NO15

彼等は、2年間を何事もなく、無事に鈴木達の元で暮らしていた。
時折、自分達の能力に苦しめられる事があったが、それでも鈴木達の開発した薬のおかげで、難なく過ごしてこれたのだ。
が、ある日、鈴木が4人の部屋に難しい顔をしてやってきた。
「鈴木君?どうしたの?」
植村の問いかけに、鈴木は少し眉をひそめた。
「すまない。もう、実験はしないと言ったのに…これから1週間に1度はデータを提出しなくてはいけなくなった」
「…データ?」
高木が怖々尋ねる。
「単純な能力数値のデータでいいんだ。提出しないと、研究対象外として実験棟へ戻せと言われた」
本当に、すまない…。
謝る鈴木に尾身が笑う。
「別にイイよ、1週間に1度、管つけて数値を弾き出すぐらいどうって事ないさ」
今まで、もっと酷い事されてきたんだ。
その言葉に、他の三人も頷いた。
「あの場所に戻されるくらいなら…」
そうして、4人は週毎に実験を行う生活になった。
それでも、悪夢のような毎日から解放された4人は、見違えるように元気になっていった。
屋良を除いて。
彼は、もともと薬に対して拒絶反応を起しやすく、能力抑制剤にも、そして、実験で使用する薬にも時々拒絶反応を起していた。
屋良の為に、特別に改良してみるものの、やはり、反応を繰り返す。
衰弱が激しくなってきた為、鈴木達は屋良を一般病棟へ入院させた。
そんな中…新たな悪夢は足音を立てずに、ジワジワと…そして、確実に背後に迫ってきていた。
++ ++ ++
屋良が入院してから2週間が経った頃。
「鈴木!」
勢い良くドアをあけ、研究所に駆込んできた鎌田に、鈴木は驚き振り向いた。
「どうしたんだよ」
「…信じられない。新たな能力者が誕生してるんだ」
「まさか!!俺たちは試薬の研究を中止したじゃないか!!」
鈴木達は、4人を特殊研究棟に引き取った直後、試薬での副作用を理由に開発を中止した。
それ以来、彼等は真都から依頼される中で、あたりさわりのない実験ばかりをこなしていた。
そして、秘密裏に能力を抑える薬の研究を行なっていたのだ。
「…屋良達の実験結果を元に、実験棟と研究棟で俺達の試薬を改良し、遺伝子研究を極秘に進めていたらしい」
「そんな…」
「週に1度提出していたデータも…開発への手助けになっていたって事だ」
「俺達の試薬データは…全て解析されていたって事か」
「あぁ…そして、屋良達を助け出したところで…あいつ等には、確実にデータを確保できる実験対象がいるんだよ」
「大野か…」
「そうだ。試薬を改良しては大野への投与を繰り返していたらしい」
「そんな事をしたら、大野は…」
「…意識は、すでにないらしい」
鈴木は言葉を失った。
「特殊病棟の連中が話してたんだ。とうとう、完成体が出来たらしい…と。そして、001の意識は、回復してない状態だと…」
「完成体…そう言ったのか?」
「あぁ…第2世代の誕生だ」
まさか、そんな事態になっているとは…。
自分達が能力を抑える実験に没頭している間に、真都は第2世代を誕生させていたなんて…。
鈴木は机を思いきり叩きつけた。
その時、コールが鳴り響く。
それは、監視人からの呼び出しを知らせる音。
「嫌な、予感がするな…」
二人は呟いて、監視人室へ向かった。
++ ++ ++
「失礼します」
二人がドアをあけると、監視人は不敵に笑って迎え入れる。
「君達に、お願いがある」
お願い…監視人の「お願い」はいわゆる「命令」だ。
「なんでしょうか?」
「君達の…研究対象を実験棟へ戻してもらえないだろうか」
「どうしてですか?」
「彼等は…所謂試作品。それも…失敗作だ。そのまま放っておくわけにはいかない」
「…どういう、意味ですか」
鋭い視線を投げかけた鈴木に、監視人は冷淡に告げた。
「改良か…消去か。二つに一つだ」
唐突な言葉に、二人は愕然とした。
「…彼等は、人間です」
「だが、彼等は実験体だ」
「ですが…」
「とにかく、引渡しを要請する」
監視人の目が、二人を射貫く。
が、鈴木は負けなかった。
「お断りします」
「君等は…真都に逆らうのか?」
「そうではありません…。ただ、我々の研究ももう少しで結果が出るんです。彼等はその実験には必要不可欠。我々の研究が終わってからの引渡しではだめなんでしょうか?」
鈴木の言葉に、監視人は少し考えてから、頷いた。
「いいだろう。ただし、実験が終わり次第、引き渡してもらう」
「…わかりました。失礼します」
そういって、背を向ける鈴木。
慌てて追いかける鎌田。
その背後から監視人の声が追いかけてくる。
「君達も…真都の監視下にある、という事を忘れるな」
鈴木は、振り向きもせずドアを思いきり閉めた。
++ ++ ++
研究室に戻った二人は、しばらく無言のままだった。
「なぁ…」
先に口を開いたのは、鎌田の方だった。
「引き渡すのか?」
彼等を…
その問いに、心底ビックリした顔で鈴木は答える。
「まさか!」
「じゃあ、どうするんだ。あんな事言って…引き渡せ、と言われた時に、どう断るつもりだ」
「…断りはしないさ」
「じゃあ、やっぱり引き渡すのか?」
「そんな真似はしない」
「どうするつもりなんだ?」
鈴木は、まっすぐに鎌田を見据え、言い放った。
「彼等を…逃がすんだ」


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15話です。
…って、気がつけば15話まできてたんですね〜。
早いもんだ…って、あれ?全然進んでないぞ?(爆)。
えっと…ちょっと、軌道修正しきれていない感じですが(というより、無理やり繋げすぎ・苦笑)許して下さい(汗)。
次回で、やっと彼等は逃げます。そして、現在に戻します。
そして、もうすぐ真都との衝突も…あると思うなぁ(爆)。

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