++其の壱++ いつもと変わらない昼休み。 クラスの友人と何気ない会話を交わしながら、パンを頬張る萩原の耳に聞きなれた声が聞こえた。 「萩原、いる?」 教室を覗き込んだ島田は、窓際に萩原の姿を見つけると駆け寄ってくる。 「見つけたっ!!なぁ、萩原。ちょっと来いよ!!」 と、まだパンを頬張っている萩原の腕を掴んで無理やりひっぱる。 「ちょ、ちょっと待ってよ。どうしたの?しまっ…ゴホゴホ」 びっくりしてパンを喉に詰まらせて咳き込む萩原の背中を叩いてやりながら 「何やってんだよ。落ち着いて食えよ」 と少しあきれて言う。 …島田が突然引っ張るからいけないんじゃないか。 と思っていても口には出さない萩原であった。 「ところで、何?どうかしたの??」 なんとか食事を終わらせて島田に尋ねる。 「とにかくさ、一緒に来てよ」 有無を言わせない勢いで、島田は萩原を引っ張っていく。 こうなっては、ついて行くしかない。 これから楽しいお菓子タイムだったのに… 萩原は未練たっぷりに振り返って友人達に告げた。 「お菓子、僕の分とっといてね」 +++++++++ 萩原が連れてこられたのは資料室だった。 学校の今までの歴史等の記録から、果ては生徒の文集まで。とにかく学校にまつわる記録が全て保管されているといっても過言ではないだろう。 「資料室、がどうしたの?」 「いいから、ちょっと座ってろ」 そういうと、島田は奥へ行ってしまった。 仕方なく椅子に座って待っている、とドアの開く音がした。 「あれ?萩原じゃん」 名前を呼ばれて振り向くと、そこには先輩であり生徒会長の良知と、萩原と同じ1年の生徒会会計の石田がいた。 「あ、どうも」 軽く頭を下げる。 「萩原も島田に呼び出されたの?」 と、笑いながら隣に座る良知。 「え?じゃあ、良知君たちも」 先輩に対して、馴れ馴れしい呼び方だとは思うが、「先輩・会長」とつけると良知本人が嫌がるのだ。良知は、他の上級生と違って威張ったところがない。1年にして副会長になった萩原をいつも優しく面倒見てくれる。 書記の島田も含め、生徒会はとても居心地のいい場所だった。和やかな環境の中で自然と上下関係というものは存在しなくなっていた。 「生徒会役員ほぼ勢ぞろいだな」 何考えてんだ? 石田があくびをしながらつぶやく。 と、そこに 「あ、良知君達も来たんだ。早速だけど、見てよ、これ!!」 と、島田が差し出したのは2年前の生徒会の記録簿だった。 「…これ」 良知が困惑した顔でたずねる。 「この記録簿の、ココ。ほら」 島田の指差した個所には小さな字で 七不思議、封印 と書かれていた。 「七不思議??」 石田と萩原が声をそろえて叫ぶ。 「そう、七不思議だよ。ここ最近学校でも話題になってるじゃん」 島田が言うと、良知が驚いたように顔を上げる。 「…話題になってるって、まさか!!」 「良知君知らないの?1・2年の間では有名だよ?この学校の七不思議」 そういうと、島田は得意げに話し始めた。 四時四十四分の音楽室・赤く染まる実験室・足音の絶えない渡り廊下・花の咲かない桜の木・本が飛び交う図書室・時の止まった旧教室… 「で、最後の1つだけ誰も知らないんだ」 島田が言い終わると、石田が口を開いた。 「…でもさ、誰も知らないって事は6個しかないんじゃないの?」 そりゃ、もっともな意見だ。 と、萩原が何気なく考えていると興奮しているらしい島田が机を叩く。 「でも、こうしてここに七不思議ってあるじゃん!!!」 何をこんなにもりあがっているのだろう、この男は… と、思いつつ萩原が言った。 「でもさぁ、この七不思議と、1・2年で流行ってる「今のところ6不思議」とが同じだとは限らないじゃん」 島田は不適な笑みを浮かべて萩原に告げる。 「それがさ、3年の知り合いに聞いたんだよ。この年にも七不思議が流行ってたのかって。そしたら、同じなんだよ。6つは見事に一致してるんだ」 「じゃあ、7つ目も聞いてみればよかったじゃん」 先の見えない話にちょっと退屈してきた石田がつぶやいた。 「聞いたんだよ。そしたら、七不思議の7つ目は、知らなかったんだ」 「…だったら、やっぱり6不思議じゃない」 萩原は少し眠くなってきたらしい。話を切り上げようとしている。 「…違うんだよ。誰も知らなかったんじゃないんだ。知ってたんだよ…生徒会役員だけは」 そういって良知の方を見る。良知は一向に口を開こうとしない。 「この年、生徒会役員に2人の1年が入ってる。そのうちの一人、書記としてこの記録を残した1年は…良知君、だよね」 島田の言葉に石田も萩原も驚いて良知を見る。 黙っていた良知は「しかたない」という顔で話し始めた。 「そうだよ、それは俺が書いたんだ。まったく余計なもん見つけて…」 「7つ目の不思議ってなんなんですか?」 目を輝かせて聞く島田に、良知は申し訳なさそうに微笑んでみせた。 「俺にもよくわからないよ。確かに、2年前の七不思議は知ってる。でも、それはもう存在しないはずなんだ。だから、今のは違うものだと思う。俺にはなんで七不思議が復活してるか、の方が不思議なんだ」 「えっと…よくわかんないんだけど」 石田が言う。 「だいたい、ここに書いてある「七不思議・封印」ってどういう事ですか?」 「じゃあ、とりあえず2年前の出来事を話してあげるよ。放課後にな」 そういって良知が立ち上がると同時に予鈴がなる。 「あ、お昼休み終わっちゃった…」 お菓子を食べ損ねた萩原が寂しそうにつぶやいた。 ++++ 今回、SourireからLOVELY BABYに移行するにあたって、微妙に書き換えてます。多分わからない程度ですが、言い回しとかニュアンスとかが本当に微妙に改定してあります。ま、だからなんだって感じですけど(苦笑)。 少しだけ矛盾してた個所とかを訂正した感じですね。 TOP NEXT≫≫ |