第七話backnextindex
ドロドロとした感覚が体に纏わりついていて。
なんとも言いようのない嫌悪感に襲われて、薄っすらと眼を開けた。
「良知君……?」
ぼんやりとした視界の中に飛び込んできたのは、憔悴しきった石田の顔。
「ど、……した……?」
どうしたの、と聞きたかったのだが、声が上手く出せない。
喉が
乾いてしょうがない
「良知君?良知君なんだよね?」
心配そうに覗き込む石田の眼に、薄っすらと涙が浮かんでいる。
良知は、石田の頭をクイっと引き寄せて、宥める様にヨシヨシ、と、抱きかかえた。
胸の辺りに、温かい雫がポタリ、と落ちてくる。
「心配……かけたんだね、僕」
ゴメンね?
謝る良知に、石田は小さく首を左右に振った。
「俺が、悪いんだ……ゴメン……俺、俺……」
その時、ゆっくりとドアが開かれた。
「良知君、目ェ醒めたんだ?」
銜え煙草で入ってきた島田に、良知は視線を向けると
「こら、未成年……ダメだろ?」
そう言って、弱弱しく笑った。
「ちょっと考え事してたら煮詰まっちゃってさ。見逃してよ」
そう告げて、近づいてきた島田は、いまだ良知にしがみついてる石田の背中をベシっと叩く。
「いつまで甘えてんだよ。良知君、重たいだろ?」
「いいよ、島田……迷惑、かけちゃったみたいだし……ごめんね?」
島田にも謝ってきた良知に
「別に、謝られることじゃないよ。困ってる時はお互い様。俺たち、しばらく一緒に住むし」
そう言って、島田は良知の頭にフワリと手を置いた。
「何があっても、二人は俺が……俺と萩原が助けてみせるから」
心配すんなって
ニヤリ、と不敵そうな笑いを浮かべた島田に
良知は少し安堵した。
「それよか……石田、起きろ。話がある」
ガン、と今度は蹴りを入れられて、ようやく石田は顔を上げた。
「話?」
「……良知君も、起きれる?」
「うん……大丈夫」
「じゃあ、リビング行こう」
ベッドから立ち上がって、歩こうとした良知がふらつく。
「良知君!」
支えようと、出した石田の手を
島田が押しのけて良知の体を支えた。
「島田?」
呆然とした石田に向って、島田は冷静に告げる。
「なるべく……二人は接触しない方がいいと思う。何が原因で誘発するか分からないんだ」
良知を支えたまま、島田は部屋を出て行く。
石田は呆然としたまま立ち尽くしていた。
「良知君……」
俺が……
俺のせいで、良知君を苦しめるというのなら

ズキッ!!

激しい頭痛がして、石田は蹲った。

(俺はそんなに頼りないのか……?)
      頼りない……そうだ、俺は頼りないから……
  (だから、アイツの所へ行ったのか?)
島田の方が、頼りがいがあるのは仕方がない事だから……


(お前を……他のヤツにやるくらいなら……)

   良知君は……俺の……?
        違う……そうじゃない……
    思考が……混ざり合ってしまってる……
   
      (俺の手で……)
 良知君を失うくらいなら……

いっそ
       いっそこの手で……

『殺してやる』


違うッ!!
この思考は
俺じゃない!!


恋人を取られた男の苦しみ、憎しみ、妬み

その想いが俺の中で渦巻いている。
俺は
良知君を殺したりしない!



意識を保とうと、石田は部屋を見渡した。
壁にかかった鏡が眼に入る。
前に立つ。
写っているのは……紛れもなく、石田自身。
「俺は……俺だ」
『お前』じゃねェ……

勢いよく叩きつけた拳は、破片で血塗れになっている。
気にする事無く、手を引き抜き
落ちた破片を手に取った。



殺したりしない
   (俺が邪魔なのか……?)
  殺してしまうくらいなら……
 (お前が……そう望むのなら……)

「うわぁッッッ!!!」

強く握りしめた破片を
左腕に突き刺した

痛みで
意識を取り戻す為に

それは石田の意志でした行為

でも

本当に……そうなのか?

それは、石田にも分からなかった


「石田!!」
叫び声を聞いて、島田が部屋に入ってきて石田に駆け寄る。
「石田!!」
抱きかかえて、呼びかけると
石田は薄っすらと目を開けた。

「殺して……くれ」

その呟きは
果たして



男のものか
石田のものか




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第七話です。
突発的に書きたくなったので、更新(笑)。
あまり、色々考えずに
書きたいように書いてみました。
遠慮とかしないで書いてみようと。
……や、でもやっぱり少しは遠慮しますけどね(爆)。
機械人形と同じく、コレも制限なしで書き直す候補ですね(笑)。
でも、この流れはこの流れで気に入ってます。

さて。
果たして、良知と石田はどうなるのでしょうか。