NO30

向かった先には、島田を抱えた3人が立っていた。
とても…悲しい目をしていた。
困り果てた表情。
彼等の想いは、ただ島田を助けたい…それだけに思えた。
だから…自然と言葉が出た。
「意識は?」
その問いに、三人はただただ首を振る。
「とにかく、お入り。飲み物を入れてあげるよ」
慎吾の言葉に、三人はゆっくりと頷いた。
「そうだな…彼は、こっちの部屋に」
慎吾が示した先は、大野君の眠る部屋。
「…ありがとう、兄さん」
その言葉に、慎吾は優しく微笑んだ。
++ ++ ++
石田が、島田を抱えて大野の眠る部屋へと向かう。
後ろからついていった良知は部屋に入ると同時に飛び込んできた大野の姿に愕然とした。
「大野…くん?」
やせ細った身体に、色味の無い肌。とても生きているとは思えなかった。
彼の命は…ただ一本繋がれている点滴によって永らえてるだけのような気がした。
生きようと…彼は思っているのだろうか。
生きたいと…彼は願っているのだろうか。
そして…島田も同じようになるのだろうか。
ゾクゾクと、背筋が凍った。
怖い、と思った。
こんな事を平気でする事が出来る真都を。
同時に…憎い、とも思った。
やはり、真都は存在してはいけない。
強く…そう思った。
「こっちに…」
大野の向かいの場所に簡易のベッドを設置した町田が石田に告げる。
そのベッドに島田を横たえると、町田は点滴を準備し始めた。
「…彼、薬に対してアレルギーある?」
聞かれて、良知は萩原を見た。
自分より、彼の方が島田には詳しいだろう。
小さい頃から、ずっと二人で生きてきたのだから。
「ない、と思う」
そんな話、聞いた事、ないから。
「そう、じゃあ大丈夫。とりあえず、栄養剤を投与するから。1時間位で終わる。それから出来る限りの治療をしてみよう」
町田の言葉に、萩原は少し涙を浮かべて答えた。
「島田を…助けてください」
「僕の出来る、全ての事をするつもりだ」
安易に「大丈夫」や「助けてみせる」などといえるような状態ではなかった。
精神が壊れている。
普通に治療をして完治するようなものではない。
大野だってそうだった。
でも、諦めるわけにはいかない。
萩原の島田への想いが…自分の、大野への想いにシンクロした。
萩原のためにも…助けてやりたかった。
点滴を射れ、時計を見る。
「さて、この点滴が終わるまで、色々と話をしようか。お互い、まだ名前だってちゃんと知らないだろ?」
コーヒーでも、淹れよう。
町田はそういうと、3人をつれて部屋を後にした。
++ ++ ++
重い、空気だった。
慎吾はコーヒーを淹れに席を立っていた。
尾身っちは彼等をじっと見据え、ずっと黙ったままだった。
誠君はあえて薬を飲むのをやめていたので、少し頭痛がするみたいだ。
でも、薬を飲むと彼等の心がわからないから…
そう、誠君は言ってた。
よっくんは…下を向いていた。
そして、僕は…
言葉を…捜してた。
上手く、言葉が、出てこなかった。
彼等を、助けたいと思う。それは嘘じゃない。
でも…彼等を見ると、真都を思い出してしまう。
あの…悪夢のような毎日を。
そんな中、先に沈黙を破ったのは慎吾の弟だった。
「あの…僕、良知真次っていいます」
そして、そのまま良知君は続けた。
「町田慎吾の…弟です。だからって、こんな風に助けを求めに来るのは図々しいっていうか…都合よすぎるっていうのはすごくよくわかってます。皆さんが、僕等を信用してないのも、敵視しているのもわかってます」
「つーか、敵じゃん」
尾身っちが言葉を挟む。
「…確かに、僕等は真都から放たれた追撃者です。でも、僕は鈴木君達から追撃者の動きを何とかして止めるように頼まれてた。逃亡者である皆さんを助ける為に…でも、結局何も出来なかった…本当に、ごめんなさい」
深々と頭を下げる良知君に僕等だけじゃなく、あとの二人も驚いていた。
