++NO.13++

その日の一哉君はいつもと様子が違ってた。
「はぁ…」
開店前の掃除の途中、何度目か分からない溜息をつく。
「どうしたの?」
尋ねると、小さく首を振る。
「何でもないよ」
そう答えてはまた溜息。
「でもさぁ、変だよ?ずっと溜息ついてるし…」
すると、一哉君は少し押し黙ってから決心したように僕をみた。
「…あんな、僕…辞めよう思うてん」
寂しげに微笑む一哉君にビックリして問いかけた。
「やめるって…何を?」
「…ホスト」
「何で!!」
「僕には、向いてないんちゃうかなぁ…思うて」
「そんなことッ」
「ううん、自分でようわかってるし。僕には、幸人君みたいに才能ないんや」
「…僕だって、才能あるかなんてわかんないよ」
「幸人君はあるよ。せやけど、僕はないから…裏方の方が向いてる気ぃすんのや」
「そんな…だって、一緒に頑張ろうって…」
いってたじゃないッ。
一哉君に詰め寄ると、一哉君は小さな声で呟いた。
「…少し、疲れてしもうたんや」
ごめんな…幸人君。
少し潤んだ眼を伏せて一哉君は部屋から出ていった。
…大変!!!なんとかしなくっちゃ!!!
++ ++ ++
こういう事、相談するならやっぱり良知君だよねぇ…と思っていたのに…
「今日店長休みやって」
治樹君の声。
「え?ウソ」
驚く島田に
「なんだか、過労らしいですよ」
中村君が言う。
「マジで〜?俺、お見舞い行ってこようかなぁ」
呟く友一君に
「お前が行ったら五月蝿くて店長休めねぇって」
島田がボソっという。
「なんだよ〜。俺案外看病とか得意なんだけど。皆も風邪引いたら言ってよ。俺、お粥とか作っちゃうよ?」
張りきる友一君に
「いいから、オメェは自分の仕事しろ」
ほら、開店すんぞ。
と、皆をハケさせる島田。
島田って…しっかりしてるよなぁ。
それにしても…良知君休みかぁ。
相談したいけど、過労で休んでる良知君にあんまり心配はかけられない…。
う〜ん、と考え込んでいたら目の前に島田の顔が。
「何、ボーっとしてんだよ。お前も早く仕事につけって」
「う〜ん…」
「なんだよ、なんかあったのかよ」
「実は…」
僕は、周りに一哉君がいないのを確認して島田に耳打ちする。
「一哉君…やめるっていうんだ」
「何を?」
「ホストを…」
「はぁ?なんで??」
「わかんないよ、そんな事。でも、向いてないとか言ってた…」
「…そんな事ねぇよな」
「でしょ?だからなんとかしなくちゃ…と思ってたんだけど」
「ふ〜ん、わかった。とりあえず他のヤツらにも相談してみるか」
「そうだね、」
呟いた僕の背中を「ほら、開店だ」と島田がポンっと叩いた。
++ ++ ++
「はぁ??」
友一君の驚きの声が部屋中に響き渡った。
一哉君は調子が悪いからって早く帰ってしまったので、皆に「部屋」で相談する事にした。
「なんで??」
尋ねる友一君に
「なんか…向いてないって言ってて…でも、ちょっと前まで一緒に頑張ろうって言ってたのに…」
と答えると、治樹君が口を挟んできた。
「それ、多分お客さんに言われたからちゃうやろか」
「お客さんに??」
「そ、昨日やねんけど…」
一哉君ご指名のお客さんの友達が「一哉君って、向いてないんじゃない?ホスト」と言っていたのを治樹君は聞いていたらしい。
「せやけど…あれは一哉がええ人過ぎるって事を言うてたみたいな感じやったけどな」
「…俺らはイイ人じゃないって事か?」
と、友一君が小声で尋ねる。
「あきらかにそう見えるやろ」
と治樹君がフフっと笑う。
「それにしたって急に辞めるだなんてなぁ」
島田が言うと、
「…自分の才能に気付かへんといじけるようなヤツは辞めてしまえばええねん」
治樹君は苦々しい顔で吐きすて部屋を出ていった。
「…治樹君」
「まぁ、治樹の言う事も一理あるよな」
友一君が言う。
「でも…」
と言いかけると
「だいたい俺ら、才能ないやつとずっと一緒に仕事したりしないよな」
「まず「お前向いてない」ってはっきり言うね」
…そりゃ二人はそうかもしれないけど。
「でも、一哉君は悩んでるんだよ?なのに辞めればいいだなんて…」
治樹君、冷たいよ。
そう言った僕に
「この店がさぁ、人手足りないって話になった時、一哉をホストに推薦したのは治樹なんだよ」
と島田が言う。
「え?」
「治樹はさ、誰よりも先に一哉の才能を認めてたわけ。だから、一哉が辞めるって言ってるの知って、腹立たしいやら寂しいやら…色んな感情でわけわかんなくなってんじゃない?本気で言ってるわけじゃないよ」
「そうなんだ…」
「ま、辞めればいいってわけにはいかないよなぁ」
俺達、仲間だもんな。
友一君が僕を見る。
僕は強く頷く。
「…とにかく、一哉がどうして辞めたいのかもっとはっきりさせたいよな」
島田が腕組みしながら独り言のように呟いた。
*********
第13話ですv
いやぁ…この回にきて唐突な話題転換でしたね(爆)。
一哉はこのまま辞めてしまうのでしょうか??
こんな時に、過労だなんて…ラッチ〜(笑)。
…とりあえず、スランプなんです(爆)。でも、1話なんとか書きあげる事が出来たんで、このまま抜け出せたら…いいなぁ(苦笑)。

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