NO36

混乱をきたした真都の研究塔で、鈴木は、最後の仕事を行っていた。
「鈴木!!」
鎌田が慌てて部屋へと駆け込んできた。
「そろそろまずいぞ。監視人は気付いているはずだ。もう時期警備がやってくるかもしれない」
鎌田は一息で告げると、PCに向かう鈴木を見て
「何やってんだ?」
と少し驚いた声をかけた。
「もう少し。もう少しで真都のメインが壊れるんだ」
鈴木の言っている意味が、少しわからずに黙り込んでしまった鎌田に
「メインの中枢部に入り込んだんだ。あと少し…このプログラムを書き換えれば…修復不可能なところまで壊す事が出来る」
そう言って、ニヤリと笑った。
「真都は…破滅せざるを得ないってわけだ」
「鈴木…」
感嘆なのか、呆れているのかわからない鎌田の呼びかけ。
鈴木は最後のキーを押した。
PCの画面が真っ赤な警告文字を点滅させる。
画面が一転し、英数の雨が降り注ぐ。
そして…

『To the shutdown for 12 another hours』

表示は…刻一刻と時間を刻んでいく。
鈴木は立ち上がり、画面を一瞥した後、鎌田の方を振り向き、笑う。
「破滅への…カウントダウンさ」
そして、横においてあったカバンを手に取る。
「さて、行こうか」
「鈴木?」
「追っ手が迫ってる、そうだろ?」
「あ、あぁ」
「だったら、急がなきゃな」
町田のところへも、きっと…
「第三世代の…コピーも続々と誕生してたからな」
鎌田が言う。
良知達の能力データをそのままコピーした少年達が次々と大量生産されたのだ。
たった1日で、物凄い数の能力者が誕生していた。
「彼等は…今頃、東京へと放たれたはずだ」
「そうだな…そして、新たな追っ手は…今のところ警備だけだ」
鎌田も頷く。
「そう…今が、チャンスだ」
「鈴木…」
「行こう」
鈴木は鎌田の眼を見て、告げた。
「俺達が、最後の逃亡者だ」
++ ++ ++
研究塔も、いつもとは違い、大きな騒ぎとなっていた。
鈴木のハッキングにより、真都全体のPCが先程のカウントダウン画面を表示している。
あと12時間。
12時間猶予を与えておけば、きっと真都はデータの回復を試みるだろう。
回復の為に時間も労力も費やしてくれれば…東京での騒ぎを鎮めるのも遅れるだろうし、自分達への追跡も軽微になると考えたのだ。
でも…
「何をやったって、データは回復しない」
溢れ返す人込みをかき分けながら、鈴木は鎌田へと告げる。
「どういう事だ?」
「データは、すでに修復不可能な状態に壊れてしまっているからさ」
「でも、12時間って…」
「あれは…メインが完全にフリーズしてしまうまでの時間だ。メインが壊れてしまうまでの時間ではないんだよ」
シャットダウンって書いてあっただろ?
笑う鈴木。
「お前…」
「俺は、別に騙してるわけじゃない。勘違いする方が悪いのさ」
そこまで話したところで、出口へと到達した。
その時…
「鎌田…ちょっと、遅かったみたいだな」
鈴木が立ち止まる。
「…何?」
鎌田が鈴木の肩越しに覗き込むと…
「監視人…」
二人の目の前に、研究塔監視人と実験棟監視人が立ちはだかっていた。
「何処へ行く?」
監視人の不気味な微笑。
「…答える義務はない」
鈴木は、負けずに不敵に笑う。
「貴様等…あれほど言ったのに、覚えていないのか?」
「真都の…監視下にある」
ニヤリと笑って答える。
「覚えているのならば…」
監視人の言葉を、鈴木が遮った。
「もう、俺達は監視下にはない。コンピューターに監視された人間に…いつまでも監視される程、馬鹿じゃないんだ」
「なんだと!!」
「お前達は…もう、終わりだ」
その言葉に挑発されるように、監視人たちは鈴木へと襲い掛かる。
瞬間、走る電流。
「す、ずき?」
鎌田が恐る恐る問いかける。
「スタンガンだよ」
平然と答える鈴木の足元に倒れこんでいる監視人。
「お前ね…」
随分と準備のいいことで。
呆れる鎌田に
「助かっただろ?」
ほら、行くぞ。
有無を言わせない答えで、鈴木はまた走り出した。
あと、ほんの数メートル。
その数メートルを抜ければ…

