NO27 「よし、こんなもんでいいだろう」 PCのデータを整理しながらバックアップを取っていた鈴木がつぶやいた。 「なぁ、こんなに大量にデータをとってどうするつもりなんだ?」 隣で同じように黙々と作業を続けていた鎌田が問いかける。 二人はここ数日、研究室に篭りっきりでデータ収集と整理を行っていた。 「そろそろ、行動を起こす頃かな?と思って能力を完璧に抑える研究も目途がたったし」 鈴木の言葉に鎌田は息を呑んだ。 「行動って…」 「反旗を翻そうじゃないか。いつまでも真都の歯車でいるのは耐えられないし、このままいけば俺たちは利用されるだけ利用されて、挙句の果てに消されて終わりだ」 肩をすくめた鈴木に鎌田は詰め寄り小声で問いかける。 「いったい、何をするつもりだ?」 その言葉に、鈴木は口の端を微かに持ち上げて笑う。 「このデータを『東京』へ持ち出したら大変な騒ぎになるだろうねぇ」 「お前…」 「俺が、この数日で真都のメインコンピューターから引き出した情報には、真都の恐ろしい計画が全て詰まってる」 「メインって…いつの間に入り込んだ?」 「案外簡単だったよ。ここまであくどい真都のことだから、もっと厳重なガードが掛かっているかと思ってたけど、そうでもなかったな」 ニヤリと笑う鈴木に鎌田は呆れた様に、それでいて少し感嘆の響きを含ませ苦笑する。 「お前ってやつは…」 「とにかく、バックアップは万が一のための切り札だ。松本のところに郵送しておこうと思う。実際にはここのPCからダイレクトに『東京』の新聞社、テレビ局、警察や政府のコンピューターに無差別にデータを流出させる」 「だが、すぐに俺達が疑われるぞ?」 「だから、すぐには追ってこれないように、真都のメインをグチャグチャに引っ掻き回しといてやるのさ」 修復にかなりの時間を費やす様に… 「最後にウイルスでもばら撒いてやれば、機械管理されているこの都は一気に機能しなくなる」 嬉しそうに話す鈴木に向かって鎌田は笑いながら告げた。 「お前って、結構あくどいんだな」 その言葉に、笑いながら「感化されたのさ」と答えた鈴木はすぐに表情を一変させ告げた。 「決行は…3日後、真都が年に一回行うデータ収集日だ」 「3日後…」 息を呑む鎌田に、鈴木は間をおくことなく続けた。 「万が一の為に、データを町田にも送っておく。そうすれば、俺達に何がおきても、町田が後を引き継いでくれる。打てる手は全て打っておきたい」 「鈴木…」 蒲田の眼をしっかりと見据え、鈴木は静かに呟いた。 「これは…絶対にはずせない賭けなんだ」 ++ ++ ++ 遠くで、声がする。 「まだ、目覚めないね」 「でも、もう大丈夫なはずだよ。峠は越えたと思うから」 「視力は…?」 「多分、大丈夫。いつも体の一部を作る仕事をしてるし、俺が作るものは本物に出来るだけ忠実なものだから、人体構造には詳しいからね。大抵の外科手術ならこなせるよ」 あとは… 「精神が回復するのを待つだけだね」 「そうだね…とにかく助かったよ」 これは…慎吾の声だ。 慎吾が待ってる… 帰らなくちゃ… 皆が待つ、あの世界へ… ここは、暗くて…息苦しい… 帰らなくちゃ!!! そう思った瞬間、急に眩しさを感じた。 ゆっくりと眼をあけると、柔らかな光が射し込み、僕を包んでいた。 「こ…こは…?」 呟いた僕に、良侑が気がつき顔を覗き込んできた。 「屋良っち!!気がついた?僕がわかる?ちゃんと見えてる?」 「良侑…」 名前を呼ぶと、良侑の眼に涙が溢れる。 「よかった…」 そう一言呟いた良侑の眼から涙が次々と零れ出た。 「朝幸…」 慎吾がとても柔らかい笑顔で僕を見た。 「慎吾…」 「もう、馬鹿な真似はするんじゃないよ。心臓に悪い」 そう言いながら僕の頭を撫でる手は、とても温かかった。 「ご、めんなさい…」 謝ってから、不図気がついた。 「ねぇ、どうなったの?」 尋ねた僕に、 「その前に、お礼を言わなくちゃ。朝幸の眼を治してくれたのは彼なんだから」 「眼…?」 「大量の血が流れ出た為に、視神経を圧迫してたんだ。それを彼が手術してくれたんだよ」 そういって慎吾が僕の前につれてきた人物は… 「まっさん…?」 「久しぶり」 まっさんは、少し照れくさそうに笑った。 ++ ++ ++ まっさんが真都を出てからどう暮らしてきたのか。 少しだけ話をしたけれど、それ以上に大きな問題を抱えていたので、あまり詳しくも聞けなかった。 この前の事は慎吾に教えてもらい、大体の事情は飲み込めた。でも… 「どうして、島田は壊れたんだろう」 僕の力のせいならば、僕と一緒に倒れていたはず…。 でも、島田は一度眼を覚ましている。 という事は… 「俺、聞こえたんだ…」 誠君が呟く。 「何が?」 尾身っちの問いかけに、ゆっくりと話し始める。 「あの時…止めてくれって。彼の心が叫んでた。もう、止めてくれって…」 他にも… 「色んな感情が微かに感じ取れた。でも、それは彼の意識じゃなかった気がする…別の誰かの…」 「とにかく、彼らの出方を待とう。島田がリーダー格だったのは一目瞭然だ。その島田が倒れたとなると…」 「…悲しい眼をしてた」 思わず呟いていた。 「朝幸?」 慎吾が覗き込んでくる。 僕は続けた。 「とても、悲しい色をしてたんだ。可哀想だよ…出来る事なら助けてあげたい」 この思いは嘘ではなかった。 彼を助けてあげたい。…いや、助けなくちゃいけない気がした。 彼らも…僕らと同じ被害者なんだ。 「そうだね、助けてあげなくちゃね」 慎吾の優しい笑顔に、僕は強く頷いた。 必ず…助けだしてみせる。 ********** 27話です 本当に本当に久しぶりの更新になってしまいました。 色々な事が重なってしまい… 正直、小説をUPしていいものかも悩みましたが… でも、UPしました。 更新、していきます。 えっと、久しぶりにすずっくん&鎌さんの登場ですvv 素敵ですvv頑張って欲しいものですvv そして、やっとのことでまっさんも登場。でも、出番少ないし!!(爆)。 や、これからですよ。これから。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |