第壱話backnextindex
いつもの道。
それはバイト先から家へと進む道。
いつものようにMDを聞きながら、少しだけ周りに目をやりながら歩いていく道。
いつもと違ったのは、BGMくらい。
いつもは聞かないのだけれど、友人がくれたマリリンマンソン。
ボリュームは少し大きめ。
なぜなら、今日は少しだけイライラしていたから。
何に。それはこのMDをくれた同居人に対してなのだけれど。
だったら、これを聞く事で余計イライラするような気もするが、それでも、今の気分に一番似合うのはこのMDだと思ったのだ。
他愛もない事だった。ほんの少しの意見の食い違いだったのだけれど、つい大人になりきれずに言い合ってしまった。自分も悪いのはよくわかっている。だからこそ余計に腹が立つのだ。
(アイツは絶対反省なんてしてないだろうし)
自分だけがこんな気分なのがどうにも許せないものがある。
(結局は、子供なんだよな、俺も)
少し苦笑して先を急ぐ。すっかり遅くなってしまい、時計はもう深夜をとうに過ぎていた。
バイト先から家までは20分たらずで辿り着く。
そろそろ、家が見えてくる。
(風呂でも入るかな)
シャワーだけでは取れそうも無い疲れだった。
少し歩みを速める。
(ザッ)
吐く息は白
    (ザザッ) 
             かった。
(何の音だ?)
雑音が聞こえる。
貰ったときはこんな音は入っていなかった。
おかしい…
(ザ、ザーッ)
マンソンの声が途切れ途切れに
   そして、回転数を変えたレコードのように。
雑音と共に歪んだ音を奏でていく。
(壊れたかな?)
良知はイヤホンを軽く引いてみたり、本体を軽く叩いてみたりした。
(何だ、)
一向に鳴り止まない雑音。
それは
(ザー…ザ、ザーッ)
鳴り止むどころか
   (ザーッ、ザーッザ、ザザッ)
一向に酷くなる。
(何だよ、)
少し怖くなって、MDを止める。
が、何故だかマンソンの歌声は消える事無く
   (どうして?)
                              鳴り続く。
雑音と、絶妙なる悪夢のようなハーモニーを奏でながら。
良知は走った。とにかくヘッドフォンをはずし、一目散に家へと向かって走っていた。
一人でいる事が…怖くてたまらなかった。
++ ++ ++
慌てて鍵を差込み、
  (畜生、入れよッ!!)
            (ガチャッ)
          ドアをあける。
「お帰り」
ホッとした。
さっきまで腹ただしかったはずの友人の声が、今では何よりも安心できる声だった。
「た、だいま」
息を切らせながら、部屋へと上がる。
「どしたの?そんなに慌てて」
(コイツ、喧嘩した事やっぱり覚えて無いな)
少し呆れて、でも少し安堵して良知は石田の隣に座った。
「ちょっと…」
呟いた良知の顔を、石田が不思議そうに
    (何?)
                          覗き込む。
「顔色、悪いけど」
「少し…疲れてるから」
そう言った良知を石田はいきなり抱えようとする。
「は?何やってんだよ!!!」
「少し、って感じじゃないよ。良知君、かなり具合悪いでしょ」
無理やり良知の部屋へと運ぼうとする
  (ホント、馬鹿力だな…)
                        石田。
「ちょ、待てって。違うんだって。ちゃんと話すから」
慌てて降ろせ、と暴れる良知に、石田は納得できない顔をしながら、不図思い出したようにシュンとした表情になった。
「そういえば…良知君、怒ってるでしょ」
「何が?」
「何って…さっきの」
(あぁ、)
今度は良知が忘れていた。
「ちょっと前まで怒ってたけど…」
「やっぱり…ゴメン、俺が悪かったと思う」
(思うって何だよ)
思わず苦笑して良知が言う。
「や、俺も悪かったし。っていうか、ちょっと話聞いてくれる?」
「いいけど…何かあったの?」
「あったんだよ。怖くって、めちゃくちゃ怖くって、急いで帰ってきたんだ」
今日は眠れそうもないよ。
そうぼやいた良知に
「じゃあ、聞かせてよ。俺、一緒に起きてるから」
そう笑った石田に
「とりあえず…降ろせ」
そう答えながら
(やっぱ、親友…だよな)
とひっそりと思っていた。

そんな良知のコートに突っ込んだままのMDから
(ザー…)
止まる事無く
(ザ、ザザッ…ザー)
ノイズが響いている事も忘れて。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
はじめてしまいましたね。新連載。
毎回思うんですけど、どうして私って思いつきで書くんでしょうか?
全くもって学習能力の無い…。
たまたまこの間、会社に行く途中、MDの調子が悪く、雑音酷くてブツブツグニャグニャな状態になったので、それだけで、考えてしまいました。
なので、どうしたいのかもまったくわかりません(ヲイ)。
でもね、良知君が全くの主役って書いたこと無くって…コインロッカーとか半分屋良っち主役だし。
KAGEはいっちゃん主役だし。囁きは島田だし、ゆっちんはいっぱいあるし。
見つけ屋だって微妙に主役っぽくないし…
って事で、今回良知君主役でいきたいと思います。