COLORS 〜第五話〜 back next index
「え…」
僕は、思わず言葉に詰まってしまった。
何故って?
それは、彼の言葉が衝撃的だった事もあるけど…
何よりも、「漆黒」と言い放った彼の眼が

とても

切なそうだったのだ。

でも、それはほんの一瞬の出来事で。
「それが、何?」
そう聞いてきた彼の眼は、すでにまたイジワルそうな色に戻っていた。
「や、何って聞かれると…」
返事に困ってしまった僕に
「ま、別にいいけど」
肩をすくめて、彼はつまらなそうに歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ」
慌てて追いかける。
暫く並んで歩く僕に、時折チラっと視線を向ける彼。
「何?」
興味を持ってくれたのかと、少し嬉しくなって見て尋ねたが
「や、何時までついてくんのかと思って」
とうんざりしたように返された。
「…ずっと着いてく」
そう答えると
「うぜぇ…」
と聞こえるように呟かれた。
…手ごわい。
何がって…
彼が、何を考えているのかも、彼を何から救えばいいのかも全くわからない。
その上、彼は自分のテリトリーに入ってこられるのを全身で拒絶している感じがする。
人から「太一は人懐っこいから誰とでもすぐ仲良くなれるから徳だよな〜」と言われる事も多いが、はっきり言って今回は無理だ。
何で僕?つーか、引き受けなきゃ良かった。
そんな言葉がグルグルとめぐるが…

あの眼。

そう
彼のあの冷たすぎる眼の奥に隠された切なさを。
わかりたい、と思ってしまったのだ。
「後には引けないよなぁ…」
呟くと
「何か言った?」
と尋ねられ、
「いや、別に」
と慌ててブンブンと首を振った。
「太一ってさ」
名前を呼ばれてビクっと顔を上げると
「小動物みてぇだな」
と、ククっと喉の奥で笑った。
笑い方は全く盛って可愛げはないのだけど…
少しだけ、少年っぽさを感じてちょっと嬉しかった。
「直樹は…これから何処行くの?」
勇気を持って尋ねてみた。
すると、少しだけ驚愕したように眼を見開いてから、ニヤリと笑う。
「へぇ…太一、俺の事怖くないわけ?」
「へ?なんで?」
「ちゃんと、名前呼べるんだ」
「だって、呼ばなきゃ話出来ないでしょ?」
そう告げた僕に、直樹はまた一瞬だけ瞳を振るわせた。
「名前、呼ばれたの…すげー久しぶり」
本当に聞こえないくらいの声。
でも
間違いなく、そう呟いた。
久しぶり…
名前を呼ばれるのが久しぶりって…
何となく、直樹の寂しさが僕に流れ込んでくる気がする。
彼は…きっと孤独の中にいるのだ。
だから「漆黒」なのだ。
どんな環境にいるのかはこれから一緒に行動して知ればいいことだ。
彼の心が少しでもつかめた。
それだけでも今日は満足だった。
「…別に、行くとこなんて決めてない」
不意に呟いてしまった言葉をかき消すように、ぶっきらぼうに告げられた返事。
「そっか。じゃあ、ブラブラしようか?」
笑って告げると、直樹は顔を背けた。
「変なヤツ」
それでも、反論なく、歩みを止めようともしない。
「まぁ、変かもしれないけどね」
そりゃ、立場上普通じゃないしね。
そう思ってクスクスと笑ってしまった。
「…太一ってさ」
顔を背けたまま、直樹が呟く。
「何?」
聞き返すと、ものすご〜くイジワルそうに片方の口の端だけを持ち上げてニヤリと笑う。
「俺の事、好きなの?」
…はぁ??
眼を丸くして、パクパクと口を動かしてしまっている僕に、直樹は面白そうに続ける。
「だってさ、何か俺の機嫌とろうと必死だし?ついてくるし?なんなら付き合ってみる?」
「お、お、お前ってヤツは〜!!」
声を荒げると、直樹はお腹を抱えて笑い出した。
「太一、顔真っ赤だってば。マジかと思うから勘弁してよ」
やべぇ、涙出るわ。
そういいながら、軽く眼をこする。
「大人をからかうんじゃない!!」
そういうと、
「どうみても大人に見えねぇもん」
そう言ってまた笑う。
「直樹〜!!」
そう叫んで、頭にゴツっと拳骨を落としてやった。
「イテッ!!」
頭を押さえてやっと笑うのをやめた直樹。
それでも
「まぁ、普段周りに寄ってくる女達よりもよっぽど面白いから、俺は別に付き合ってみてもいいんだけどな」
そんな風に憎まれ口を叩くが…
その言葉が、却って切なく聞こえた。
直樹は…やっぱり人とのつながりを断ち切っている。
自ら…周りを拒絶しているのだ。
でも…彼をそうさせているのは…きっと周りなのだ。
こうしてふざけている時は、本当にただのいたずらっ子のようなのに。

…まぁ、話している内容はともかく。

ちょっと、考え込んでしまっていた僕の耳に、直樹の囁きが届いた。
「…久しぶりに笑ったな」
ちらりと顔を見ると…
直樹の頬が、少し赤くなってた。

ちょっとだけ、近づけた気がして。
何とかやっていける気がして。
嬉しくて、僕の頬も赤くなった。

この時は、
彼を取り巻く環境が
あんなにも絡まってしまっている事を
僕は
知る由もなかったのだ。


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お久しぶりの更新でございます。
久しぶりだったので、自分で読み返しました(爆)。
ブラック直樹でございます(笑)。
あぁ…好きですね、こういうイジワルさ加減。