NO33 町田に促されるように部屋を出た萩原は、石田の元へと急いだ。 伝えたかった。自分が、どうしたいのかを。 島田のために、どうするべきなのかを。 部屋のドアを開けると、良知が戻ってきていた。 「…話が、あるんだ」 萩原はドアを後ろ手で閉めながら告げた。 「僕等も、話がある」 良知がいつになく厳しい表情をしている。 「話…?」 尋ねると、良知に「先にいいよ」と促され、萩原は大きく息を吸った。 「僕…戦おうと思う」 「…どっちと?」 良知の言葉に、萩原は良知の目を真っ直ぐに見据え、告げた。 「…真都と、戦おうと思う」 少しの沈黙が流れた。 そして、先にその静寂を破ったのは良知だった。 「偉いね、萩原。島田が居なくても、ちゃんと意思を伝える事が出来るようになったじゃない」 ニッコリと笑う良知に、萩原の目に涙が溢れた。 「違うよ…僕はまた島田に決めてもらったんだ。だって、今島田と逢って…逢うまで、決めれなかった。けど、島田を見て…助けなきゃって。助けるには…助けてくれるのは真都じゃないって思って…」 「十分、自分の意思で考えてんじゃん、萩原」 石田が呟き、 「俺のが全然ダメだなぁ」 と苦笑した。 「石田君?」 萩原は何の事かわからず顔を上げる。 「俺さぁ、全然どうしていいかわかんなくて。けどさ、どうしても良知君と戦いたくなかったんだ」 だから、 「俺も真都と戦う事にした。全然ちゃんとした意思とか何もないし、イマイチ真都のやってる事とかもまだしっかり理解しきれてないけど…俺は、良知君と戦いたくない。だから、良知君と一緒に真都と戦うよ」 子供見たいだな、俺。 そう言って、石田は苦笑した。 「とにかく、全員が一緒に戦える事が出来るのが良かったよ。正直、二人が真都についたら…僕はどうしていいかわらかなかった」 「良知君…」 二人の呟きを遮るように良知は続けた。 「今日一日。戦いまで残された時間は24時間を切ってる。その間に、僕等は彼等と作戦を練って、真都との戦いに備えなきゃならない。失敗する事は許されないんだ。…島田の為にも」 良知の言葉に、二人は大きく頷いた。 ++ ++ ++ 「よぉ、熱心だな」 声に振り向くと、そこにはドアにもたれて、腕を組んで笑っている鈴木が立っていた。 「何だよ、珍しいな。お前が俺の部屋にくるなんて」 いつもは、鎌田が鈴木の研究室へ足を運ぶ事が多かった。 鈴木は、滅多に研究室から出歩かなかったのだ。 「たまにはな、お前の部屋でゆっくりと語り合うのもいいかと思ってな」 最後なわけだし。 そう、鈴木は笑った。 最後。 明日になれば、真都と争うことになる。 「なぁ、俺達はずいぶんと時間がかかってしまった気がするよ」 鈴木は、簡易ベッドにドサッと腰掛けて溜息をついた。 「仕方ないさ。開発に時間がかかった。あれを開発しない限り、行動する事は出来なかったからな」 言いながら、鎌田はコーヒーを落とす。 「開発自体、もっと早く出来たんじゃないかと、俺は思ってるんだよ」 鈴木の言葉に、鎌田は少し驚いた顔を向けた。 「どういう事だ?お前は毎日徹夜でデータを見比べては新薬の開発をしてたじゃないか。とても手を抜いていたとは思えない。だいたい、手を抜くなんて事が考えられないだろ」 怪訝そうな鎌田に、鈴木は少し自嘲めいた笑いを浮かべた。 「手を抜いてたわけじゃない。ただ…悩みはあった。その悩みが開発を無意識に遅らせたのかもしれない」 「悩み?」 「勝てるのか。ただ、それだけだ。果たして、この巨大な都市に、俺達が立ち向かったところで、勝つ事が出来るのか。勝てなかったら…俺達は、町田や大野・・・そして、屋良達はどうなるのか。そう思ったら不安でしょうがなかったんだ。おかげで研究に集中できなかった」 馬鹿みたいだろ? 苦笑した鈴木に、鎌田はコーヒーを差し出しながら告げた。 「悩まない方がおかしいさ。それだけ、すごい事をお前はやろうとしたんだからな」 「俺達は…だろ?」 笑う鈴木に、鎌田は苦笑した。 「俺は、言われたとおりに手伝っただけだけどな」 そして、鈴木の隣に座り、問いかけた。 「で、悩みは解消したか?」 鈴木は小さく頷き、コーヒーを口へ運ぶ。 「勝てる、勝てないの問題じゃないって事に気付いたよ。結果はどうであれ、俺達はやらなきゃいけない。俺達の為だけじゃない。この先、研究の犠牲にされるかもしれない人たちのために。そして、真都が支配しようとしている日本…いや、世界の為にも。これは、もう僕等個人的な感情の問題じゃないって事に気がついた。…て、カッコつけたところで、基本的には俺は町田と大野を助ける事が出来ればそれでいい。そして、屋良達も。ただ、それだけでいいんだ」 何、言ってんのかわかんなくなってきたな。 呟き、またコーヒーを口にする。 「勝てなかったら…俺達はどうなるんだろうな」 鎌田の呟きに、鈴木はニヤリと笑う。 「勝つさ。俺達は絶対に勝つ。負ける気はない」 「…悩んでた男の言う台詞じゃねぇな」 笑う鎌田に、鈴木は大声で笑った。 「しょうがないさ。気がついちゃったしな」 「何に?」 「俺が…極度の負けず嫌いだって事に」 鎌田を見て、鈴木は笑う。 もしかしたら、こんな風に二人で笑う事も、もう出来ないかもしれない。 不安は、二人とも感じていた。 それでも、あえて口に出さず普通に過ごしたかったのだ。 もう、時間がない。 真都に逆らって…自分達は生き延びれるのか。 戦いが終わるまで、真都の追っ手から逃げ通せるのか。 何度も、何人も真都から逃亡させる手助けをしてきた。 今度は…自分達が逃亡者となるのだ。 ********** 33話です いや、遅いですね。 更新も遅ければ、展開も遅い。 つーか、久しぶりの逃亡者で、ちょっと感覚が鈍ってしまいましたので、一応今回はウォーミングアップという事で(何)。 久しぶりのすずっくんと鎌田さん。あぁ、好きだわすずっくん(笑)。 今回、気がつけば、慎吾も朝幸も出てきてないのよね〜。 やっと、次回は戦いに入ります。 全員で真都と戦う事になります。 って事で、あと10話もしないうちに、逃亡者は完結すると思う…んだけど、どうかなぁ〜(苦笑)。 思えば、私の連載の中でも、かなりの長編になってますよね。ここまでくると愛着が沸いちゃって(笑)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |