NO20 丸二日間。実験データ採取のため、4人と共に時間を過ごしてきた鈴木は大きな不安を抱えていた。 4人の完成体の能力値は計り知れないものがあった。 なにより、彼らは自分たちで能力をコントロールする事が出来る。 もし、彼らと屋良達が戦う事になったら…99%、彼らが勝利するだろう。 それは…屋良達の死を意味する。 深く溜息をついた鈴木に、鎌田が話し掛けてきた。 「どうしたんだよ」 「いや、ちょっとな」 「…アイツ等の事か?」 「まぁ、そんなトコ」 「尾身、逃げ切れたかな」 「そうだなぁ、そろそろ東京に辿りついてる頃だと思うけど」 「大野は…大丈夫だっただろうか」 「…大丈夫さ。きっと」 そこまで話して、また沈黙が部屋中を包み込み…彼らは薬の開発に没頭し始めた。 開発期限は…あと20時間。 ++ ++ ++ 尾身は、右足を引きずりながらも大野を背負い、東京へと辿りついた。 あとは、指定された住所へ向うだけ…。 さすがに歩いて探すのは辛いものがある。 ふと、路上に止まっている車に目をやった。 人が乗っている。これは、使えるかもしれない。 尾身は、車のドアを開け、後部座席に大野を降ろし、自分は助手席に乗り込んだ。 「なんだよ、お前!!」 そう言って振り向いてきた男の額に手を当てる。 少し、力を込めると、男は口をつぐんだ。 「…この住所の場所に連れていってくれ」 「わかった…」 男は車を走らせた。 大嫌いな自分の能力を、こうして使う瞬間…吐き気がするほど、自分が嫌になる。 溜息をついて、尾身は街の景色へと目をやった。 ++ ++ ++ 車が止まったのは、郊外にある白い小さな家の前だった。 「ありがとう」 そう言って、尾身は大野を抱え降ろし、車から離れた。 車は大きな音を立てて去っていく。 「ココか…」 やっと、会える。 ドアノブに手を当て、深呼吸する。 そして… 「失礼します」 大きな声で呼びかけると… 「尾身君!!」 出てきたのは、人懐っこい犬のような… 「良侑!」 「良かった…」 「あれ、他の皆は?」 「誠君は、今屋良っちについてる」 「…屋良っち、どうかしたのか?」 「また、発作だよ。目を覚まさないんだ」 「…そっか。なぁ、町田って人は?」 「あ、まって。今呼んでくる」 そういって、植村は奥の部屋へと走っていった。 しばらくすると、植村の後ろについて、誰かが出てきた。 その人物は、尾身の後ろに凭れ掛ってる大野の姿を見て、一瞬息を呑んだ。 「…大野!!」 駆け寄ってくる。 「大野…良かった…生きてた…」 その人の目から…一筋の涙が零れ落ちる。 「あの…」 「あ、ゴメン…。尾身君…だね?さぁ、入って。大変だっただろ?」 促されて部屋へと向う。 「あ、そうだ。大野は…コッチへ運んでくれるかな」 奥の部屋へと案内される。 そこには、真っ白いベッドが1つ置いてあるシンプルな部屋。 「あの…」 「何?」 「鈴木君たちから、言われて…このアンプルと薬を見せれば、あなたが作ってくれるって」 「あぁ、大丈夫。データはメールで送ってもらったし。僕が君達の薬を調合するから」 「ありがとうございます」 「…先に、戻っててもらえるかな?」 言われて、尾身はコクっと頷いた。 「じゃあ、失礼します」 「ありがと、ごめんね」 パタン、とドアが閉められる。 町田はゆっくりとベッドへ目を向けた。 もう…会う事はないと思っていた。 2度と会えないと覚悟していた。 自分の犯した罪によって…彼を失ってしまったと、ずっと思っていた。 「大野…」 ベッド脇に傅いて、大野の手を握る。 すっかり骨と皮だけになってしまった手。 握っても、握り返してくる事のない…冷たい手。 「ゴメン…ゴメン、大野」 町田は、泣いた。 自分の不甲斐無さと…真都の卑劣さに。 「良かった…生きててくれて本当に良かった…」 大野の手に顔を押し当てて涙する町田。 その時、大野の右目からも一筋の涙が零れ落ちていた。 偶然なのか…それとも。 どちらにせよ、泣き続けていた町田はその涙に気づく事はなかった。 ++ ++ ++ 「出来た…」 椅子の背もたれに体を投げ出して、鈴木は大きくため息をついた。 鎌田も大きく伸びをして、データを机の上に投げ出した。 「作っちまったな」 「仕方ないさ、そうするしかなかったんだ」 「…これで、屋良達はかなり辛い戦いをする事になるんだな」 「あぁ…そうだな」 しばしの沈黙のあと、二人は実験棟へと向った。 開発したばかりの試薬を持って。 あの…完成体が待つ実験室へと。 ++ ++ ++ 「失礼します」 実験室に入ると、そこには実験棟監視人もそろっていた。 「依頼されていた試薬が完成しましたので、お持ち致しました」 完成体以上に抑揚のない声で鈴木が試薬を差し出す。 「ごくろう。これで、君達の仕事はおしまいだ。しばらくゆっくり休んでくれ」 「…消される、って事ですかね?」 意味ありげな視線を投げかけた鈴木に 「君達の能力はそうそう簡単には手放す事は出来ない」 そういって、笑う監視人。 「って事は、洗脳って事かな」 ボソっと独り言のように呟いて、鈴木は完成体へと近づく。 「薬は、かなりの効力が確認されている。1日1回が限度。1回に服用できる錠剤は4錠まで。飲みすぎた場合は精神を破壊する可能性もあるので、十分に注意して欲しい」 以上だ。 鈴木はそのままクルっと背を向けると、鎌田と共に実験室を後にする。 ふと、振り向いて目を合わせる。 良知は…微かに頷いてみせた。 ++ ++ ++ 「さて、君達には早速任務に取りかかってもらう」 実験棟監視人の声が実験室に響く。 「逃亡者5名…そして、研究者1名の回収だ。ただし、回収不可能と判断した場合は、消去する事を許可する。それぞれの個人データは全て、君達の腕にあるPCに送信済みだ」 その言葉に、全員が手首についている時計サイズのPCを開く。コードを伸ばして、イヤホンとマイクをセットする。 良知は、少し考えてから兄の名前を口にした。 「町田慎吾」 その言葉に反応し、3D映像として、データが映し出される。 ![]() 町田のIDNOから身長体重…基本的なデータが全て表示される。 「このデータを元に、必ずプロトタイプ…いや、失敗作を見つけ出し回収、消去せよ」 以上だ。 監視人は部屋を後にする。 「じゃあ、俺達も行くか」 島田が振り返って尋ねる。 「そうだな、いつまでもココにいても仕方ないからな」 「でも、どう探せばいいの?」 首を傾げた萩原に、島田が答える。 「とにかく、東京に出る。その後は石田の能力に任せよう」 島田はドアをあけ、実験室から1歩踏み出した。 萩原も石田も後に続く。 …とうとう、始まってしまった。 良知は早くなる心臓をキュっと左手で押さえながら、彼らの後を追った。 ********** 立て続けに20話ですv 今回は…バックの映像に力入れてみました(爆)。や、ホントはもっとカッコ良く作りたかったんだけど…。 コレが良知君が見た3Dの映像って事です。 やっと、放たれましたよ、刺客。 そして、大野さんと町田さんの再会も無事果たし…。 これから、です。これからが勝負です。…色んな意味で。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |