NO12

「最近、誠君ここに来ないね」
自由室で屋良が呟いた言葉に、尾身も頷く。
「誠、何やってんだろ」
なぁ、良侑。
と植村を見た尾身は少し驚いた声で尋ねた。
「良侑?どうかした?顔、真っ青だぞ?」
「…ねぇ、1週間前に高木にここで逢った時、薬飲まされてるって話してたよね?」
そう尋ねた植村は、少し震えながら、膝を抱えて座っている。
「あぁ、そんな話してたよな」
「誠君、怖がってたもん」
頷く二人に、植村は更に尋ねる。
「二人は…薬、飲まされてる?」
「え?薬?」
顔を見合わせる。
「俺は、飲んでないよ」
尾身の言葉に
「僕も…飲んでない」
と、屋良も答える。
「…そう。そうなんだ」
そういって、また黙り込んでしまった植村。
さっきよりも、震えは激しくなっていた。
「…良侑。もしかして」
尾身が問いかけると、微かに頷いてみせた。
「高木があの話をしてから3日後くらいから…飲まされ始めたんだ。飲むと頭がクラクラして…吐き気がして。どうしようもなく不安になったりするんだ…。怖くて…高木と話をしようと思って。高木はどんな症状が出てるのか…何か特別な実験をされたのか…なのに、あれ以来、高木は姿を現さない。そうなると余計怖くなってきて…。もしかして、とんでもない事をされてるんじゃないかって…僕も、これから何かされるんじゃないかって…」
怖くて…眠る事さえ出来ないんだ…。
訴える植村は泣いていた。
二人は植村をぎゅっと抱きしめた。何も言わずに…いや、何を言っていいのかわからずに…。
ただ、不安だけが三人を包み込んでいた。
++ ++ ++
翌日、いつもと変わらず能力データの測定を行なわれていた三人は耳を劈くような悲鳴を聞いた。
        ッ!!!」
それは…久しぶりに聞く木の声だった。
屋良は走ってドアを開けに行く。
「何をする!!データがっ!!」
担当員の言葉を無視して、ドアをあける。
尾身も、植村も同時にドアをあけていた。
そして、3人の眼に入ってきた光景は頭を抱え、床をのたうち回る高木の姿だった。
「誠君!!」
屋良が駆け寄る。
尾身も駆け寄り、高木に触れる。
すると
「止めてよっ!!触るなぁ〜!!!」
物凄い形相で睨みつけてくる木。
「…誠、どうしたんだよ!」
尾身の言葉に木は震えながらただ一言だけ呟いた。
「逃げろ…」
「え?」
聞き返した時、高木はすでに担当員に捕まえられていた。
「全く、逃げ出すなんて…」
「止めろっ!!もう、止めてくれ!!!」
叫ぶ高木。
個室に連れ戻され、ドアが閉められる瞬間…
「助けて!!」
木の叫び声がフロアに響いた。
「一体…何が」
尾身が呟いた時、後ろで植村の声が聞こえた。
「やっぱり…やっぱり…」
次の瞬間、植村は叫びながら走り出した。
「よっくん!!!」
屋良の呼びかけにも答えず、走る。
が、すぐに担当員が捕まえてしまった。
「…離して!!」
暴れる植村に、担当員が溜息をつく。
「仕方ない…予定変更だ」
そういうと、白衣の内側から、注射器を取りだし、植村の首筋に射し込む。
「う…」
カクっと植村の力が抜けたのがわかった。
ダラリと腕をたらして、担当員に引きずられていく。
それは、個室へ、ではなく…
「トラブル発生。予定を変更し、今から投与を行なってください」
どこかへ連絡をつけた担当員が植村を棟から連れ出そうとしている。
「おい!!!良侑をどこに連れてくんだよッ!!」
追いかけようとする尾身を、尾身の担当員が後ろから抑え込む。
「離せよッ!!良侑をどうするつもりだよ!!!誠に一体何したんだよ!!!教えろよ!!」
羽交い締めにされたまま、部屋へと引きずり込まれていく尾身。
屋良は、身動きをとる事すら出来ずに…立ち尽くしていた。
「よっくん…誠君…尾身っち…」
涙が止めど無く溢れてくる。
どうして、こんな事に…
僕らが、一体何をしたというのだろう。
誠君は…よっくんはどうなってしまうのだろう?
尾身っちだってそうだ…。
そして…僕は?
夢だったらいいのに…
全てが、夢だったら…眼が醒めたら、皆と前と変わらず仲良く遊んで…ケンカもしたりしながら…
涙で、視界がぼやける。床に倒れ込む。


    お願い…


担当員が抱えあげ、個室へと連れ戻そうとする。


    これが、悪夢なら…


担当員の呟く声が聞こえる。


    僕を、眠りから目覚めさせて…


「大人しくしろ。データを取らなければ実験が遅れる…」


    もしも…醒める事のない悪夢なら…


「全く…モルモットの分際で」


    お願い…


「お前達には、もう人間としての権利はない。逆らうな」


    誰か…





                                                  
僕を殺して



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12話です。
あぁ…こんな部分、当初考えてなかったんですが…(汗)。
でも、ちょっと気に入ってるのでそのままUP(笑)。
思った以上に回想シーンが長くなりそうですね〜。
途中に現在の状態も織り交ぜながら、回想シーンを続けていきたいと思います。

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