第3話 彼の病室は個室で。 僕等が話をするには好都合だった。 彼は、僕の事を聞きたがって、色々質問をしてきた。 「太一君って、前はどんなお仕事してたんですか?」 「えっとね、営業マンってやつ」 「太一君、向いてそうですよね」 「そうかな?」 「だって、とても優しい空気をもった人だから」 微笑む良知君。 「優しい…空気?」 尋ねると、 「そう。とても優しい空気を持ってる」 素敵ですよね、 そう言って笑う良知君も、とても柔らかい、優しい感じがした。 彼が入院してから3週間がたった頃… だいたい、彼の病気の事もわかってきて。 移植しなければ、彼の残された時間はもうわずかだという事も。 彼が寝てしまってから…僕は病院の屋上へ飛び、夜空を見上げた。 「なんだか…つらいな」 移植は…簡単な事じゃない。 すぐに出来るわけでもない。 思わずこみ上げてきた涙。 慌てて袖で拭って、僕はコンタクトPCを立ち上げた。 『よぉ!元気にやってるか〜?』 久しぶりに聞く、山口君の声は、僕をホッとさせると同時に、余計涙腺を緩ませた。 『太一?どうした?』 「ん、ゴメン。ちょっと」 『なんだよ、もう帰りたくなったのか?』 笑う山口君。 でも、目が心配してる。 「そうじゃないよ。そうじゃないけど…」 『甘えん坊だな、太一は』 苦笑する。 「うるさいな。どうせ甘えん坊だよ」 『開き直るなよ。そんなに俺に会いたいのか〜?』 「何言ってんの」 クスっと笑う。 『よし。ホラ、笑え!泣いてると心配だからな〜』 「優しいね、山口君は」 『弱ってる太一は素直だね〜』 いっつもそうだと可愛げもあるのに。 そう言って笑った山口君は 『で、リーダーに繋ぐ?』 と聞いてきた。 「さすがだね、察しがいいよね」 お願い。 言うと、「ちょっと待ってろ」といってすぐにリーダーのPCにつなげてくれる。 『どないした?太一。何や泣いてるて聞いたんやけど』 「ん。あの、ね?あの…良知君の事なんだけど」 『何や?』 「彼は…まだ決ってないのかな?」 『…結果、か?』 「うん…」 『決ってない。彼の寿命ははっきりしていないんよ。…太一、彼の結果はな、太一が見守らなあかんのやで』 「わかってるよ…でも、どうすればいいのか、も何もわかんない…」 わかってるのは… 「彼を…助けたいって事だけなんだ」 俯いてしまった僕に、リーダーの柔らかい声。 『太一の…やりたいようにやれば、それでえぇんとちゃうか?』 頑張りや。 少しだけ、モヤモヤしたものが晴れた気がした。 「ありがと。リーダーはすごいね」 言うと、リーダーの目が丸くなる。 『ホンマや。山口が言ってたとおりや』 「何を?」 『弱ってる太一は驚くほど素直やって』 … 「じゃ〜ね!!!」 ブチっと電源を切った。 「全く。酷い言い草だよ」 でも、彼らと話した事によって、少しだけ楽になった気がする。 どうすればいいのか、それはまだわからないけど。 でも、僕は彼を幸せにしてあげるように頑張ろうと思った。 ++ ++ ++ 「太一君、聞いてもいいですか?」 ある日…彼はちょっと神妙な顔で尋ねてきた。 「何?」 「太一君は…どうして、」 命を…落としたんですか? 「え…?」 「ごめんなさい…やっぱり、失礼ですよね、こんな事」 「あ、いや。全然気にしなくていいけど…ちょっとビックリしただけ、」 突然だったから。 そう言って、僕は笑った。 「あのね、男の子が…」 僕は、僕がこの世と別れを告げた出来事を彼に話した。 「すごいですね、太一君」 「何が〜?」 「人の為に、命を懸ける事が出来るなんて、素敵なことですよ」 そう言って、彼はウンウンと頷いた。 「僕も…やっと決心がつきました」 …? 「決心??」 「はい。僕も…死ぬときに、胸を張っていえる事が出来るように…」 彼は…窓を眺めながら、とても優しい顔でそう言ったんだ。 翌日…彼の決意がなんだったのか、僕は彼のお母さんの口から聞くことになる。 「手術を受けないって…どういう事なの?」 取り乱すお母さん。 「だって、お母さん。僕はもう、十分だよ。此処まで生きれたのは奇跡だって。お医者さんも言ってたじゃない」 「…けど!!まだ、手術をすれば助かる可能性があるのよ!!」 「その可能性は…成長すればするほど、低くなる。そのくらいは僕もわかってる」 「移植が…やっと移植が出来る準備が整ったって…」 先生がせっかく… 「でも…先生、言ってたよね。僕、聞こえたんだ。可能性はほとんど0に近いって」 泣き崩れるお母さん。 「隣の、女の子。同じ病気なんだよね?彼女は…まだ、可能性が高いんだよ」 だから… 「彼女を助けてあげて欲しいんだ」 「真次…」 彼は、一瞬僕を見た。 「大丈夫。お母さん。この先の世界も、とても素晴らしいところみたいだし。それに…」 彼は…とても温かい笑顔で告げた。 「僕も…誰かの為に命をかける事が出来たって、誇りに思えるように」 「真次…真次…」 「無理して…今、命を落としてしまうくらいなら。残された時間を大事に、有意義に使いたいんだ」 結局、彼は移植をすることはなかった。 そして…僕は、わかってしまった。 彼の結果を。 彼の決意から…3ヵ月後。 彼は、病気を併発させてしまった。 弱っていく彼を…何も助けてあげられない僕。 彼は…最後に僕にこう言ったんだ。 「太一君。会えて良かった。僕の人生は…太一君のおかげで、より素敵なものになったんだ」 覚えてる? 「世界は…何色だと思う?」 「…良知君」 「そんな、悲しい顔しないで。僕にとって、今この瞬間も…世界は…光り輝く、薔薇色なんだから」 とても…綺麗な。 彼の魂を、連れて行かなくてはいけなかった。 彼をテイカーに。 僕はそう思った。あとは、彼の意思だけだ。 とりあえず、魂は一度必ずセンターへと運ばれる。 浄化されるにせよ、転生するにせよ、テイカーになるにせよ。 彼の魂の光を手に。 呆然としていた僕の前に、見覚えのある顔が。 「松岡…?」 「ったく。心配性なんだよ、うちのリーダーはさ」 ほら。 といって、松岡は僕の手から彼の魂を取る。 「俺が、運んでおくから」 それから… 「はい。案外、役に立つんでしょ?リーダーがさ、ゆっくり、帰っておいでってさ」 じゃあね。 そう言って、松岡は飛び去っていく。 …と。 「太一君…」 僕の、テイカーが居た。 「長瀬…」 「俺、俺ね。同じだよ」 「…」 「俺、太一君の時…すっげー辛くて。ショックで」 でも 「今、こうして仲良くしてるでしょ?」 「…」 「だから…」 「…」 「大丈夫だから」 「…」 「太一君…」 「…クス」 「…クス?」 「お前、喋りすぎ」 「へ?」 「黙って!!」 「はい!」 無言で立ち尽くす長瀬に、僕は飛びついた。 「…太一君」 困ったような長瀬の声。 でも、僕は泣きたくて。どうしても泣きたくて。 でも、泣き顔は絶対に見られたくなくて。 長瀬の服をタオル代わりに、思いっきり涙を流した。 一頻り泣き終わって、ちょっとバツが悪くて、ソロソロと顔を上げた僕に 「もう、大丈夫?」 長瀬の声。 「ん。ゴメン」 言うと、長瀬がニヤ〜っと笑う声。 「太一君、可愛い〜素直な太一君なんてはじめて見た!!」 !!!!!! ニヤニヤしてる長瀬の足を… 「痛って〜!!!!」 そりゃそうだ。思い切り踏みつけてやったんだから。 「五月蠅いです〜!!」 「酷いよ…太一君。さっきまで俺に甘えてたくせに…って痛いって!!」 ガシガシ蹴りを入れて、プイっと背中を向けた。 「生意気だよ、タオルのクセに」 「タオル??」 なんだそりゃ、 ぼやく長瀬に、一応聞こえるかなって位の声でお礼を言った。 「…でも、ありがと」 暫くしてから、小さく笑った声と囁かれた返事。 「どう致しまして」 長瀬も…俺の時は、誰かに励ましてもらったのかな? 俺、やっぱり甘えすぎなのかな。 こうして…テイカーは一人前になっていくんだってさ。 長瀬が、後で教えてくれた。 リーダーに、そう言って慰められたって。 僕も、少しだけ一人前に近づいたって事だ。 センターに戻る前に、僕は、彼のお母さんに、一度だけ接触した。 僕等は実体化も出来る。あまりしないけど…特別なときには。 僕は、どうしても彼の言葉を伝えたかったんだ。 彼は…とても幸せな人生を送っていたんだって。 だって、彼は「世界は薔薇色だ」と言い切ったんだ。 お母さんは、泣き崩れた後、とても優しい顔で少しだけ微笑んでた。 その後? 彼の隣に入院してた少女は、元気に退院していったって。 そして… 「あ!太一君〜!!!」 「あれ?研修は??」 「昨日終わりました!」 「そっかそっか〜。どう?」 「はい!楽しいです、とっても」 良知君は、テイカーとしての道を選んで、僕の後輩になった。 「今度、またゆっくりお話しましょうね」 「そうだね〜。初仕事の時はいつでも一緒に行くから言ってよ」 「でも、太一君頼りないし」 「えぇ〜!!!そんな事言っちゃうわけ?」 「嘘ですよ、冗談です」 「ビックリするぢゃん」 「じゃ、僕これから、適正受けてきますんで」 また!! 走っていく良知君。 「あ、良知君!!」 僕は呼び止めた。 「何ですか?」 振り向く良知君。 「ねぇ、世界は…何色だと思う?」 聞くと、彼は天使のような笑顔でこう答えたんだ。 「世界は…薔薇色です!」 こうして、僕は誰かに会うたびに、この質問をすることにしてる。 何?ちょっと興味あるって? しょうがないな、じゃあ、次の話をしてあげるよ。 次にあった少年は…世界の色を尋ねたら、こう言ったんだ。 ********** 第3話です。 えっと。 ちょっと無理のある展開でしたが、一応良知君の回終了という事で。 次回の予告も載せてみているんですが…何も考えてないんです(ぇ)。 誰を出すかも考えてません(爆)。 とりあえず、今回はとても甘えたな、素直な太一という事で。滅多にお目にかかれない太一をお送りしてみました(爆)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |