NO35 どのくらい 時は過ぎたのだろう。 気が付けば 眠ってしまっていた。 現実を忘れてしまいそうな穏やかな時間の中で。 彼は 確かに 僕に笑いかけてくれた。 そう 夢の中で 彼は 僕にだけ見せる 少し照れたような 変わらぬ微笑を浮かべて 僕の名を呼んだのだ。 『萩原』 目を覚ますと、彼はやはり眠ったままで。 あぁ、夢だったのだ、と少し気持ちが沈んでしまったりもしたが。 今、この瞬間に 彼の笑顔を… そして、彼の声を。 夢であったとしても、見る事が…聴く事が出来た事をよかったと思う。 迷いは… ほんの少しだけ残っていたであろう迷いも… 全て、晴れた気がした。 ゆっくりと振り向くと、そこには町田の姿はなく。 そっと、大野に近づいて覗き込んでみると やつれてはいるものの、とても穏やかな寝顔の、その右目から 一筋の涙が流れている事に気が付き、少し温かい気持ちになった。 『あぁ、彼等は繋がっているんだ』 そう 思えたから。 だから、自分も諦めない。 島田も…きっと 僕と一緒だ。 いつも、どんな時も 僕を見守ってくれている。 僕のそばで 僕を 助けてくれるだろう。 だから 何も 怖くはない。 「あぁ、よかった。目が覚めたかい?」 声をかけられて、萩原はハッと振り向いた。 「鈴木達が、動き出した」 町田の言葉に、萩原は息を飲んだ。 「僕等も、始めよう」 差し出された右手を、萩原はしっかりと握り替えし、部屋を後にした。 振り返ることは あえて しなかった。 ++ ++ ++ 慎吾が萩原を連れて、全員が集まっている部屋へと戻ってきた。 「コレ…」 萩原が言葉に詰まる。 無理もない。 僕等がそこで見ていたTVは、真都の本当の目的を暴きだそうとする匿名の情報が日本中のマスコミ、警察、そして政府にまで一斉に届けられたというニュースで。 TVでは、とにかく自分達が一番のスクープを、と各局が必死に詳しい情報を求めて、真都へのコンタクトを行っている姿だった。 『この情報に対し、我々は真都責任者へのインタビューを敢行しようと連絡を取るも、真都内部において、データが混乱を起こす事態が生じているらしく、コンタクト不能という…』 『コンピューター制御における落とし穴が…』 『内部告発の可能性…』 「鈴木達は、メインコンピューターへの進入も成功させて、全てのデータを壊しにかかってる。奴らは、復旧に追われて、マスコミへの対応が遅れているようだから、きっとこの話は秒刻みで大きくなっていくだろう。あとは放っておいてもTV局が勝手に話を広げてくれるさ」 慎吾は今まで見たこともないような、冷酷な笑みを浮かべた。 「鈴木君達は…逃げれるかな?」 呟いた僕の頭を、慎吾は優しく撫でてくれる。 「朝幸は、心配性だね。大丈夫。彼等は必ず逃げ出してくる。そのためにも、僕等は真都を迎え撃たなくちゃダメなんだ」 「追っ手は…すぐに来るだろうな」 尾身っちが呟いた。 「そうだね、きっとすぐに…」 良侑も心配そうに呟く。 「…友一、見える?」 真次が尋ねると、友一はゆっくりと目を閉じる。 「真都は…ものすごい混乱をきたしてる。…あぁ、多分、此処がアンドロイドの…」 そこまで言って、友一は目をカッと見開いた。 「なかった。大部分のアンドロイドはコードから外れていた」 「それ、間違いない?」 まっさんが尋ねると 「多分…でも、追っ手に関しては情報がなさ過ぎる。はっきりとは見えないよ」 友一が肩をすくめた。 「待とうよ」 誠君の声。 「ただ、待つしかないよ」 僕は頷いた。 後は、来るのを待つしかない。 どんなに足掻いても、奴らは此処へやってくるのだから。 だったら 静かに 待つしかない。 もう 皆 無言だった。 どのくらい たったのだろう。 「来る…」 何故だろう。 何故か 僕にはわかった。 時は 来たのだと。 慎吾とまっさんは、昨日までに何とか完成させたというプログラム制御された結界を大野君と島田の周りに張り巡らせる。まっさんも慎吾もその中に入った。 そして僕等は 見据えていた。 戦うべき相手が やってくるであろう場所を。 僕等の、この視線の先に 僕等の自由の為に 倒すべき相手がいる。 ********** 35話です う〜ん、なんだか、無意識に引き伸ばし作戦に出ているのだろうか、私(苦笑)。 でも、一応40話が目処なんだけど。 次回からホントに戦います。 終わっちゃうのか〜。そうか、そろそろ終わっちゃうのか。 寂しいなぁ(苦笑)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |