++第10話++ 「ただいま」 良知がドアを開けると、3人がくつろいでお茶を飲んでいる姿があった。 「おかえりなさい」 良知の姿を見て、幸人は立ち上がり、良知の上着を受け取りハンガーにかけ、カバンを持った。 「幸人、お茶を入れてくれないかな?」 「えっと…4人分?」 小首をかしげた幸人に、良知は首を振って、笑った。 「いや、5人分」 その言葉に、幸人はニコっと笑うと 「お客様、だね?」 と尋ねた。 「そう。大事なお客様だから。幸人の淹れる美味しいお茶でおもてなしして欲しいんだ」 良知の言葉に、幸人は大きく頷き 「今、入れてきますね」 と、良知のカバンを机に置き、急いで部屋を出て行った。 「へぇ〜。形だけのお手伝いさんなのかと思ったら、ちゃんとしたお手伝いさんなんだね」 後ろから来ていた町田が呟く。 「まぁ、ちゃんとしてるかどうかは別だけどな」 その更に後ろで島田が呟いた。 「島田はすぐそうやって言うんだから…」 良知は苦笑し、屋良の方へ視線をやった。 「屋良さん、お連れしましたよ。米花さんです」 そう告げて、「どうぞ」と米花を中へと促す。 「………」 無言で怯えた眼で米花を見る屋良に 「よ、久しぶりじゃん」 とぶっきらぼうに言う米花。 「さぁ、そちらにどうぞ」 屋良の前へ米花を座らせる。 「ラッチ。ちょっと」 大野に呼ばれ、近づく。 「何ですか?」 「あのね、屋良っちね…」 と、小声で、屋良が何か言われた事を気にしている事を良知に告げる。 「う〜ん、そうか…その言葉が鍵を握っているんだろうか」 唇に人差し指を当て、少し考え込む良知。 「あのさ〜俺、どうすればいいわけ?」 後ろから米花の声がして、慌てて振り向く。 「あぁ、すいません。少し、お聞きしたい事があるんです。屋良さんも一緒に」 よろしいですか? と、良知は屋良の隣に座った。 そこへ… 「お待たせしました〜!!!いつもいつも紅茶じゃ〜芸がないので、今度はお抹茶にしました〜vv美味しく点てさせて頂きました♪」 そう言って、お茶を配ってあるく幸人。 「なんと!!お客様にはお茶菓子つき!!」 屋良と米花の前に、お茶菓子を置き、幸人はニコニコと米花の隣に座った。 「おい…」 同時にかかる島田の声。 「何?」 キョトンと島田を見る幸人。 「お前、そこ座るのは違うだろ」 「え?なんで??」 「お前はお手伝いなわけ。そこに座る立場じゃないだろ」 そう言って、島田は幸人の腕を引っ張り、空いた場所に自分が座った。 「ずるい!!島田ずるいよ!!!」 「五月蠅いよ。俺は、良知君の助手なんだからいいんだよ、此処に座っても」 そう言って、足を組み、幸人を見上げてニヤリと笑ってみせた。 「…酷い!!」 むくれる幸人を大野と町田がなだめる中、良知は米花に問いかけた。 「あの、屋良さんとの喧嘩を思い出して頂きたいんですが、最後に、何かおっしゃいましたよね?決定的な言葉になるであろう事を」 「最後?」 米花はちょっと考え込み 「や、別に…さっき話したような事しか言ってないと思うけど」 その答えに、良知はウンウンと頷き、屋良に向かって尋ねた。 「屋良さんが言われたという言葉は、「女みたい」とか「小さい」とかではないんですね?」 その問いに、コクっと頷く屋良。 「…米花さんは、立ち去るときに、その言葉をおっしゃったんですね?」 コクコクっと頷く屋良。 「俺が何て言ったって?」 米花が身を乗り出して屋良に問いかける。 思わず身を引く屋良。 「なんだよ!逃げんなよ!!」 叫ぶ米花に 「まぁまぁ、屋良さんは今、気持ち的に怯えていらっしゃるんですから…」 となだめる良知。 その横で、 「ヨネが急に近づいたらそりゃちょっとビックリするよね〜」 「だって外人なのじゃ〜」 と会話している大野と町田。 「ちょっと!!そこの二人!!!聞こえてるから!!!」 米花が立ち上がって二人を指差す。 「「ごめんなさ〜い」」 声をそろえる二人に、米花は 「いっつもあぁなんだよな、あの二人は」 久しぶりに会ったけど、全然変わってねぇよ… とぼやいて見せてから、屋良に視線を戻す。 「で、俺がなんて言ったって?」 その言葉に、屋良は俯き、横に首を振った。 「覚えて、いないらしいんです」 かわりに良知が答える。 「覚えてないって…じゃあ、言ったかどうかもわかんないじゃん」 呆れた米花に大野が口を挟んだ。 「でも、屋良っちは何かを言われた事は覚えてるのじゃ。それがなんだったのかが思い出せないのじゃ」 「そんな事、俺に言われてもさ〜」 米花が不満を口にしようとしたとき、島田が隣で米花の言葉を区切る。 