++NO.23++ 皆頑張ってるなぁ。 そう思いながら店内を一周していたら、ふと一哉が呼び止めに来た。 「あの…店長」 「何?」 「…あの、指名したい言うてる子がおるんやけど」 「…誰を?」 「…店長を」 「えぇ!?僕??」 僕は、今指名を受けてはいない、と公言してから、SARIさん以外は指名してくる人なんていないと思ってた。 「あの…指名受けてへんよ、って言ったんやけど…あんまりにも一途やから可哀想なってしもうて…」 あかんやろか…? 尋ねられて、思わず笑ってしまった。 一哉は、すごく優しい。自分のお客ではないのに、すごく親身に考えてあげてる。 これが、石田や直樹や治樹だったら… と思ってまた苦笑してしまった。 「あの、あかんやろか?」 また尋ねられ、慌てて答える。 「うーん、指名は受けないって決めちゃったからね。でも、少しだけお話するくらいなら…」 折角、僕なんかを指名してくれたんだもの。お話くらいはするのが当然だろう。 「良かったぁ」 そう言って、笑った一哉は「こっちです」と案内してくれた。 そのテーブルには見覚えのある人が… 「はじめまして…といっても、結構通ってくださってますよね?」 尋ねると、 「そうなんです!店長さんの姿を一目見たくて…」 「そうだったんですか、ありがとうございます。でも、僕、もう指名受けてないんですよ」 申し訳なくて謝った僕に 「わかってます!!でも、それでも…好きなんです!!!」 と、真剣に見つめられて、ちょっとドキドキした。 こんなに、思ってくれてる人がいるなんて。 嬉しくて、思わず引き寄せてギュッと抱きしめる。 「あ、あの!!!」 焦る彼女に問い掛ける。 「ねぇ、名前は?」 「あ、あの…亜眠です」 「そう、亜眠さんか…」 また、少しギュっと力を入れて、耳元に唇を寄せる。 「亜眠さん…好きになってくれて、ありがとう…」 囁くと、亜眠さんの体温が上昇していくのがわかる。 しばらく抱きしめてから、そっと離れる。 「ごめんね、指名受けれなくて…」 もう1度謝ると 「いいの…見てるだけでも幸せなの!!」 と、健気に答えてくれる。 嬉しいなぁ。 …っと、でもそろそろ行かないと。 「…ゴメン、そろそろ行かなくちゃ」 あ、そうだ。 「良かったら、一哉、お相手してあげてよ」 「えぇ?僕?」 「そ、一哉が」 「せやけど…」 「亜眠さん、一哉はね、うちの店で1番優しい、素敵な子なんだ」 だから、よろしくね。 そう言って席を立つ。 そして… 「今の席にラ・ターシュ入れといて」 中村を捕まえて頼んでおいた。 「何年モノにしますか?」 「そうだな…99年で」 結構高価なワインだけど…僕の事を好きだと言ってくれたお礼だし。 「それ、僕が払うから」 「わかりました」 そう言って中村は橋田の元へワインを取りにいった。 ++ ++ ++ 「さっすが〜」 店長、やる事違うね。 友一君が感心した声で呟く。 「や、でも…嬉しかったから」 当然の事をしたまでだし。 なんて、照れちゃってる良知君。 やっぱり、僕が目指すべきは良知君だな。 島田のと違って、と〜っても勉強になるや。 「それよか、一哉。その後どないしたんや?」 治樹君の問いに、 「どないしたって…普通にお話しただけやけど…」 「…俺、一哉がお客様とどんな話してるのか、聞いた事ない」 島田がいう。 …そういえば、聞いた事ないなぁ。 「ねぇ、僕も聞いてみたい」 いうと、一哉君は真っ赤になって 「そんな…たいした事話てへんし…皆に聞かせるようなこともないし…」 と、慌てて見せる。 怪しい… 「いいから、聞かせて!!」 ちょっと強く言ってみると… 「…わかった。でも、ホンマに普通やで」 と、渋々話始めた。 ++ ++ ++ 「少しでも話せて良かったね」 店長がいななった後、亜眠さんに言うてみた。 「うん。良かったv」 うっとりした顔の亜眠さん。 店長って凄いなぁ…あんな短時間でこんなにお客様を幸せに出来るンやなぁ… 「…ゴメンね、僕なんかが相手で」 謝ってみると 「なんで?なんで謝るの??」 「…せやかて、店長と比べたら全然…」 「一哉君は一哉君のいい所があるんでしょ?だったらいいじゃない」 そう言ってくれた。 そっか…僕には僕のええ所があるんや。 「ありがと」 笑うと、亜眠さんもニッコリと笑う。 と、その時… 「お待たせ致しました」 中村君が持ってきたのは… 「頼んでへんけど…?」 ラ・ターシュ。99年もの。 「店長からのプレゼントです」 そう言って、中村君はいなくなっていった。 「うそ、嬉しい…」 思わず涙ぐむ亜眠さん。 …ホンマ、店長って凄いンやなぁ。 そう思いながら、ワインをあける。 「せっかくやから、飲もうや。これ、美味しいんやで」 グラスに注ぐと、亜眠さんが尋ねてきた。 「これ、何てワイン?」 「ラ・ターシュの99年モノや。ロマネ・コンティよりも濃密な味やねん。99年モノは最近の年代やし、他の種類のワインの出来も普通やから、あんまり…とか思う人もおるみたいやけど、実はラ・ターシュとしてはええ年代やねん」 答えた僕を亜眠さんはビックリした顔で見た。 「すごいね、一哉君」 「何が?」 「詳しいんだね〜」 「あ、ワインの事?うん…僕、他の人みたいに、取り柄ないし…やから、お酒とか詳しくなって、お客様に合うものとか選んであげれるようになれればええなぁ、思うて勉強してん」 「エライ!!!一哉君、やっぱり素敵だよ!!」 そう言って、亜眠さんは笑ってくれた。 「今度来る時も、一哉君とお話したいな」 微笑んだ亜眠さんに、僕も頷いた。 僕も…亜眠さんともっと話がしたいから。 ++ ++ ++ 「…ってか、いつのまに勉強してたわけ?」 友一君の問いかけに 「えっと…仕事終わってから、橋田君とかに聞いたり…休みの日はソムリエ教室通ったりしてんねん」 「一哉はね、勉強家なんだよ」 少しは見習ったら? 店長の言葉に、僕は少し反省した。 そういえば、前に一哉君「お酒の事知りたいなら橋田に聞けばいいよ」って言ってくれたよなぁ。 僕、全然勉強してないや…。 エライな、一哉君。よし、今日から一哉君も見習おう!! 「なぁ、まだまだおるやろ?店長指名の客って」 ふと、横から治樹君が訪ねる。 そうだよね、まだいるよね… まだまだ勉強するチャンス。 「聞きたいなぁ〜」 店長に甘えてみると… 「仕方ないなぁ…もうっ」 と言って、店長はまた話はじめた。 ********* はいっ!!23話ですvvv 店長指名さんの順番がやってまいりました〜!! まず最初は亜眠さんからv 一応一哉も絡ませてみたんですが…こんなんで良かったでしょうか?(ドキドキ) ご期待に添えてなかったらごめんなさい。 返品可能です…(汗)。 << TOP << BACK NEXT >> |