NO23

皆が待つ部屋の前に立ち、町田は大きく深呼吸をした。
折角、やっと全員が再会を果たしたと言うのに、鈴木から聞かされた事実を告げるのは心が痛んだ。
だが、時間はない。追撃者はすぐにでも自分達を探し出すだろう。
戦わなくてはいけない。
その為にも、彼らには早く事実を伝えなくてはいけなかった。
重い気持ちを引きずりながら、町田はゆっくりとドアをあけた。
++ ++ ++
「慎吾!」
駆け寄った僕に
「目ぇ醒めたの?良かった」
と笑いかけてきた慎吾は…何かあったのか、少し難しそうな顔をしていた。
「慎吾、何かあったの?」
尋ねた僕に
「朝幸…皆も、落ちついて聞いてくれる?」
そういって、慎吾はテーブルにつく。
慌てて僕も慎吾の隣に座った。
全員が席についたのを確認してから、慎吾はゆっくりと口を開いた。
「追撃者が…放たれたらしい」
「追撃者?」
驚いた誠君の声が響く。
「やっぱり…」
落ちついた声で、尾身っちは深く頷いている。
「…ねぇ、もしもだよ?もし、捕まったら、僕等…どうなるの?」
恐る恐る尋ねてみた僕に、慎吾は少し眉を顰めた。
「わからない。でも、今まで以上に辛い目にあうのは目に見えてる」
「追撃者って…僕等と同じなのかな?」
よっくんの言葉に、慎吾は頷いた。
「彼らは…完成体だそうだ」
「完成体?」
「そう、能力を使いこなしてるらしいよ」
「…強敵、だな」
尾身っちの言葉に、僕は少し不安な気持ちになった。
「でも、負けるわけにはいかない」
慎吾の力強い言葉が続く。
「慎吾?」
「もう、誰も失いたくないんだ。あんな辛い思いは…もう沢山だよ」
そう言って、慎吾は僕等をじっと見つめて続けた。
「力を合わせて、戦おう。幸い、追撃者の中に、僕等の味方が一人居る」
「え?」
「僕の…弟なんだけどね。…良知真次。朝幸と同じ歳なんだ。真次は…完成体ではあるけど、僕らの味方らしい」
だから、勝てるかもしれない。
そう言った慎吾の左目は少し寂しそうな色をしていた。
慎吾の弟…僕の歳を聞いた時、驚いた感じだったのは、きっと弟の事を思い出していたに違いない。
弟が完成体…いくら味方とはいえ、自分の開発した薬が切っ掛けで弟が完成体になってしまったなんて…慎吾は、とても辛いはずだ。
頑張って戦おう。
負けるわけにはいかない。僕らのためにも…そして、慎吾の為にも。慎吾には幸せになってもらいたい。
じゃなきゃ…慎吾が、可哀想だ。
僕は、決心した。何があっても慎吾の傍にいて、慎吾を守ってみせる。
僕に優しくしてくれた慎吾の為なら、僕は…この大嫌いな力を自ら望んで使ってもかまわない。
++ ++ ++
頭痛がする。
微かに、だが確実に頭が痛い。
いつも目を覚ます時は頭痛がする。
多分、常に痛いのかもしれない。それを普段は気にしないようにしているだけなのだろう。
「はぁ…」
溜息をついて、島田は体を起こす。
横ではまだ萩原が眠っていた。
「今日は、よく眠れたんだな」
いつも萩原と生活を共にしていた島田は、知っていた。
普段、おっとりとしていて、にこやかな萩原が、夜眠るとよく魘されている事を。
何の夢を見ているのか…それは、わからないが。
だが、萩原だけでなく、自分も確実に魘されている事も島田は知っていた。
目が醒めれば夢の内容は全く覚えていない。
…だが、言いようのない気分と、体中にべったりとかいている汗。
魘されていた、という事実だけはいつも確実に痕跡を残していく。
そんな事を考えていると、更に頭痛が酷くなってきた気がして、島田は大きく頭を振った。
「起さなきゃな」
ベッドから降りると、隣で寝ている萩原を揺する。
「起きろよ、朝だ」
「…う、ん」
「早くしないと置いていくぞ」
そう告げると、萩原は目をこすり、ゆっくりと上体を起す。
「お、はよ」
