NO24

「とにかく、今日はもう休んだ方がいい」
慎吾の言葉で、僕らは話が曖昧なまま、眠りについた。
意識がゆっくりと覚醒し、僕はゆっくりと目をあけた。
窓からは、変わらず眩しい光が射し込んでいる。太陽は、もう高い位置へと移動していた。
この、綺麗な空の下で…暖かい、柔らかな光の中で…僕らは何故争わなくてはいけないんだろう。
少し、哀しい気持ちになった僕は、周りに目をやった。
まだ、皆は寝息を立てている。
不図、尾身っちがいない事に気がついた。
「どこ、いったんだろ?」
ベッドから降り、皆を起さないよう静かにドアをあける。
階段を降りていくと、慎吾の部屋から声が聞こえてきた。
「何言ってるんだ!」
慎吾の声だ。
「でも、このままじゃ…」
…尾身っち?
何を話しているんだろう。
いけない事だとは思ったけど、僕はひっそりとドアに耳をあてる。
「そんな事は出来ないよ」
「でも、開発は出来るんだろ?」
「そういう問題じゃない!!」
珍しく声を荒げる慎吾。
「…だけど、このままじゃ勝てない」
そんな慎吾とは対照的な静かな尾身っちの声。
「戦うにしても、俺達の能力は何の役にもたたない。戦闘能力じゃないからな。屋良っちの力だけが頼りって事になる」
「…だけど」
「相手は完成体だよ?あの真都が「完成体」と言いきるほどの能力を持ってるって事だよ?」
「それは、そうだけど…でも、」
「そんな相手と戦うのに…屋良っち一人の力だけじゃどうにもならない。…や、屋良っちは物凄い力を持ってるから、そりゃ上手くいけば勝てるかもしれないよ?でも、そうなったら確実に屋良っちはオーバードライブで壊れるのが目に見えてる」
「…」
「頼むよ、町田さん」
「俺は…これ以上君達を苦しめる事はしたくないんだ。尾身君が自分から望んでいるとはいえ、これ以上君に投与するなんて…」
…投与??何を??尾身っちが…望んでる??
「俺は…あの二人を信じてる」
「二人…?」
「鈴木君と鎌田君。あの二人は、必ず僕らの能力を完璧に抑える薬を開発してくれると約束してくれた」
「それは…」
「そうなれば、僕らの能力は消える」
だから…
「植え付けても、平気だ」
尾身っちの声が凛と響いた。
…植え付ける?
能力を…?
一体、何の為に?
「俺は…皆を守るために戦いたい。町田さんだって、負けたくないって言ったじゃないか!」
「尾身君…」
「時間が無いんだ。多分、奴等はすぐ傍まで来てる。予感がするんだ。だから…早く…」
「……」
「俺に、サイコキネシスの能力を与えて欲しい」
低く、とても低く放たれた尾身っちの言葉。
…だめだよ…そんな事…
慌てて僕はドアをあけた。
「尾身っち、ダメだよ!!」
「屋良っち??」
驚く二人。
「どうして、ココに?」
慎吾の問いかけには答えず、言葉を続ける。
「自分から能力を植え付けるだなんて…あんなに、あんなに苦しい思いするのに…どんどん、自分が自分じゃなくなっていくのに…それをわかってるのにどうして…?」
「屋良っち。俺が能力を植え付ければ、お前と一緒に戦う事が出来る」
「…僕が、僕が頑張るからッ!!」
「頑張りすぎたら…お前、壊れちゃうんだよ!!!」
「…尾身っち?」
「嫌なんだよ…屋良っちが壊れるなんて。友達なのに…屋良っちを犠牲にして、自分が助かっても嬉しくないんだよ!!」
「けど…」
続けようとした僕の言葉を、慎吾の言葉が遮った。
「…友達が…仲間が壊れてしまうのは、本当に…辛いんだよ。僕は…その苦しみを…よく、知ってる。痛いほど、よくわかってる」
だけど…
「尾身君に、これ以上能力を植え付ける事はしたくないんだよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!!!」
尾身っちの叫び声と同時に、物凄い音がした。
「…なんだ!?」
「まさかッ!!」
二人と顔を見合わせる。
同じ、口の動き…
『追撃者』
慌てて部屋から出る。
そこには、皆もかけつけていて…硬直しているようだった。
音のした、玄関の方へ視線を送り、僕は息を呑んだ。
玄関のドアは崩れ落ち、そこには、黒い服を身にまとった少年達が立っていた。
先頭の少年が、僕らの姿を見て、ニヤリと笑う。
「はじめまして。やっと逢えましたね」
1歩、また1歩と歩みを進めてくる。
「君達は…」
慎吾の言葉に、少年は口元を微かに持ち上げて笑う。
「あなた達、逃亡者を追いかける…いわばハンターみたいなモンかな?」
少年の言葉を聞きながら、慎吾の目が後ろの少年へと移る。
…多分、彼が弟なのだろう。
「一体、何の用だ?」
また、先頭の少年に視線を戻す。
「早速ですけど…消えて下さい」
言葉と同時に彼の右手が前に突き出される。
「うわぁッ」
僕は、思いきり吹き飛ばされた。
「…何するんだよ!!」
叫ぶと、
「だから、お願いしてるじゃないですか。消えて下さい」
彼の手が再度僕に向けられる。
「島田!!」
慎吾の弟であろう少年が、呼びとめた。
「…何、良知君?」
「僕達の受けた使命は『回収』だったはずだ。消去じゃない」
強い口調。
その言葉に、その横にいた少年も口を開く。
「そうだよ、『回収』って言われたじゃない」
その言葉に、島田と呼ばれた少年は肩を竦めてみせた。
「可能な場合は『回収』と言われたんだ。不可能な場合は『消去』の許可がおりてる」
「…不可能な場合、だろ?」
良知という少年は引き下がらない。
「俺が、不可能と判断した。『消去』する理由はそれで十分じゃない?」
ニヤっと笑う島田に、良知は更に強い口調で詰め寄る。
「その判断は正しいとは思えない。回収可能なら、回収すべきだ」
「とりあえず、回収してみればいいんじゃない?それから、消去を決めても遅くないよ」
もう一人の少年も言う。
「石田まで…わかったよ。とにかく回収を試みて、無理と判断すれば消去していいんだな?」
「…無理、だったらな」
その答えに満足したのか、島田は僕に向かってたずねてきた。
「真都に戻る気、ある?」
「…無いよ」
「戻れば…消されなくてすむのに?」
「あんな所に戻るくらいなら…僕は、死んだ方がましだ」
そう言って、島田を睨みつけた。
島田も目をそらすことなく僕を見ている。
不図、島田の瞳が揺れた気がした。
++ ++ ++
どうして…
「どうして、そんな事言うんだよ!!」
思わず、叫んでいた。
自分でも何故だかはわからない。
けど…
「島田?」
萩原が近づいてくる。
「…」
「ねぇ、島田」
覗きこんで来た萩原を軽く後ろへ押しやり、俺は良知君へ向かって告げた。
「交渉は決裂。回収は不可能。消去するしかないだろ?本人達もそれを望んでるみたいだし」
そして、良知君の言葉を待たずに、手を翳す。
004…屋良、朝幸。
何故…真都に逆らうのか…
同じ能力者なのに…
許せない…許せない…

自分達だけ逃げ出すなんて許せない!!!

「バイバイ」
力を放出する。
「うわぁッ!!!」
屋良の叫び声が聞こえる。
屋良の体を浮かせて、そのまま高く持ち上げる。
「やめろよッ!!」
飛びかかってくる植村や高木を左手を翳して吹き飛ばす。
そして…
「…ッ」
床へと、思いきり叩きつけた。
ゆっくりと前へ進む。
「やめろ!!」
後ろで良知君の声がする。
さっき吹き飛ばした植村達がまた飛びかかってくる。
「…ったく、邪魔だな」
二人の頭に手を翳す。
「やめろ!!島田!!!」
少しだけ力を放出する。
「殺しは…しないさ」
脳を軽く揺すってやる。木と植村は…すぐに、倒れ込んだ。
「しばらく、大人しくしててよ。萩原…この二人は回収だ」
「あ…うん。わかった」
二人に萩原が近づきかけたその時、
「よっくん達に触るなぁ!!」
叫び声と共に、家の窓ガラスが勢い良く割れる音がした。
不図、視線を送ると、萩原が苦しそうに蹲っている。
「萩原!」
「…大、丈夫。余波が…当っちゃって…」
視線を戻すと、屋良が立ちあがっていた。
「負けない…約束、したから…慎吾と…だから…」
キッと睨みつけてきた屋良は両手を握りしめる。
体から…力が放出される様が目に見える。
…これが、屋良の能力なのか。
不覚にも圧倒された。白煙のような放出された力は…巨大な渦となって屋良を包む。
制御不可能。
それは、最大限の力を発揮する事が可能、という事だ。
自分で制御する力は、何処かで危険を考えて、抑制してしまう。
100%の力は…今まで出した事がない。
けど…
出さなければ。
他の奴等は別にいい。
回収されて真都の為の研究対象になればいい。
だが…004.屋良朝幸だけは…屋良だけは、自分の手で消去してしまいたかった。
何故だかは自分でもわからない。でも…
「負けない!!!」
しまったッ!!!
気がつけば、俺は崩れ落ちた壁の下にいた。
吹き飛ばされて、砕かれた壁につぶされたらしい。
「…不覚、だな」
ゆっくりと、瓦礫をどかし、立ちあがる。
不図、周りを見ると、萩原達も、吹き飛ばされていた。
ゆっくりと起き上がっているのが見える。
瞬間、咳き込んだ俺はあてがった手が、真っ赤になったのを目にした。
内臓を…やられたか。
息を吸う。痛みが走る。
…肋骨か?
屋良の力をまともに食らったわけだし…無傷ではいられないのは端から承知だ。
また、咳き込む。
次々とあふれ出る鮮血。
「島田!!!」
萩原が叫ぶ。
「大丈夫…勝負は…まだ、これからだ」
屋良へと視線を送ると、屋良の力は留まる事なく、放出され続けていた。
次々に崩れゆく壁。激しく割れるガラス。
「屋良っちッ!!!もう、落ちつくんだ!!!」
駆け寄っているのは、尾身…だろう。
近づくたびに、尾身の体に屋良の気がぶつかるらしく、尾身の腕や頬は軽く切れて血をにじませている。
「屋良っち…もう、壊れちゃうから」
やっとの事で辿りついた尾身が屋良を抱きしめ、俺を睨みつける。
「…今度は俺が相手だ」
…屋良の力はなお放出され続けている。
今度、まともに食らったら…危険かもしれない。
どうする…。
「島田!!!ひとまず撤退しよう」
「良知…君?」
喋るたびに肺の辺りがヒューっと音を立てる。
「このまま、戦い続けるのは無理だ。お前だけじゃない…石田や萩原だって、」
言われて、石田に目をやると、同じように瓦礫につぶされたらしく、折れているだろう右腕がダラリとぶら下がっていた。
頭からは大量の血が流れ出ている。
それでも、立っていられるのは…俺達が完成体として改良されたおかげだ。
横を見ると、萩原が自分の足に手を翳しているのが見えた。
…足を折ったらしい。
自ら治癒しているものの、短時間では完全に回復するのは不可能だ。
そして、俺は…
膝が、折れる。
「島田!!」
支えてくれた良知君の腕は…真っ赤に染まっていた。
「良知、君…腕…」
目をやると、肩の付け根から大量の血があふれ出ているようだ。
服が裂け、そこからはパックリと開いた傷口が見える。溢れ出す血液。どうやら、硝子が突き刺さったようだ。
「島田…今日は撤退しよう」
その言葉に、俺は頷き、尾身に告げた。
「…今日の所は引き上げる。…でも…お前達が何処に逃げても…俺達は、すぐに見つけ出す事が出来る…必ず…」
そして、追いかけられないよう最後の力を振り絞って…
尾身目掛けて力を放出した。
「うわぁッ!!!」
屋良と共に吹き飛ぶ尾身。
その隙に、俺達は家から飛び出した。




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24話ですvv
戦ってる!!!いやぁ!!!戦ってるのぉ!!!
って事で、戦い第1弾。実は第2弾の部分も結構考えてある…というか、長くなったのでとりあえずココまでで切っただけなので、続き書く気満々です(笑)。早めに更新できるかも〜♪
っていうかね。ホントは今回使おうと思ってたネタがあるんだけど、書き進めるうちに繋がらなくなっちゃって(爆)。
次回へ持ち越し…。それにしても、今回結構長くない?
今回、一瞬だけ島田さんの無意識の意識が出てきています。「自分達だけ…」ってヤツです。
アレは…島田さんも自分では気づかないうちに思った事なんですね。あれが、本人も気づいてない本心なわけですよ。
あぁ…可哀想な島田さん(って己で書いてるくせに・苦笑)。

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