第一幕 +++++++++++++++++ 平気。 全然平気。 だって、僕にはこんなの当たり前だし。 それに、彼等も一緒だ。 太陽の下で白昼夢を見る。 そうすれば、一日が終わってる。 そう、全然平気だよ。 終わりのない未来なんて、全く持って怖くもない。 …吐き気がするほどね。 +++++++++++++++++ 私の名前は傀儡(かいらい)。 名前というのは正確ではないね。 種類であって名前ではない。 名前、それは今はないんだ。 魂が吹き込まれ、初めて名前がよみがえる。 私に魂を吹き込んでくれる誰か。 自らの魂を分け与えてくれる誰かを、ずっと待ち続けている。 太陽の下で白昼夢を見る… そんな夢を、闇の中で描きながら。 +++++++++++++++++ 「さて、と」 店の扉を開け、ぶら下がったプレートを表に向ける。 古臭いプレートには、「開店中」と書かれている。 その店は、街中から少し外れたところに構えており、古臭いプレート同様、建物も今にも壊れそうに古臭かった。 しかし、綺麗好きな性格の主人のおかげで、中に入るとそれは綺麗な内装で、見るものを驚愕させていた。 だが…一つ不可思議な事に、この店には看板がない。 何の店なのかが何処を見てもわからない。 それでも、お客は尋ねてくる。 耳伝え、口伝え。 噂によって、人々の意識に入り込む。 不思議なお店。 「今日は、誰か来るかな」 独り言のように呟き、この店の主は定位置である机に向かって座る。 窓から差し込む日差しの眩しさに少し目を細めていたら、ギーっとドアの開く音がした。 「立て付けが悪くなってるみたいだな」 呟き、ドアの方を向くと、不安げに顔を覗かせている少年がいた。 「いらっしゃい。そんなに怖がらなくても大丈夫。取って食ったりしないから」 おいでおいで、と手招きすると、少年は少し頭を下げて恐る恐る近寄ってきた。 「座りなよ」 目で促すと、少年はまた怯えたように周りを見渡しながら腰を下ろす。 「何をそんなに怯えてんだよ」 苦笑する主に向かって、少年はやっと声をだした。 「なんか…聞いた話によると、とっても怖いって」 「怖い?それ、誰から聞いたの?かなり間違ってるけど」 身を乗り出して、顔を近づけると、少年は転げ落ちそうな程のけぞった。 「だから、取って食ったりしないって」 笑って、身体を引く。 「で、名前は?」 尋ねると、少年の眼はまたおどおどし始めた。 「…あぁ、こっちも名乗ってないよな」 そう言って、主は右手を差し出し笑う。 「坂本。坂本昌行。よろしくな」 すると少年はゆっくりと右手を差し出し、小さく名前を告げた。 「…あの、町田慎吾です」 「町田君、ね。で、どんな用なの?」 ん?と首を傾げると、町田は一度俯き、そして勢いよく顔を上げた。 「あの…僕…友達に、なりたいんです」 「え?いきなりそんな事言われてもね…」 「や、あの…坂本さんとじゃなくて」 「あぁ、俺じゃないのね。誰と?」 「あの…屋良君って言うんですけど…僕より年下なんだけど、学校中の人気者で…僕とは、全然正反対なんだけど、いつも元気で笑顔で…元気になれるんだ」 口元が少し綻んだ町田の顔を坂本は覗き込む。 「じゃあ、友達になればいいじゃない。ここ、くる必要ないでしょ?」 「…なれないんです」 急に沈んだ顔の町田。 「なんで?」 「僕…見ての通り、臆病で…怖がりで…全然いいとこないし…友達、いないし…だから、彼は僕の事なんて」 そこまでいって、すっかり涙目になって下を向いてしまった町田。 坂本はよしよし、と頭を撫でながら言った。 「そんな、友達のいない町田君が、誰にこの場所を聞いてきたのかなぁ?」 出来るだけ優しく聞いたつもりだったが、言葉がストレートすぎたのか、町田はさらに涙を浮かべた。 「あぁ!!!ゴメンゴメン。俺、こういうとこ、まだ上手くなくって…」 慌てて謝る坂本に 「まだ?」 と反応する町田。 「や、なんでも。で、答えてもらえる?」 「…はい。同じく、友達の全く居なかった帰国子女の秋山君って子が居たんですけど…僕の唯一の友達だったんですけど…急に積極的になって、明るくなって。一気に人気者になったんです。だから、何があったの?って聞いたら、ココを教えてくれて…」 「あぁ!!!覚えてる覚えてる!!!秋山ね!!!居た居た!!!」 何故かお腹を抱えて笑い出す坂本。 「な、なんですか!!」 怯えて町田が尋ねると 「あぁ、ゴメン!!!思い出しちゃって!!!アイツ、すげーリアルなヤツだったよなぁ〜」 涙を浮かべて笑う坂本に、町田は少し声を大きくした。 「あ、あの!!!」 「あ、ゴメン。で、彼と同じように積極的になって、明るくなりたい、と」 「そうなんです。そして、屋良君と仲良くなって…」 「仲良くなって…?」 「サッカー、一緒にやりたいんです」 「サッカー?」 「はい、僕、サッカー大好きで…屋良君もサッカーやるんです。だから、一緒に…」 そこまで言ったとき、坂本が机をバンっと叩いた。 「よし!!!わかった。じゃあ、契約しよう」 「…契約?」 「…あれ?聞いてきたんじゃないの?秋山に」 「不思議なお店があるって…」 「それだけ?」 「怖いけど…夢が叶うって…」 「…あらら、かなり間違った情報だな、それは」 坂本は肩をすくめた。 「ち、違うんですか!!」 オドオドする町田に 「説明するよ。落ち着いて」 そう言って、坂本は立ち上がった。 常人よりも数段長い足で大またに古びた大きな箱へと近づく。 その箱は数個並んでおり、その内の一番手前にある箱の上に、その長い足を組んで座った。 「この店の名は傀儡。ま、かいらいでもくぐつでもどっちでもいいんだけどさ、時代に合わせて最近じゃあ「かいらい」って事になってる」 「はぁ…」 「ま、一言で言えば、望む人に傀儡を貸し与える店だ。秋山が性格が一変したのは、傀儡を繰る事により、己の内面、魂が磨かれ色を変えるといわれているからだろう。ま、その逆もしかり、だけどな」 そう言って、坂本は組んだ足に肘をつき、頬を乗せた。 「ただ、一つ。契約を行わなければ、傀儡を渡すわけにはいかない」 「…契約?」 「そう、契約。うちの傀儡はただ持っていればいいわけじゃない。ただの操り人形でもない。人形に魂を吹き込むのさ」 「魂…」 「自分の魂を少し、傀儡に与える。そうする事で、傀儡は生きてるように動き、話をする」 「まさか!!」 「嘘じゃないさ。だから、傀儡を手に入れるには、君の魂が必要だ、という事だ」 「…死ぬ、って事?」 泣きそうな町田に、坂本は笑って答えた。 「死にはしないよ。少し寿命が短くなる。ただ、絶対に願いがかなうとは限らない。それでも、契約するなら、最高1年、うちの傀儡を貸し出ししよう。1年が限度だ。その間、傀儡の中の魂が切れる度に少しずつ魂を吹き込まなきゃいけないからな、普通の人間には1年が限度だ」 「…本当、なんですか?」 「疑い深いなぁ〜。簡単に言えば、悪魔との契約みたいなものさ」 町田の耳元で、坂本が囁く。 すると、店の二階から人が降りてきた。 「…全く、変な例え方しないでよ」 柔らかい笑顔のその人は、町田に「こんにちは」と挨拶すると、坂本へと近づいた。 「確かに、ここ数日の主人代理を頼んだけどね、そんなに偉そうにしていいなんて一言も言ってないんだけどね」 不敵な笑みを浮かべ、坂本の耳元へと口を寄せる。 「うわッ!!!止せって!!!!」 慌てて逃げようとする坂本の手を掴み、耳元へ寄せた口から軽く息を吸う。 すると、坂本の耳から、白い霧のようなものが抜け出て、その男の口へと入っていった。 瞬間、男の手に支えられた坂本の体がカクンっと崩れ落ちた。 「え!!!」 町田が驚きのあまり椅子から立ち上がると、男は「失礼」といって、また笑顔を向ける。 「すいません、驚かせてしまって。長野って言います。長野博。よろしく」 空いた手を差し出す長野。 「はぁ…」 そう言って、町田もとりあえず、その手を取る。 「あの…坂本、さんは」 一体… 眼を丸くする町田に 「あれ、さっき、説明してましたよね?傀儡の事」 長野は不思議そうな顔をした。 「はぁ、聞きましたけど」 「じゃあ、聞くまでもないでしょ。彼は傀儡に戻ったんです」 「…は?」 「彼はね、僕の傀儡なんですよ。僕は、傀儡師なんです。魂を入れたり抜いたり想いのまま。しかも、僕は、傀儡師として、彼と共に生き続けていかなくてはいけないので、死ぬ事も出来ない。全く嫌な役目を負ったものです」 そう苦笑する。 「…え?」 「あ、どうでもいい話しちゃいましたね。で、どうします?」 「…何が、ですか?」 わけがわからない、といった顔で長野を見つめる町田に、再度微笑む。 「契約、ですよ。二階でちょっと聞いてたんですけどね?どうします?しますか?契約」 詰め寄られて、町田は考えるまもなく頷いていた。 「良かった。じゃあ、あなたにぴったりの傀儡をお貸ししましょう」 そう言って、長野は先ほど坂本が座っていた箱を開けた。 中には大きな籠が入っている。 「さて…久しぶりだな」 そう呟いてから、長野は籠を開けた。 「この籠ね、莎草から編んだんですよ。これね、ずっと昔の方法で。今は大抵人形箱に入れてるんだけど、僕、昔ながらの保管方法になれてて…ほら、伊達に長く生きてないもんですから」 そういいながら、籠から傀儡を取り出す。 まるで、本物の人間のような作り。 町田は思わず息を飲んだ。 「さぁ、魂を入れてください。そうすれば、契約は執行されます」 怯えながらも、ゆっくりと近づき、先ほどの長野のように、耳元に口を当てる。 「息を、吹き込めばいいから」 言葉どおり、ゆっくりと息を吐く。 すると、傀儡の耳に白い霧のようなものが吸い込まれていき… 肌に血の気が通い、頬が上気した。 睫が微かにゆれ、ゆっくりとまぶたを開ける。 「さぁ、町田さん。これが、あなたの為の傀儡です」 長野の声が遠くに感じる。 それほど、町田の目の前に繰り広げられる光景は衝撃的だった。 眼を開けた傀儡は、ゆっくりと町田を見る。 そして、ゆっくりと口が開いた。 「よろしく、俺…森田剛」 ********** きゃ〜!!!書いちゃいました!!!書いちゃいましたよ!!! ずっとずっとこのテーマで書きたいと思ってたんです!!! で、どうせ書くなら総出演か?とか思って(笑)。 とりあえず、VとMAしか今のトコ出てないので、UNLIMITEDとLBのみで連載ですが、きっとこれから、他サイトでも連載する事になります!!登場人物もいっぱい考えてるんだ〜♪ 楽しいvvずっと書きたかったものなのでかなり嬉しいvv 本当は、機械人形やっちゃったから、しばらく書くのやめとこうと思ってたんだけど、浮かんだらねぇ…やっぱり書かないと(笑)。 で、勢いで書いたから、まだ全然準備不足で(苦笑)。TOPページとかもちゃんと作れてないんだけど、それは後からという事で。とにかくさっさとUPしたかったんだもん(笑)。 ≪≪TOP NEXT≫≫ |