「ほら、早く起きろよ。飯食ったらすぐ行動開始だ」
萩原に向って言いながら、島田は洗面台へと向った。
蛇口を思いきり捻り、勢い良く水を出す。
冷たい水で、顔を洗う。
目を醒ます為、というよりも余計な思考を排除する為に。
何故だか、昨日から余計な事ばかり考えている。疲れているからだろうか。
今、自分に必要な事は、逃亡者を捕まえる…ただ、それだけ。
それだけが、自分にとって重要なデータなのだ。
…それだけ、しかないのだ。
顔を上げ、見つめた先には自分がいた。
鏡に映った自分の顔が、少し悲しそうな…情けない顔に見えて、苛立ちを感じた。
「…ちッ」
舌打ちをして、鏡に手を翳す。
瞬間、鏡は粉々に崩れ落ちた。
「俺は…弱くなんかない」
自分だけに言い聞かせるために呟いた言葉。
不図、割れたガラスの破片が手に刺さっている事に気がつく。
流れ出る鮮血。
「ったく」
自分のミスに、また苛立ちを感じながら、刺さった破片を力任せに抜き取り、島田は萩原の待つ部屋へと戻っていった。
++ ++ ++
「さて、どう捜すか」
ホテルを出て、大きな道に出たところで、島田が呟いた。
先程の怪我は跡形もなく消えている。
「石田、見えるか?」
石田に尋ねると、
「ちょっと待って」
と言って、目を瞑る。
「…あぁ、昨日よりも鮮明だよ。この辺、奴等も通ったみたいだ。このホテルも…NO.002と003が使ってる」
「…植村と高木か。奴等もココに泊まったのか…で、ココからどう動いてる?」
「…車に乗った。その道筋を追ってみるか?」
「あぁ、多分それが奴等へ辿りつく道だな」
ニヤリ、と島田は笑う。
「じゃあ、いくか」
石田が先を歩く。
後に続いた萩原が、不図島田を振り返る。
「ね、島田。もう痛くない?」
その問いに
「あぁ、お前のおかげでな」
と答える島田。
「良かった」
萩原はニッコリと笑うと石田について歩いていく。
「…何か、あったのか?島田」
良知が尋ねると、
「や、たいした事じゃないよ。ちょっと怪我しただけ」
そう言って、島田も歩き出す。
「…島田、頭痛取れたか?」
良知の唐突な問いかけに、島田は足を止めた。
「良知君…なんで、知ってんの?」
「いや、前に魘されてるの見ちゃったから…」
それに、いつも頭痛薬飲んでるみたいだし。
その言葉に島田はそっけないそぶりで答える。
「たいした事じゃないし…別になんともないから」
そして、また歩みを進める。
1番後ろから後を追いながら、良知は考えていた。
島田は、多分完全に洗脳されているわけではない。もしくは洗脳が少し解けてきているのかも。
きっと、不完全な状態だからこそ、色々考えて頭痛が起こるのだろう。
良知は、自分達にどんな内容の催眠がかけられたかを全て覚えている。
その中には、少しでもこの催眠や真都のやり方に疑問を持つような考えをした場合には頭痛が起きる。というものがあったはずだ。
だとすると…島田は微かにだが、疑問を持ってるはずだ。
今、このメンバーを統括しているのは間違いなく島田だ。その島田さえ何とか催眠をとく事が出来れば…
だが、良知の考えに答えがでる前に、彼等は目的地へと到着する事になる。
…避ける事の出来ない、逃亡者との対面。


        戦いが、始まる。



**********
23話です
お待たせ致しました〜(汗)。
やっと更新…。
えっと、今回も島田さん視点で。追撃者の視点で書く時は、島田さんか良知君が書きやすいです。
何故なら、鍵を握る人達だからvv
次回、とうとう対面予定!!いやぁ〜戦っちゃうのね!!!どうしましょ!!!
しかも、予定していた対面の仕方と方向が違ってきている〜(汗)。
これから、また考え直しです(苦笑)。

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