第7章

頭の中が真っ白になり、自分がどういう行動をとったか全く覚えていない。
気がつけば、原くんと「家」に帰ってきていた。
「気にするなよ。死ぬ前に助かってよかったじゃないか」
軽く笑う原くん。それはそうかもしれない。でも、確かに人が死ぬ可能性のあることが起きているという事には変わらない。
俺は…踏み入れてはいけない世界に入ってしまったのかもしれない…

「屋良はさ、人より力が強いんだ」
ソファに座っている俺に、缶コーヒーを差し出しながら、原くんが言う。
「強い?
「そう。力を持つ人間は、たいてい分類分けができる。テレパシー、サイコキネシス、リーディング、ヒーリング、予知…さらにはマインドコントロール。「普通」の人達は超能力者が全ての力を持っていると勘違いしてる事も多いが、誰もが全ての力を使えるわけじゃない」
「…それは、わかるよ。俺もサイコキネシスしか能力はないんだ」
…それすらなくてもよかったのに。
そう心の中で呟いた俺の頭を、原くんは優しい手で撫でる。
「そうだな。この社会で生きていこうとすればこんな力は邪魔なだけだ。実際、俺達は少しの能力だけで、かなり苦しんできた。でもな、屋良はほとんど全ての能力を持って産まれてきたんだ。その分、社会からの攻撃も強かった」
なんとなくわかるだろ?
安易に想像できる社会からの迫害に、全身に悪寒が走る。
「全部、ってことはマインドコントロールも…?
「さぁな。もしかしたら、俺達もコントロールされているのかもしれない。でも、もしそうでも俺はかまわないよ。アイツを救ってやりたい。どんなにツライ思いをしてきたか知ってるから。だから、屋良を助けるためなら俺はどんな事でもするよ」
「…原くん」
「…他のヤツらも知らない。俺と、屋良だけの秘密がある。まだ、話すことはできないけど、それには良知くん。君もかかわってくる事になると思う」
「…俺が?
「そう。ただ、屋良が考えている良知くんの存在意味と、俺の考えている良知くんの存在意味はかなり違う」
屋良をこのままにしておくわけにはいかないんだ…
そう告げた原くんは、飲み干したコーヒーの缶を握りつぶした。
「…ねぇ、原くん」
「なんだ?
「この間、気になった事があって…」
「この間?
「そう、屋良の部屋に行った時。俺の事呼んだじゃない?
「あぁ、あれか」
「あの時、屋良が呼んでるからって言ったけど。どうしてわかるの?それに、さっきも傍にいなかったのに、屋良が原くんの名前呼ぶといつのまにか傍に来てるし…」
そんなことか…
笑いながら原くんは答える。
「俺にはな、屋良の声が聞えるのさ。大野がどんなに頑張ってもリーディングできない屋良の心の声がね」
「どうして?
「俺には、屋良と同じ血が流れてるからね」
「…兄弟、なの?
問いかけた俺に、原くんは微かに笑う。
「ちがうよ。全然似てないだろ?
「だったら…どういう事?
訳がわからない俺の耳元で、原くんが囁く。



              「俺は屋良の血を飲んでるんだ」

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