「良知君…俺等を騙してたの?」
「違う…違うよ、石田。そうじゃないんだ」
その言葉に、石田って人は激しい口調で問い返す。
「何が違うんだよ!!!俺達の知らないところで、敵と繋がってたなんて…騙してたんじゃないか!!!」
「俺は…皆を助けたかったんだ」
「どういう、事?」
また、声を荒げそうになった石田を制してもう一人が尋ねた。
「萩原…萩原も、真都の催眠術にすぐにかかってしまったからわからないよね。俺達は、全てをコントロールされているんだ。感情も能力も…真都の思うがままに」
「感情…?」
「そう…僕等は、彼等を敵だと思い込まされてきた。俺は…催眠にかかりにくい体質だったんだ。だから、真都の計画の一部始終を覚えてる。俺達は、彼等を捕まえた後、さらに新たな能力者を作るために実験材料とされる運命だ。人間としてではなく…モルモットとして生きていく運命なんだよ」
その言葉に、周りは絶句した。
「さっき、見ただろ?あの部屋にいた人…彼は僕等を生み出す為に、犠牲になった人だ…それに、ここにいる人たちも…俺達を作り出すためだけに、犠牲になった人たちなんだ…。真都は、俺達の完成とともに、彼等を必要のないものと考えた。改良して新たな能力を植え付けるか、それとも、失敗作として消去するか…そして、俺達に彼等の追撃を命じるために、彼等の事を敵だと教え込み、催眠によって僕等の感情をコントロールし、能力を増徴させたんだ。島田は…怒りの感情を出しやすく催眠されていた。それによって能力が大幅に上がるからだ。でも…」
「でも…?」
「島田は、疑問をもったんだ。真都の事について。そして、逃亡者の事について。島田はよく頭痛を起こしてただろ?」
問いかけた良知に、萩原はコクっと頷いた。
「あれは…疑問を持つと激しい頭痛に襲われるように皆が催眠をかけられてるからだ。考えないようにしようとしても、次々と疑問が湧き出てくる…そして…島田は…少しずつ、壊れていったんだと思う」
そのとき、そっと慎吾が良知君の前にコーヒーを置いた。
「彼は…自ら精神を壊していったのかもしれない。もう…この世界にいる事が辛くなってしまったのかもしれない」
人は…脆いものなんだ。
「でもね、それでも人は強く生きていけるんだ。支えてくれる人がいる限り」
だから…
「君たちが…支えになってあげて。呼び続けてあげて。そうすればきっと彼は戻ってこれる」
そう…信じよう。
そう言って、慎吾はあとの二人をみた。
「さてと…。聞きたければ、僕が知っている真都の全てを君たちに話そう。朝幸たちの話も。それから…君たちがどうするかを決めればいい。君たちはまだ催眠の状態にある。真都に疑いを持っていない状態かもしれない。でも、大野の姿を見て…僕等の話、何より君たちの仲間である真次の話を聞いて、しっかりと考えて欲しい…何が、正しいのか…どうすればいいのか…自分達で決めるんだ。その結果、敵として戦う事になるのであれば…全力で戦わせてもらう」
「…島田は、どうなるの?」
慎吾の言葉に、萩原が不安そうに尋ねてきた。
「彼は、助ける。それは君たちとすでに約束したからね。全力で助けるよ」
他に聞きたい事、ある?
慎吾の問いに、彼等は全員首を振った。
それを見て、慎吾は微笑んで頷いた。
「よし、じゃあ始めよう。…僕の、過去から」


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30話です
ふう…時間がかなり空いてしまいました。
もうすぐ、石田さんたちが敵となるか味方となるかもきまります…
あぁ…まだ先は見えない(苦笑)。
あと2話くらいで、真都ととの戦いに入ると思うんですが…
そっからどの位続くものやら…
頑張ります〜。

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