NO21

「東京か」
遠いね。
森の入り口に立って、遠くを見つめながら呟いた萩原に島田が笑う。
「そんなに遠くもないさ。夜までには辿りつくよ」
「テレポーテーションとか出来れば良かったのにな」
石田の言葉に、
「そうだな、便利だったのにな」
と答える島田。
そんな会話を聞いて、良知は背筋が寒くなった。
石田も島田も…自分たちの能力を素晴らしいものだと思ってる。
…洗脳されたせいか、彼等の性格は変貌していた。
表面上はなんら変わりなく見える。13〜14歳の普通の少年のようだ。
…だが、はっきりと違っているところがある。
それは…自分たちを特別な人間だと思っているところだ。
その為か、彼等…特に島田と石田は冷酷な人間になっていた。
なんとかしなければ…
考え込んだ良知を島田が覗き込む。
「良知君?元気ないよ?」
「あ、なんでもないよ」
「なら、いいけど」
そう言って、島田は1歩踏み出した。
「あ、待ってよ」
萩原も石田もそれに続く。
良知も…ゆっくりと1歩を踏み出した。
彼等を止めるために…自分は、何をすべきなのか。どうすればいいのか。
難しい問題だったが…考える時間は全くと言っていいほどなかった。
彼等は、運動能力においても改良されていた。
歩く速度一つとってみても、力を発揮すれば常人の倍以上の早さで歩けた。
他の3人はそれすらも素晴らしいと思っている。
…が、良知は自分が人間じゃなくなっていくようで切なかった。
++ ++ ++
十数時間が経過した頃…彼等はすでに東京へ辿りついていた。
尾身が2日かけて抜けた森を…彼等は1日かからず抜けてきたのだ。
森を抜ける少し手前で、島田が全員に呼びかけた。
「ヤツ等の能力をもう一回確認しておいた方がいい」
そう言って、彼等はPCを開く。
次々にデータを呼び出し、映像が浮かび上がる。
「どの位の能力なんだろうね」
萩原の問いに、
「所詮、失敗作だからな。たいした事ないさ」
島田は吐き捨てるように答えた。
良知は、何も言えずただ黙って聞いていた。
すると、
「良知君、さっきから暗いけど…大丈夫?」
石田が尋ねてくる。
「あぁ、なんでもないよ。ちょっと疲れてるみたいだ」
「そっか。実験続きだったしね。良知君、体弱いから」
大丈夫?
心配そうな石田。こうしていると、昔となんら変わりないかのように思えるのに…。
戻りたい。また皆でバカやって騒いで…普通の生活を…変わり映えのない毎日を過ごしたい。
そんな事を考えていた良知は、島田の口から発せられた言葉に、現実へと引き戻された。
「石田、ヤツ等が見えるか?」
島田の言葉に、石田は少し首を捻った。
「まだ、はっきりとは見えない。霧がかかってるみたいだ」
でも…全員、揃ってる。
「1箇所に全員集まってるって事か。だったら、楽だな」
島田の言葉に石田も頷く。
そんな二人をみて、良知も、覚悟を決めた。
もう…戻る事は出来ない。
「早く、行こうよ」
萩原の言葉に、島田は頷きながら、口の端を微かに持ち上げて笑った。
「さぁ、ゲームの始まりだ」
++ ++ ++
ゆっくりと眼を覚ますと、見なれた顔が並んでいた。
「…あ、れ?尾身っち…?」
「屋良っち、やっと起きたかぁ」
心配したよ。
良侑がホッと息をつく。
「…また、夢を見てた」
「うん、辛そうだった」
「ごめんね、心配かけて」
謝ると
「起きてくれて…ホント良かった」
と誠君が言う。
「ねぇ、尾身っちいつ来たの?」
尋ねた僕に
「ちょっと前についたんだ」
さすがに疲れたよ…
と、苦笑する尾身っち。
「そっか。尾身っちも逃げ出せたんだ」
良かった…
安堵の溜息をつくと
「これで、全員揃ったね」
良侑がニッコリと笑う。
「そうだね。また皆で楽しく暮らせるようになればいいね」
答えた僕に、尾身っちが少し難しい顔をした。
「…だと、いいんだけどな。多分真都は俺達を放ってはおかないと思う」
「それって…」
誠君が不安そうに尾身っちを見ると…
「戦う事に、なるかもしれないな」
尾身っちはとても深刻そうに頷いた。
まさか…それが、すぐ傍まで迫っている出来事だなんて、僕等は思いもしていなかった。
++ ++ ++
遠くで…僕を呼ぶ声がする。
真っ暗な、何もない世界の底で…僕は蹲っていた。
僕は、感情というものを一切捨てた。
これ以上、傷つかない為に。
僕にはわかっていた。
ココを出てしまえば、また悪夢のような毎日が訪れる。
だから僕は眠り続ける。
「ヒト」として生きていくことが出来ないというのなら…
いつまでも…この世界が終わるまで。
すでに、僕は「ヒト」としての感覚を失い始めている。

誰か…
悪夢から…
僕を…救って欲しい。
今、僕のこの手を握り締めているのは…一体誰なんだろう。
懐かしい…とても懐かしい感触。
心地良い声。
忘れてしまっていた「ヒト」としての感情が…
少しずつ蘇ってくるような…

何かが右目から流れたみたいだ。
これは、なんだったか…
思い出せない…
思い出せないけど…
「ヒト」として大切なモノだと思う…

あぁ、僕は…
「ヒト」に戻れるのだろうか…
こうして、この手を握って…
離さないでいてくれる人がいるのなら…
この暗闇の底から…
眼を、覚ましてもいいかもしれない…



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21話です
追っ手の登場です。
今回は彼等メインでお送りしてみました。
やっと屋良っちも眼を覚まし…
ホントは屋良っちの眼を覚ますシーンももっと長く予定してたはずだったんですが、その下の大野君の心情とかぶりそうだったんで削りました(苦笑)。
もう時期、追っ手と出会います。まだまだ続きます。

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