「思い出せば、声は戻るかもしれないって事?」 島田の言葉は良知への問いかけだった。 「その可能性が高いと思う。きっと、それが原因で声が出なくなったから、記憶からも抹消してしまったのかも」 その言葉に、町田が「あッ」と声を上げた。 「僕の時と一緒だ!!」 「そう、町田さんと同じように。声を失ってしまうほどの衝撃を受けた言葉だからこそ、記憶が蓋をしてしまっているのかも」 「だったら、それを思い出したら余計酷い事になったりしないの?」 石田が不図疑問をなげる。 「酷い事?」 幸人が首を傾げる。 「うん。だってさ。声が出なくなっちゃうほど辛かったんでしょ?で、それを忘れ去ってしまったんでしょ?町田さんみたいにさ、笑える勘違いだったらいいけどさ、本当に辛い事なら思い出しちゃったら、またその辛さが蘇ってきちゃうんじゃないの?」 「ちょっと!!!僕のは笑えるってどういう事!!!」 プクっとふくれてみせる町田に大野が笑う。 「だって、ホントに大笑いだったのじゃ」 ポンポンと背中を叩かれ、町田は「なんだよ…」といじけてみせる。 「まぁ、町田さんにとっては大問題だったんだから」 と、良知は前置きし、 「屋良さんの場合…確かに、その危険はあるかもしれない。でも…原因がわかれば対処のしようもあるかもしれない」 「そうだな。何もわからないで、このまま過ごすよりは、危険を承知でも試す価値はあるかもしれないよな」 島田も頷く。 と、良知たちの会話を聞きながら、すっかり怯えきってしまった屋良を見て、良知が慌てて取り成す。 「大丈夫です。危険とか言ってもそんな大げさな事では…」 と、フォローしかけたものの、良知自身も一体どんなものかもよくわからないので、いい加減な事は言えず、思わず黙ってしまう。 「………」 涙を浮かべた眼で屋良は良知を見る。 困ってしまって、二の句を告げずにいる良知のかわりに島田が言った。 「屋良さん、声戻したいんでしょ?」 コクっとまた頷く。 「だったら、勇気出さなきゃダメですよ」 まだウルウルした眼で、島田を見つめる屋良。 「そんな、小動物みたいな…」 と苦笑しながら、島田は続けた。 「米花さんも協力してくれるって言ってますから。僕等も力になります。支えますから。頑張って思い出しましょうよ」 その言葉に、米花は 「俺、協力するなんて一言も言った覚えねぇけど…」 と、ぼやくも 「ま、しょうがねぇな。俺も思い出してみるよ」 と言って、幸人の入れた抹茶を一気に飲み干した。 「ほら、屋良さん。あとは屋良さん次第ですよ?」 良知が促す。 暫く、島田と良知の間を屋良の涙交じりの視線が行ったり来たりした後… 屋良は決心したかのように大きく頷いた。 そして、紙に何かを書きはじめた。 覗き込むと、 「頑張ります。思い出してみます。力を貸してください。僕…強くなります!!」 と書かれていた。 「その意気です!!屋良さん、一緒に声を取り戻しましょう!!」 ニッコリと笑う良知に、屋良も少し笑顔を浮かべて頷き、幸人の淹れた抹茶を一口飲んで… 「………!!!」 ギュっと眼を瞑って訴えた。 「…苦いってさ」 横から町田が言う。 「町田さん…わかるの?」 「そりゃ、屋良っちと付き合い長いもの〜。屋良っちの事はだいたいわかるよ〜」 何故か胸を張って言う町田の横で、大野がポツリと言った。 「っていうか、慎吾は、自分が思った事言っただけじゃん」 苦くて飲めなかったくせに。 「ちょっと。大野!なんか言った?」 「何にも言ってませ〜ん」 「言ったでしょ!!違うからね!!僕が飲めなかったからって屋良っちに託けて言ったわけじゃないからね!!」 「はいはい〜」 「ちょっと!!!ホントだってば!!!何なら僕と屋良っちの付き合いの深さを証明する話を聞かせてあげようか??」 「聞きたくありませ〜ん」 その時、屋良がビクっと反応した。 「屋良さん??」 どうしました?? 良知が覗き込むと、屋良は少しコメカミを押さえて眉間にしわを寄せる。 「何か、思い出しそうなんですか?」 屋良は暫く眉間にしわを寄せたまま、考え込み… 紙に、書いた。 何かが…引っかかったんです…何かが… ********** 第10話です。 あれ、終わってない(汗)。 次回で、屋良っちの回は解決予定。 なんだか、ホントにどんな話にするつもりだったのかも忘れてしまって(爆)。 でも、更新しました!!頑張りました!(爆) << TOP << BACK NEXT >> |