NO16

「一体、なんだろうね」
突然、鈴木達に呼び出された二人は、主のいない部屋の中で不安を感じていた。
「高木も何も聞いてないの?」
「ただ…部屋に来てくれ、とだけ。植村は?」
「同じだよ」
そっか…
高木が呟いた時、ドアが開き、鈴木達が入ってきた。
「すまない、突然呼び出したりして」
少し、難しい顔の鈴木。
「いいよ、別に。それより…一体何?」
高木が問うと、鎌田がゆっくりと口を開く。
「今から、別棟に移ってくれないか」
「…別棟」
そこは、研究員達が、大規模な研究を行なう場所として立てられた、特殊研究との真横に位置する、真都を覆い囲んでいる森に一番近い場所にある建物だった
その別棟への移動。それは、研究対象という事になる。
「僕らは…また、実験をされるの?」
恐る恐る尋ねた植村に、鈴木は大きく首を振った。
「違う、そうじゃない。そうさせない為に、移動してもらうんだ」
「…どういう、事?」
「詳しくは、説明できないけど…とりあえず、この紙を」
「何?」
手渡された紙に目を通す。
そこには、見知らぬ人の名前と住所が書いてあった。
「東京に着いたら、ココに向かうんだ」
「…東京?」
「そう、東京だ」
「…一体、どういう事?」
「ココから…逃げるんだ」
声を潜めた鈴木の言葉に、二人は息を呑んだ。
「逃げるって…?」
「その為に、別棟へ移動してもらうんだ。あそこは、森のすぐ傍にあるし、出入りの管理も研究を行なっている研究員に任されてる。つまり…逃亡しやすいんだよ」
「でも…」
「大丈夫。薬も準備してある。数は少ないが、順調にメモの場所に辿りつければ十分足りる量だ」
鎌田は木に薬を手渡した。
それを受け取りながら、高木が問いかける。
「…僕ら、二人だけ?」
それは、植村も思っていた。呼ばれたのは自分達だけ…。となると、尾身や屋良は一体どうなるのか?
「いや、3人だ」
…屋良も含めて。
そう言った、鈴木に植村はとっさに尋ねた。
「尾身君はどうなるの?」
「彼は…ちょっと後から逃げてもらう。彼には頼みたい事があるんだ」
「…そう。でも、逃がしてくれるんだよね?」
念を押して尋ねる高木に鈴木達はしっかりと頷いた。
「大丈夫。必ず逃がしてみせる」
「屋良っちは、どうするの?」
「屋良は、実験の対象って事で、一般病棟から別棟へ移動させる事にしてる。屋良が到着次第、逃げ出してくれ」
「…分った」
「とりあえず、別棟へ向かおう」
鈴木達に連れられ、二人は別棟へと向かった。
++ ++ ++
「その後…僕が病棟から運び出されたんだ。最初は不安だったけど…別棟にはよっくんも誠くんも待ってて…僕は2週間射しっぱなしだった点滴と、チューブ類を全て引き抜いて二人と別棟から…真都から逃げ出したんだ」
「そしたら…やっぱり2週間寝てたせいか、屋良っちは足元がふらついてて…」
「転んで…ちょっとだけ蹲ってたら、何時の間にか二人がいなくなってたんだ」
「それで…一人でゴミの中に埋もれてたんだね」
慎吾に言われて、コクっと頷いた。
「でも、ホント慎吾が拾ってくれて良かった」
じゃなきゃ…
「2度と…二人に逢えなくなるところだった」
そう言った僕に、慎吾はニッコリ笑って言った。
「大丈夫。たとえ、はぐれたままだったとしても…必ず探し出したと思うよ」
「どうして?」
尋ねた僕に、慎吾はゆっくりと答えた。
「だって…朝幸は、僕に飼われる運命だったんだから」
慎吾の手が僕の頭を撫ぜる。
僕は…慎吾にこうされるのがとても好きだ。
忘れかけていた…人の温かさを感じる事が出来るから。
++ ++ ++
「あってんのかな…」
尾身は、一人呟いた。
辺りは見渡す限り深い森。
どこに向かって歩いているかなんて、皆目分らない。
それにしても…
「軽いな…人間一人抱えてんのに」
担いでいる男は、まるで重さを感じないかのように軽かった。
服から覗く手や足…そして首すらも、折れそうなくらいに細かった。
…一体、彼は何者なんだろうか。
鈴木達から、逃げる前に渡されたものがあった。
それは、町田慎吾の家の住所。そして、尾身の為の薬。そして…
『大野が、暴れる事があったらコレを…』
そう言って、渡されたものは注射器とアンプルが少量入ったケース。
『大野は、意識が無い。薬を飲ます事は困難だから、注射式に改良してある。大量には準備出来なかったが、町田の家までは間に合うと思う。その後は、このケースに入ったデータを町田に渡せば、アイツが製造してくれるはずだ』
…そう、言ってた。
俺達と同じ抑制剤を飲む…いや、注射すると言う事は、同じく能力者、と言う事か?それにしても…この衰弱の激しさ。そして、意識不明の状態。…一体、彼は何をされたんだろうか。そして、町田慎吾とは一体何者なのか。
「…って、考えてても仕方ねぇや」
尾身は、少しだけ左右に頭を振ると、遅くなっていた歩みをまた速めた。
鈴木から聞いた話だと、屋良が保護されたのは、彼等が逃げてから3日後。そこから計算すれば、…自分なら2日で東京に出れるだろう。早めに抜けてしまわないと。
『もう時期、各棟の監視人が動き出す』
鈴木達もそう言っていたが、そうそう真都が逃亡者を見逃してるとは思えない。
多分、真都は何かを仕掛けてくるだろう。
だから、出来るだけ早く東京に出て、皆と合流しておきたかった。
何よりも…この「大野智」をとにかく町田慎吾の元へ届けなければ。
可哀想な気がしたのだ。自分達よりももっと酷い目にあってきたんだと、安易に想像が出来た。
…助けてやりたい。
尾身は思った。
真都に残った鈴木や鎌田の事も心配だったが、とにかくその二人の為にも、この「大野智」を無事に助け出さなければ。
尾身は、とにかく歩き続けた。
大野は…まるで人形のように力無く抱えあげられたままだった。
虚ろな瞳は何も映さず…だが、静かに何かを訴えているようだった。


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お待たせ致しました。16話です。
回想シーン終了。ホントに長かったですね(苦笑)。
やっと現在に戻ってまいりましたv
もうすぐ、尾身っちと屋良っち達の合流。そして、町と大ちゃんの再会です。
ふぅ…やっとココまで来た。
多分…次回か、その次辺りで真都から「敵」が放たれる…と思います。
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