NO13 あれから、1週間。植村は個室に篭っていた。 「誠も、良侑も…一体、何をされたんだろうな」 自由室で尾身が呟いた。 …が、屋良から返事は返らない。 あの出来事があってから…ショックのせいか屋良はほとんど喋らなかった。 「なぁ、屋良っち…俺さ、昨日から…薬、飲んでるんだ」 尾身の言葉に屋良は驚いた顔で尾身を見つめた。 「だからさ、俺も…もう、ここにこれないかもしれない」 ボソっと呟いた尾身の腕を、屋良はギュッと掴んだ。 「屋良っち?」 「……」 しっかりと腕を掴み、ゆっくりと口を開く。 「…や」 「何?」 「やだ…」 「…屋良っち」 もう…これ以上友達を失いたくない。 屋良の願いは、ただそれだけだった。 それすらも、叶う事のない現実。 そんな屋良の気持ちを察したのか、尾身は屋良に向かって言い聞かせるように答えた。 「わかった…。戻ってくるよ。何をされても、ここにちゃんと戻ってくるから」 だから、屋良っちも頑張れ。 屋良の頭に、ポンっと手を置き、クシャっと頭を撫ぜる。 「約束…だよ?」 呟く屋良に、尾身は笑顔で頷いた。 そして…3日後、尾身の投与実験が行なわれた。 ++ ++ ++ 「尾身っち…」 自由室へ向かった屋良は、誰もいないその部屋に呆然とたたずんでいた。 やっぱり、尾身っちも…。 部屋の隅に、小さく蹲る。 4人では狭く感じたこの部屋も、一人では怖いくらい広く感じた。 「皆…」 どうしてるんだろう… そして…僕はどうなるんだろう… 泣きそうになって、キュっと目を瞑った時… 「泣き虫」 少し笑ったような声。 「尾身っち!!!」 目を開ける。そこには、尾身の姿と… 「よっくん!」 尾身に隠れるように立っている植村が見えた。 「ゴメン…もう、大丈夫」 そう言って、植村は部屋へと入ってきた。 尾身も入り、ドアを閉める。 しばしの沈黙の後、尾身が口を開いた。 「…俺達は、超能力を植え付けられてるみたいだ」 「超能力?」 屋良の問いかけに、尾身は頷き、続ける。 「俺は…マインドコントロール。ただし、あんまり上手くいかなかったみたいだけどな」 だから、全然元気なんだよ、俺。 そう言って、悪戯っぽく笑う。 「で、良侑は…」 「僕は、ヒーリングだって」 消え入るような声で、植村が答える。 「ヒーリング?」 「そう…でも、僕の場合、別に能力を入れられたからって、体の何処かが辛いわけじゃなかった。ただ…」 「ただ?」 「その後の実験が…辛くて。すごく辛くて…。怪我をした人達の前に連れていかれて…そうすると、何もしてないのに、傷を癒してしまうんだ。それはいい事なんだけど…血だらけの人達が次々と僕の足や腕につかまってくる。…治してくれって物凄い力で…怖くて、逃げ出したいんだけど押さえ付けられてて逃げれない。毎日、毎日そんな人達の中に放り出されて、データをとらされるんだ。何か、頭の中にまでチューブを入れられて…痛くて、辛くて…薬の副作用のせいか、ものすごく精神的にも不安定になって…1度、自分に傷をつけたんだ…でもね、治っちゃうんだよ。何もしてないのに…切った所が、自然とふさがっていくんだ…僕は、この先、どんなことがあっても…死ねないんだよ。死ぬのって怖いけど…でも、死ねないのって…もっと怖い事だったんだって、初めて気がついたんだ」 そこまで言って、少し深呼吸した植村は、ゆっくりと言葉を続ける。 「体の傷は癒せても…心は癒せないんだよ」 辛そうに呟いた植村は、それでも無理に笑顔を見せてこう言った。 「でも、僕は負けなかった。また、皆に会いたかったから…それだけを支えに頑張ったんだ」 「よっくん…」 呼びかけた屋良に、植村は黙って頷いた。 「…問題は、誠だよな」 横で、尾身が呟く。 「誠君…酷いの?」 「誠は、どうやらリーディングの能力を植え付けられたらしい」 「リーディング??」 「そう、周りの人間の心が聞こえてくる力なんだ」 「心が…」 「聞きたくなくても…周りの人間の思いが、全て頭に流れ込んでくる。24時間ずっとだ。辛いに決まってる」 「…誠君。大丈夫かな」 心配そうに呟いた屋良。 その問いかけに対して…2人は答えを出す事が出来なかった。 ++ ++ ++ 尾身の実験から、1ヶ月遅れたある日。 いつも通り実験データを取る為に入ってきた担当員は、屋良に向かって言った。 「今日から、データを取る前に、この薬を飲んでもらう」 …とうとう、僕も。 屋良は、動けなかった。 「何をしてる。早く飲むんだ」 担当員が薬を差し出す。 「やだよ…僕、やだよ…」 やっと声を出した屋良に、担当員は冷たく言い放つ。 「実験の為だ。前にも言ったとおり、お前達には拒否する権利はない」 もう…逃れられない。 屋良は、全てを諦めた。 ゆっくりと手を伸ばし、薬を受け取る。 そして…無理やり飲み干した。 症状はすぐに現れる。 視界が歪む。 心臓の音が、頭中に響き渡り、脈も速くなる。 大きく揺れる世界… 激しい吐き気に襲われる。 体と心が引き裂かれるような感覚。 誰かの声が聞こえる… 「おい…聞こ…る…」 微かに…途切れ途切れ聞こえる声。 脳が、溶けて…流れ出しそうな… 瞬間、目の前が真っ赤に染まる。 「…!!し…か…しろッ…」 世界が…壊れていく。 そして…僕は…どこまでも堕ちていく… 赤く…赤く染まる世界… その赤い…世界の底まで… 僕は… 堕ちて… い…く… 「緊急事態。タイプ004に投与したところ、拒否反応発生。両眼から大量の血液が流出。脈拍増加。過呼吸状態。意識レベルの低下を確認。特殊病棟へ搬入します」 担当員は、そう連絡すると、意識のない屋良を抱えあげた。 屋良は、しばらく痙攣を起していたが…徐々に動かなくなった。生きる事を拒絶したかのように… まるで、人形のようにダラリと垂れ下がる手足。 それでも、両眼から流れ続ける血液は…止めど無く溢れる涙のようだった。 ********** いつまで続くんでしょう、回想シーン。 って事で、13話です。 前回に引き続き、考えてもいなかった設定満載な今回(ぇ)。 背景を赤くしてみましたv赤い世界〜♪ それにしても…屋良っち…屋良っち〜(叫)。 …なんか、私オカシイです(爆)。 まだまだ終わらねぇ…。まだ、半分もいってません〜。 これから、敵も出てくるのに…。まだ、敵の「て」の字も出てきませんね(苦笑)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |