第4章

食事が進むにつれ、徐々に雰囲気にも慣れてきた。
普通に会話している分には皆「普通」の少年達なのだ。
「普通って…定義するのはむずかしいのじゃ」
「え?
「何が、普通なのかって…本当は誰にもわからないんだよね…」
寂しそうに屋良が呟く。
「僕らだって僕らの中では普通なんだよ」
「すーさん」が言う。
「すずっくん。彼には難しいよ」
「慎吾も人の事言えないだろ。よくわかってないくせに」
「ひどいや。そんな事ないよ」
「とにかく、僕らは僕らであって、人にあれこれ判断されるのは好きじゃないんだ」
「そうそう、普通とか、普通じゃない、とかね」
「僕らは自分たちを特別だなんて思ってないよ」
誠一郎が笑って言う。
「良知くんだって…同じだよ」
良侑がしっかりと眼を見つめながら告げる。
「お、なじ…」
「そう、同じ。でもね、気をつけて。同じように育ってきたのに、自分たちを特別だと思ってるヤツらもいるんだ」
尾身が最後の一口を口の中に放りこんで言う。
「そいつらは危険だからね。自分たちだけが存在する世界を目指してるんだ」
「えっと…よくわかんないんだけど…」
あまりのことについていけない俺を見て
「もうっ!!食事してる時はそんな話止めようよ。良知くんには後でゆっくり説明してあげるよ」
と屋良がフクれてみせる。
「ごめん、屋良っち…」
良侑を筆頭に全員があやまり黙りこむ。屋良はココでは絶対的な力を持っているらしい。
しかし、そんな沈黙も、長くは続かない。すぐに皆でふざけてハシャギ始める。
本当に兄弟の様に全員が心を許しあっているようだ。なんだか、初めて来た場所なのに…ここは居心地が良い。
テレビを見ていると、となりですーさんが片目を押さえ始める。
「どうしたの?えっと…」
「鈴木。鈴木康哲。好きに呼んでいいケド…屋良のようにやっさんって呼ぶのはやめてくれ」
何回言っても止めないんだ、アイツ。
と肩を竦めて苦笑する鈴木くん。切れ長の眼で、とても綺麗な顔をしている。
なんとなくわかってきた。彼らは綺麗だから怖くみえるんだ。
「片目、痛いの?
問いかけるとすーさんは「ふっ」と軽く笑う。
「これか?俺の右目は電波を受信するんだ。テレビだけじゃない。ラジオ、電話、とにかく電波を発してる物の傍にいくと、右目が受信を開始する。それが俺の「力」さ」
「受信…する、だけ?
眼を丸くして、驚く俺に
「お前、今バカにしたな?
と笑う。
「受信した電波をな、好きなように放出できるのさ」
「人間スタンガンなんだよねぇ」
横から誠一郎が笑う。
「それ、カッコ悪いから止めろよ」
すーさんが苦笑する。とそこへ…
「…康哲。いつまで待たせる気?
腕を組んで町田くんが立っている。
「あ、悪い。今行く」
慌ててすーさんは町田くんの元へ…
「ククっ…すずっくんも町田くんには弱いよなぁ…」
誠一郎と尾身が笑って言う。
「どうして?
「気をつけろ。鈴木は町田の「特別」なんだ。あんまり仲良くしすぎると町田の逆鱗に触れる」
と、背後から声が…
「あ、原くん」
尾身が頭を下げる。
「原っち!!
「よ、智。久しぶり」
「どこいってたのじゃ」
「色々と忙しいんだよ。俺も。で、屋良は?
「部屋にいるよ。なんだか頭が痛いんだって」
良侑が心配そうに言う。
「そっか。ちょっと行ってくる」
良侑の頭を撫でると、原は屋良の部屋へ向う…と、不意に原が振り向く。
「あ、そこの新人。一緒にこいよ」
言われるままに、原と一緒に階段を登る。
「ボロくせぇ階段だろ?そのうち落ちるぜ」
俺と一緒で古いんだよなぁ…
と笑う原に
「どうして、僕のこと呼んだんですか?
と問いかける。
「どうしてって…多分、屋良が呼んでるから」
「え?
「さて、ここがアイツの部屋だ」
ドアを開ける。とそこは暗闇だった。ベッドわきのテーブルランプがうっすらとついているだけ。
そこに、屋良がシーツをかぶって蹲っていた。

「よ、大丈夫か?
笑いながら、部屋の電気をつける原。
「原くんお帰り!!どうだった?
屋良は眼を輝かせてシーツを払いのける。まるで、父親の帰りを待ちつづけていた子供のよ
うだ。原は屋良のベッドに腰掛けると、屋良の頭を撫でる。

「大丈夫。心配要らない。まだ、時期が早いだけだ。もう少しすれば…」
「本当?僕、大丈夫??
「大丈夫だよ…あ、そうだ。シンはどうした?
「…今日、埋めかえてきた。良知くんに手伝ってもらったんだ」
無邪気に笑う屋良。見るたびになぜかいとおしい気持ちになる。
「そうか、よかったな」
ヨシヨシと頭を撫で、
「それじゃあ、俺は少し休むよ」
と部屋を出ていこうとする。ついていこうとしたら
「あ、良知くん。待ってよ」
と呼びとめられた。
「何?
振り向くと、少し涙目で屋良が見つめてくる。
「…僕が、眠るまで一緒にいてくれる?
…断ることは、できない。
「いいよ」
「よかった…おいでよ」
と自分の隣に手招きする。
屋良の隣にもぐりこむ。ベッドが狭いのでかなりくっつかないと落ちそうだ。
「良知くん…って呼びづらいな…らっち。らっちでいい?
「いいよ。好きな呼び方で」
「らっち…初めて見た時、すぐわかったよ…」
「何が?
「らっちは…僕にとって必要な人なんだ…」
「どうして?
「…そのうち、わかるよ」
少し眠そうな声で屋良が告げる。
「そう…」
屋良が落ちないようにしっかりと抱えこむ。小さくて、儚げで、今にも消えてしまいそうだった。
「…怖いんだ」
「え?
「一人で、寝るのが…だから、一緒に…」
「いいよ。このまま一緒にいるから…」
「ありがと…らっち、あったかいね…」
そういうと屋良は静かな寝息を立て始める。
温かいのは屋良も同じだった。触れてみて初めて屋良にも体温があるんだ、と実感した。
「生きてる、人間なんだな」
確認するように呟く。なんだか安心して眠くなってきた。
そのまま、眼を閉じて眠りにつく。久々に安らいだ気分で眠りにつく…

                ********************************

良知の寝息を確認しながら屋良の眼が開く…
ゆっくりと良知の首筋をなぞる。月の光のせいなのか、屋良の眼は赤く光っている。
良知の耳元へ唇を寄せ、屋良は微笑みながら静かに囁いた。

                  「生きてる…、ようにみえる?
TOP  NEXT  BACK