ、と頷いて
「逢いに、きたの?」
と尋ねた。
コクっと頷くと
「そっか。じゃあ、入ろう」
とドアを開けてくれた。
「あ、あの!!」
町田に呼びかけると、
「僕もね、毎日逢いに来るんだよ」
と笑って、どうぞ、と中へ通してくれた。
目の前に飛び込んできたのは、眠り続けている島田の姿。
「島田…」
呆然と立ち竦む萩原の肩に、町田の手が置かれた。
「例え、言葉が返ってこなくても…声が聞こえなくても。まだ、気持ちは繋がってるって信じるんだ」
「…気持ち?」
「そう。今は、眠りについているけど、いつか必ず僕の居る世界へ帰ってきてくれる。そう信じるんだ」
僕は…ずっと、そう信じてる。
その言葉に、萩原はコクっと頷き、島田へと近づく。
傍らに膝をついて座ると、島田の手を握った。
温かい手。血の通っている、温かさ。
生きてる。
島田は、生きてる。
「島田…島田…」
自然と溢れる涙。
その雫は、島田の手を濡らしていく。
「待ってるから…目が覚めるの、ずっと待ってるから」
そう言って、萩原は繋いだ手に額を寄せた。
「真都はね」
町田が言う。
「大野を…朝幸達を、人間として見ていなかった。彼等は、実験材料だった」
萩原はゆっくりと顔を上げた。
「僕等だってそうだ。僕等は君達を作り上げる為だけの道具だった」
「…僕等も、」
声を詰まらせた萩原の頭を、町田は優しく撫でる。
「だから、僕等は真都から逃げ出したんだ。人間として、生きていく為に」
「人間として…」
「でも…逃げているだけじゃダメだ。人間として、生きる為に…僕等は、戦わなくちゃいけない。本当の自由を手にする為に…そして、彼等を助けるためにも」
そう言って、町田は大野と島田を見た。
「…助かる、かな」
尋ねる萩原に、町田は力強く頷いた。
「助けてみせる。絶対に」
射抜くように強い眼差しに、萩原はとにかく縋りたい気持ちだった。
真都の事や、彼等の事は、まだ何も考えられないし、よくわからない状態だけれど。
今、確実に言える事が一つだけある。
それは…
島田を助けてくれるのは…真都ではない。
そう、それだけははっきりとわかった。
町田の目が、全てを物語っていた。
もう一度、島田を見る。
何の感情もない、無機質な寝顔。
「僕…どうしたらいい?」
問いかけても、返事は返ってくるはずがない。
それに…
その問いかけの答えは、萩原自身がもうわかっていた。

戦うしか、ない

そう。
戦うしかないのだ。
萩原が生きていくために。
萩原にとって、彼の存在が全てだから。
唯一の存在を守るために。
戦うしかない。



僕に出来る全てをかけて…
島田を 助けたいから…










**********
32話です
あぁ、また全然展開遅いし(滝汗)。
でも、何とか更新。
さぁ!!!ゆっちんは戦う意思を固めましたのvv
あとはいっちゃんを残すだけ。
そして、タイムリミットはもうわずか!!!
それにしても、今回、登場人物少ねぇ(爆)

≪≪TOP                       ≪≪BACK       NEXT≫≫