第伍話 | back | next | index |
「女の人…」 萩原は小さく呟いた。石田は力強く頷いてみせる。 連絡すると、すぐに駆けつけてくれた島田と萩原を前に、石田は今まで起きた事を細かく説明していた。 「そうなんだ…それに、俺…良知君のこと…」 項垂れる石田に、良知は慌てて告げた。 「石田のせいじゃないから。石田のせいじゃ…」 「けど…」 不図、島田が問う。 「ねぇ、思うんだけどさ。何かきっかけがあったんだよね」 「きっかけ?」 首を傾げる萩原に島田は続ける。 「そ、きっかけ。どうやら、その声の持ち主が良知君の中に居る女の人を恨んでるみたいだし?だったら、そんな感情を出させるきっかけみたいなものが…」 そこまで言ったところで、石田が小さく「あ、」と呟いた。 「何?石田、覚えあんの?」 身を乗り出す島田に、石田は少し頷きながら 「俺、良知君とケンカしたんだ」 俺が、悪かったんだけど…。 と、項垂れる。 「ケンカ、ねぇ…もしかしたらさ、そのケンカがきっかけかもね」 「…もしかして、この部屋も関係あるんじゃないかな」 島田の言葉に、石田は身震いする。 「やめろよ、部屋が悪いって言われたらもう住めねぇよ…」 「…僕は、すでに此処を出たいくらいだけどね」 力ない笑顔を見せる良知を石田が心配そうに見つめた。 「ねぇ…此処の管理人さんに、聞いてみたら?」 萩原が言う。 「聞くって…何を?」 「この部屋で…何かがあったのか」 「答えてくれるわけねぇじゃん」 島田が「馬鹿だな」と萩原の頭を小突く。 「とにかく、何かが取り憑いた事には間違いないと思うんだよ。良知君も…石田にも」 島田は二人を見据えた。 「取り…憑かれた」 呆然と繰り返す良知の手を、石田は思わず握っていた。 「大丈夫…。俺、助けるから。絶対良知君助けるから」 だから、大丈夫。 自分に言い聞かせるように呟き続ける石田に、島田は大きく頷いた。 「確かに、大丈夫だって思ってなきゃダメだと思う。じゃなきゃ簡単に意識を乗っ取られるだろうからね。だから、気をしっかリ持って立ち向かわないと」 「…立ち向かうって言っても、何に?」 それがわかんなきゃ。 萩原の言葉に、「そうだな」と頷く島田。 「良知君…本当に何も覚えてないの?」 「悪いけど…何も」 申し訳なさそうに項垂れる。 「じゃあさ。ケンカの事教えてよ。何かキーワードがあるかもしれない」 「キーワード?」 「そう、引き金となった何かが…」 そう言われて、良知はゆっくりと説明を始めた。 「些細な…事だったんだ。ちょっとした意見の食い違いで…」 「つい頭に血が昇っちゃってさ。関係ない話まで持ち込んじゃって」 石田の言葉に、島田が反応した。 「関係ない話って?」 「この間さ、俺と約束があったのに、良知君ってばすっぽかして別のヤツと飯食いに行っちゃったんだよ。それも持ち出しちゃってさ。酷いじゃんって…俺と約束してたのにって」 「…裏切られた」 呟く島田。 「何?」 「裏切った、とか言わなかった?その時」 「いや…よく覚えてないけど…俺、めちゃめちゃ色々言ったから…もしかしたら…そんな言葉も…」 しどろもどろな石田の横で、良知の顔は徐々に青褪めていた。 誰も…気付いてはいないところで。 ゆっくりと (ごめんなさい…) 良知の意識は (許して…) 消えようと (た、すけて…) していた。 (怖い…怖いの…) それは 囁かれた言葉にもかかわらず、全員の耳を刃のように貫いた。 「良知君!!」 突然の出来事に、全員が叫ぶ。 だが…良知の身体は椅子にダラリともたれかかり…全く動く意志を見せない。 「今の声…」 女の、人だった。 萩原は少し震えていた。 「良知君!!!良知君!!!」 石田が身体を揺する。 5分は経った頃…良知はやっと目を開けた。 そして、石田に弱弱しく手を伸ばした。 「お願い…もう…許して…」 両目から溢れる涙。 (誰…だ?) 「助けて…殺さないで…お願い…」 (殺…される? 誰に…?) 「愛してるの…」 (…誰) 「本当に…」 (誰…) 「だから…お願い…」 (自分は…誰なんだ?) 「いやぁ〜!!!!!!!!!!」 (私は…) (俺は…) (誰…なんだ…) 良知の手は、石田を掴む事無く…そのまま崩れ落ちた。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 第五話です。 途中まで書いたまま、休養に入っていたので、すっかり途中から展開がわからなくって困りましたが(苦笑)。とりあえず、書き途中だったので、これを一番に復帰作として持ってきました。 いや、久しぶりなんでね、なんだか書き方を忘れちゃった気がします(苦笑)。 これから徐々に感覚を戻していかないと。 実は新しいネタも浮かんでて(またかよ…)。でも、どれかの連載が終わるまでは書きません。 書かないようにします。 書かないように…頑張れればいいなぁと(すでに弱気)。 |