この、狂った都市に永遠にお別れを告げることが出来る。

++ ++ ++
「来る…見えるよ」
石田が呟いた。
「凄い数だ…」
圧倒されたように、溜息が漏れる。
「今から負けた気分になってんじゃねぇよ」
尾身っちが苦笑した。
それでも、声は緊張を漂わせていた。
「勝つぜ…絶対に」
尾身っちの言葉に、皆が頷く。
「いいか、誠。お前は、奴らの行動を読んで、俺達に教えてくれ」
「わかった。最大限に力を使ってみる」
「俺は…出来るだけ、奴らの思考を操ってみる」
「僕は?」
「良侑は、俺達が常に全力で戦えるように、萩原と一緒にサポートして欲しい」
「わかった」
それぞれが、決意を胸に…闘う準備は整った。
その時…誠君が叫んだ。
「危ない!!!」
その言葉に、全員が身構える。
物凄い爆発音。
瓦礫が飛び散る。
煙が立ちこめ、その奥から見える黒影。
『逃亡者、発見。逃亡者、発見』
アンドロイドの無機質な声。
そして
『真都の…敵』
同じような…少年や少女が戦闘体制を取っていた。
「一斉攻撃だ!」
誠君の言葉の後、彼等は一斉に僕等へ向かってくる。
不図腕を掴まれ、振り向くと、灰色の眼をした少年がニヤリと笑う。
「プロトタイプか。僕達はお前達より多くの能力を身につけてる。だから、お前達に勝ち目はないよ」
腕から焼けるような痛みを感じる。
熱が…放出されている。
僕は、咄嗟に彼の心臓めがけて空いている手をかざす。
「甘いよ」
瞬時に、少年は翳した僕の手首を握り、捻りあげる。
「ッ…!」
少年とは思えない力でねじられ、骨が軋む。
「んッ…」
折れる…
「グッ…!」
手が…開放された。
崩れ落ちる少年の後ろから現れたのは…
「お前の方が甘いよ」
真次だった。
「大量生産されたコピーがオリジナルに勝てるとでも思ってんの?」
真次はにやりと笑い、力を込めた。
少年はそのまま蹲り、動かなくなった。
「大丈夫?」
真次に尋ねられ、頷く。
「ありがと…ゴメンね」
謝ると
「いいって。謝ってる場合じゃないでしょ」
苦笑して、真次は次々に襲いかかってくる能力者達と互角に張り合っている。
「…真次、もしかして」
僕は…気がついてしまった。
彼は…植え付けられただけじゃないんだ。
彼は元々…能力者だったのではないだろうか。
今まで、きっと隠してきたのかもしれない。
それでも、今。
全ての力を出し切って闘っている。
「僕だって…」
真次にまかせっきりにするわけにはいかない。
「屋良っち!!右!!」
誠君の言葉で右に振り返ると、少女が飛び掛ってきていた。
右手を差し出して、力を放出する。
「きゃ      ッ」
少女の心臓に直撃した僕の力は…少女の身体を押し返し、床にたたきつけた。
一方、尾身っちと、石田はアンドロイドに苦戦していた。
取り囲まれる二人。
危ない…!
そう思った時、後ろで、まっさんの声がする。
「よっしゃ!周波数確認完了!!バイバイ、ドーリィ達!」
スイッチを入れる。
すると、アンドロイド達が音を立てて崩れ落ちていく。
「まっさん!」
振り向くと、まっさんは笑顔で親指を立てた。
「すごいだろ?」
勝てる。
そう思った。
このまま、皆で力をあわせて…









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36話です
引き伸ばし入ってるかも(爆)。
でも、勢いに乗って、物凄く長くなったので、37話も同時にUP。
最近2話同時が増えてきた(笑)。
やっと、やっと、書きたくて書き溜めておいた部分に到達します。
37話の後半は、ずっとずっと書き溜めておいたものなのです〜。
ちなみに、36話にもずっと使おうと思って、書き留めておいた台詞があります。
さて、どれでしょう(笑)。ちなみに良知君の台詞です(笑)。
…って別に質問にしたからどうってわけぢゃないですけど(笑)。
「コピーが…」ってヤツです。実は、全然違う内容を考えていた時に出来た台詞なんですが、内容はかけ離れちゃったけど台詞だけは気に入ったので、取って置きました(笑)。

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