NO34 少しだけ仮眠を取り、3人は町田達の元へと向かった。 「おはよう、少しは眠れたかい?」 3人を笑顔で迎える町田。 「うん、少しね」 良知は、短く答えると、深呼吸した。 「話が、あるんだ」 意を決したように町田に向かう。 「…心を、決めたみたいだね。じゃあ、皆も呼んだほうがいい」 町田は、全員に声をかけに行った。 しばらくすると、机の周りには全員が集まってきた。 「彼等が、話があるんだって」 町田に言われ、全員が思い思いの場所に座る。 少しの沈黙の後、良知はゆっくりと言葉を告げた。 「僕等も…戦おうと思います。…真都と」 全員が、息を飲んだ。 ++ ++ ++ 真都と戦う。 慎吾に呼ばれてきた僕が、慎吾の弟から突然聞かされた決意。 隣の二人も頷いている。 「それは…僕等と一緒に戦うって事?」 良侑が尋ねた。 「…虫のいい話かもしれないですけど、僕等も仲間に入れて欲しいんです」 慎吾の弟は、しっかりと僕等の眼を見ていた。 その眼は、とても真剣な眼差しで。 彼の言葉が、本心である事を物語ってた。 しばらく、また沈黙が訪れたけど…その重い空気を破ったのは尾身っちだった。 「確かに、彼等の力は戦う為にはとても魅力的だよな」 「尾身君…?」 誠君が尾身っちを見た。 僕も思わず見てしまった。 だって…彼等を一番敵視していたのは、尾身っちだったから。 「別に仲良く手を組もうってすぐに思えるわけじゃないけど…でも、力を貸しあうのは悪くない。俺達はどうしても屋良っちだけに頼らなきゃいけなくなる。彼等と組む事が出来るなら、屋良っちの負担が軽くなるって事だろ?だったら、俺はいいよ。手を組んでも」 「ありがとう」 慎吾の弟が言った。 「皆は?」 慎吾の言葉に、僕等はただ頷いた。 仲間は、多い方がいい。 それに、彼等だって苦しんでいるんだ。 「じゃあ、早速だけど…時間がない。鈴木達の計画は、明日実行される。多分…真都のデータ収集時間に合わせるだろうから…10時が戦闘開始だと思う。彼等は、真都の本当の姿を東京にばら撒くつもりだ。送られてきたデータには、真都が陰で行ってきた事から、これからやろうとしている事まで全てが詳細に載っていた。これが東京に流れれば、大きな騒ぎになる事は間違いない。真都としては、データが流出したとわかった時点で手を打ってくるはずだ。騒ぎは最小限にとどめたいと考えるだろう。早い段階で鈴木達や、僕等みたいな生きた証拠を消そうとするはずだ」 慎吾が話す間、誰も口を開こうとしなかった。 「戦う為に…君たちは、自分達の嫌いな力をどうしても使う事になると思う。その為に、オーバードライブを起こす危険もある。僕は、力がない分、君らの身体や精神への負担を少しでも軽く出来るように、試薬を開発した。この薬で…通常の10分の1の負担で力を使う事が出来ると思う」 「いつのまに…?」 僕は思わず呟いた。 「2日あれば、薬は作れる」 慎吾は自信に満ちた顔をしていた。 「それから…尾身君が、朝幸しか戦えないようなことを言ってたけど…それは違うと思う」 「だって、俺達の力は…」 尾身っちの言葉を遮り、慎吾は続けた。 「尾身君の力で、相手をコントロールする事だって出来る。高木君の力で、相手の行動を先に知る事が出来れば、攻撃を避けやすくなるかもしれない。植村君の力は、怪我を負った人を助ける事が出来る。皆で力をあわせれば、きっと勝てる」 その言葉に、皆は息を飲んでいた。 「多分、相手も能力者だと思う。それに、きっと真次達よりも進化しているかもしれない。でも、きっと勝てる。何故なら、君たちには友人を大切に思う気持ちがある。誰かを守りたいっていう気持ちは、何よりも強い武器になる」 慎吾の言葉に、僕は頷いた。 僕は、皆を守りたい。 だから、どんな事があっても戦える。 ただ…一つ気になる事があった。 「慎吾…まっさんが言ってたんだけどね。真都はアンドロイドを作ってるって…」 「確かに…鈴木達が送ってきたデータにも載ってる」 「アンドロイドも…敵として放たれたら…僕等の力は通じないんじゃないかな」 僕の不安に、まっさんがニッコリと笑った。 「大丈夫。俺、昨日すげーもん作ったから」 「何?」 「周波数を自在に操って電波を出す事が出来るんだ。俺はアンドロイドを作ってた人間だからね、どんな機能なのか、だいたい把握できてる。奴らの脳はどうなっているか見た事はないけど…俺の作った体の部分から考えると、大体の構造は見えてくる。その脳に値する部分に、周波で攻撃をするんだ。回路がショートする周波数を設定する。脳の回路さえ破壊してしまえば、奴らは全く怖くない」 「まっさん…」 力強かった。 仲間がいる。それがこんなにも力強いものなんだって事を、僕は改めて感じた。 「あとは…時を待つのみ、ってところだな」 尾身っちが言う。 「そうだね。待つのみ、だ」 慎吾が答える。 「明日に備えて、今日はゆっくりと休んだ方がいい。好きな事して、ゆっくりと明日を迎えよう」 そう言って、慎吾は席をたった。 尾身っちも席を立ち…慎吾の弟の前に、手を差し伸べた。 「宜しく頼むよ。真次」 名前で呼ぶ。それは、尾身っちが彼等を仲間と認めたってことだ。 真次は…頷き立ち上がって手を取った。 「こちらこそ、宜しく」 ++ ++ ++ 萩原は、部屋の前にいた。 最後の時間、そう思ったとき、ここにこようと決めていた。 ここで、その時を待とうと。 それでも、少し手が震える。 「しっかりしろ、僕」 呟いて、ドアを開けた。 「…町田、さん」 目の前に、先客がいたのだ。 「やぁ、来ると思ってたよ」 ニッコリと微笑む町田。 「どうして…?」 尋ねた萩原に、町田は大野の手を握って答えた。 「君は、僕と似ているからね。置かれている状況が、同じだから」 「…町田さん」 「皆が戦っている間、大野も、島田君も僕が必ず守ってみせる。だから、安心して」 自分の命に代えても… その言葉に、萩原は思わず叫んでいた。 「ダメです!!」 「萩原君?」 「命に代えて、だなんてダメです!!だって…大野さんが目覚めたとき、町田さんがいなかったら絶対悲しみますから!!ダメです!!」 町田は、少し驚愕し、そして優しく笑った。 「ありがとう。そうだね、大野に怒られてしまう」 町田の眼は、少し潤んでいた。 「さて、お互いに邪魔をしないようにしようか」 親友と話せる時間は、少ないからね。 町田は、大野の頭をゆっくりとなぜた。 萩原は、町田の言葉に促されるように、島田の横へ座った。 「島田…僕は、戦うよ。島田の為に、戦うから」 僕を…守って。 ギュっと手を握った。 戦いを目前に控え…この部屋は、外界から隔離されたように、静かな時が流れていった。 ********** 34話です ものすごく久しぶりの更新になってしまいました。 私の連載史上一番の長編として、更新してきたこの「逃亡者」も、終わりが見えてきました。 予定では、40話までに完結するつもりでいます。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |