NO11 鈴木と鎌田は実験棟に急いで向かった。 「お待ち下さい。IDNOをお願いします」 入り口の警備員が事務的に尋ねてくる。 「…特別研究員だ」 白衣の胸の位置につけられたプレートを見せる。 特権が与えられている。とはいっても結局は確認を迫られるのだ。 やはり、警備員は再度質問を繰り返す。 「IDNOとお名前をお願いします」 「NO.57083の鈴木とNO.57085の鎌田だ。我々特別研究員はここの出入りを許可されている。いい加減覚えてくれ」 吐き捨てるように言う鈴木。それでも警備員はまるで機械のように事務的確認作業を行なっている。 ポケットからデータ管理カードを取り出し、NOと名前を入力している。 「鈴木・鎌田…確認完了。…どうぞお入りください」 その言葉を聞き終わらないうちに、二人は第3実験室へと走った。 「いた!」 今まさに、実験室に運び込まれようとしている大野の姿。 移動の為、普段繋がれているデータ取得用のコード類は一旦外されていた。 連れ去るには…いいチャンスだった。 二人はギリギリの所で実験員達の足を止めさせた。 「失礼。今回、我々の研究にNO.001を対象にする事になった。実験を行なう前に、どうしてもデータが欲しい。今日の実験を中止してもらえないだろうか」 呼吸を整えながら何とか発した鈴木の言葉に実験員が声を荒げた。 「実験を中止!?何を考えてるんだ。出来るわけないだろう、そんな事」 「今回の実験はNO.001を対象にせずとも可能な実験じゃないのか?」 鎌田の言葉に実験員は少しひるんだ。 「実験内容は、確かにそうかもしれないが、我々は実験棟監視人からNO.001の指定を受けている」 「催眠効果による記憶操作と洗脳状態の分析。そんな実験にわざわざ意識のないNO.001を使う事自体がおかしいじゃないか」 「だが…」 実験員の言葉を遮り鈴木は一気にまくし立てる。 「とにかく、我々の研究には彼が必要不可欠だ。こちらに渡してもらう」 「そんなわけにはいかない。監視人から…」 「実験棟の役割は、研究棟の人間の為に実験を行う事だ。その研究棟の人間、しかも特別研究員が研究対象の引渡しを依頼しているんだ。立場的にどちらが上なのかわかってるのか?」 今まで見たこともないほどの強気な鈴木に鎌田が圧倒される中、実験員達も圧倒されていた。 その間に、鈴木は実験員達を押しやって、大野へと近づく。 「悪いが、俺達のが上なんだよ。NO.001は研究のため、別棟へ移動する」 そういって大野が乗るストレッチャーを奪い取る。 そのまま、二人は急いで実験棟をあとにした。 実験員達はあまりの唐突な出来事にしばらく無言で見送っていた。 ++ ++ ++ 二人は大野を連れて尾身が待つ別棟へと急いだ。 「大丈夫なのか?」 鎌田の問いに 「ここまで、強引にやってしまったら、もうバレるのは時間の問題だ。とにかく急ごう」 騒ぎになる前に、二人を逃がしておきたい。 別棟に着くと、尾身が待ちくたびれたように声をあげた。 「遅いよ」 「悪い。色々込み入ってたんだ。とにかく、急いでここを出てくれ」 「ちょっと待ってよ。ここを出てどうすればいいんだよ」 「東京に出て…このメモの住所に向かってくれ。あと、少ししかないが、金も用意してある」 逃げ切ってくれ。 鈴木の真剣な眼差しに、尾身は息を呑んだ。 「悪いが…大野を連れてくるのに、少々強引な方法をとってしまった。もう時期、各棟の監視人が動き出す。そうなっては逃げるのは至難の業だ。今のうちに…少しの騒ぎなら、俺達がなんとかするから…」 頼む。大野を連れて逃げてくれ。 鎌田と鈴木の言葉に、尾身は大きく頷く。 ストレッチャーから大野を担ぎ上げ、最後に二人をじっと見つめた。 「二人も…絶対に無事でいてくれ」 そういって、尾身は別棟を後にする。 すぐ裏にある森に入っていく姿を見送って、二人はやっと息をついた。 「…逃げ切ってくれよ」 鎌田の言葉に、鈴木も頷く。 「尾身なら、大丈夫だ。とりあえず、町田に連絡をいれておこう」 「そうだな…急がなきゃ、俺達も色々忙しくなるからな」 色んな意味を込めた鎌田の台詞に、鈴木は苦笑いを浮かべた。 「まぁな、でも何とかなるさ。今まで…そう、今日までここでやってこれたんだ」 多少の事じゃ、やられないさ。 鈴木の言葉に、鎌田は微かに笑う。 「それもそうだな…」 二人は、研究棟へと戻っていった。 その頃、すでに真都が動き出している事にはまだ気がついていなかった。 ++ ++ ++ 「僕らは、生活棟で知り合ったんだ」 ゆっくりと言葉を綴る僕に、慎吾は優しい微笑みを向けていた。 「全員、親に捨てられて…生活棟に拾われた。食べ物はあたるし、友達も出来た。楽しく過ごしてこれたんだ…」 そう、あの時までは… 2102年。4人の少年達が生活棟監視人に呼ばれた。 「屋良君・植村君・木君・尾身君」 それぞれの名前を呼び、監視人は笑顔でこう続けた。 「君達には、今日から真都の為の実験に協力してもらう事になりました。素晴らしいことなので、是非頑張ってください」 「実験って…どんな事なの?」 植村の問いに、監視人は口元だけ笑って答えた。 「素晴らしい実験だよ。真都がもっともっと発展していく為の、とても大事な実験なんだよ」 さぁ、早速実験棟に移動しよう。 監視人に言われるままに、彼らは生活棟を後にした。何が起こるかも理解しきれていないまま… 12〜13歳の少年達は、何もわからないまま人生を狂わされる事になる。 ++ ++ ++ 各自が個室を与えられ、別々に生活する事を余儀なくされた。 顔を合わせる事が出来るのは、食事の時間と1日に1時間だけ与えられる自由時間のみ。 それ以外の時間は担当員がつきっきりで、頭脳や体力、運動神経のデータを取りつづける。 「あ〜あ。もう、やんなっちゃった」 最年少の屋良は少し口を尖らせた。 「屋良っち、そんな事いわないの」 植村に言われ、シュンと下を向く。 「だって…皆と全然遊べないじゃん」 それに… 「一体、何の実験されるの?僕…怖いよ」 「弱虫だな、屋良っち」 尾身が笑う。 「違うもん!弱虫じゃないもん!!」 必死に反論する屋良に 「でも、俺…屋良っちの言ってるのわかるよ」 と心細げに呟く木。 「誠まで?」 尾身に言われ、小さく頷く。 「最近、俺…よく薬飲まされるんだ。今度、注射を受ける為の準備だって言われて…何の薬かわかんないんだけど…とにかく飲むと気持ち悪くなるんだ…頭がグルグルして…」 なんだか、怖いよ。 その言葉に、全員が黙り込む。 「…薬って、何の薬なんだろ」 屋良の問いかけに植村は少し考え込む。 「でも、僕は飲まされてないよ」 「僕も…」 「俺も、飲まされてない」 三人の言葉に、高木はハっと顔を上げた。 「俺だけなの?」 「高木だけ…何か違う実験なのかな…」 植村が呟く。 「わかんないけど…やっぱり、怖いよ」 高木はそう言うと、静かに自由室を後にした。 木に「リーディング」の試薬投与が行なわれたのは、その翌日の事だった。 ********** 11話です。 なんとなく、自分が当初考えていた流れと違っている気がする(苦笑)。 どっかで、辻褄合わせしなければ…。 とうとう、大ちゃんを連れ出しました! 尾身っちは無事に大ちゃんを連れて、町のところまで逃げる事が出来るのか!? そして、やっと屋良っち達の過去にも触れてます。 次回も屋良っち達の過去から書いていきたいと思います。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |