NO37 その時、一人の少年が叫んだ。 「プロジェクト.2だ!!」 「了解!!」 他の少年・少女達が一斉に手首に装着されたピルケースから錠剤を飲み込む。 「な、なんだ…?」 石田が困惑した声を上げる。 「…パラノイア」 誠君が呟いた。 「どういう、こと?」 「パラノイア・プロジェクト…そう聞こえた」 誠君の言葉に、後ろから慎吾の声がする。 「確実に、憎しみだけに思考回路を絞って、能力を異常な程に高めるつもりなんじゃ…」 その言葉が終わらないうちに、彼等に変化が現れる。 灰色だった瞳は…真っ赤に変わり、身体全体から、湯気のように気が立ち上っている。 「ギャーッ!」 すでに、人間とは思えない奇声を発しながら、彼等は襲ってくる。 「うわぁッ!!」 発せられた力は、今までとは比べ物にならないほど強く、僕の頬を掠めた力は、頬を切り裂き…そのまま、後ろのよっくんへと直撃する。 聞こえた声に振り向くと、蹲るよっくんが見えた。 「よっくん!!」 駆け寄ろうとした時、後ろから物凄い気を感じた。 急いで振り向き、両手を翳す。 その力ははっきりと眼に見えるほどで。 巨大な渦となって襲い掛かってきてた。 「うわぁ ッ!!!」 思い切り、力を込める。 巨大な渦に向かって、僕の力を放出する。 ぶつかり合った力は…均衡状態を保っている。 「くそッ!」 負けないように、更に力を上げる。 その時… 「 ッ!」 慎吾の…声だ! 瞬間、気が逸れた僕の力は…巨大な渦に吸収され、その渦はそのまま僕へと襲い掛かる。 気が付けば…僕は奥の壁へと叩きつけられていた。 ゲホッっと咳をしたと同時に、血が溢れる。 足が…震えて立ち上がれない。 顔を上げた。 その時…僕の眼の前に広がっていた光景を…僕は、一生忘れる事はないだろう。 それは…まさに悪夢のような光景だった。 大量の血が…海のように広がり、その中に、多くの少年・少女達が倒れている。 そして…そして… 「誠君!!!」 見えたのは…慎吾の前に蹲るように倒れている誠君の姿。 行かなきゃ。 あの場所へ。 物凄い力で、慎吾の周りに張り巡らされたバリアーは破られたんだと思う。 そして…慎吾を助けようと、誠君は自ら盾になったんだ。 それでも、有り余った力は、慎吾の左腕を血に染めていた。 意識が、朦朧とする。 骨が…肋骨が折れて、内臓に刺さっているのかもしれない。 溢れ続ける血。 白くなっていく意識。 それでも… それでも。 僕は闘わなくちゃいけない。 目の前に、ガラスの破片を見つけた僕は… 何とかその破片を手に取り、自分の足に突き刺した。 「 ッ」 痛みに、消えかけていた意識が戻ってくる。 行ける! 僕は、立ち上がった。 そこへ… 「大丈夫ですか!!」 駆け寄ってきたのは… 「は、ぎわら」 「血が…きっと、あの時の島田と同じ。内臓がやられてます」 少しでも… そう言って、萩原は僕の身体に手を翳す。 「大丈夫です。僕、治せますから。だから…」 負けないで… 萩原の目は涙が浮かんでいた。 「絶対…勝とうね」 萩原に声をかけた。 「はい!」 力強く頷く。 痛みが…少し和らいでいく。 不図、萩原がよろめいた。 「萩原!」 「…ッ。大丈夫、です。平気ですから」 きっと、相当力を使ったんだ。 このままじゃ、萩原が危険だ。 「萩原。もう、大丈夫だから。少し、ここで休んでて」 「でも!!」 「これから、また萩原の力が必要になる。誠君も助けてもらわなきゃダメだし。だから、少しだけ休んで体力を回復するんだ」 「…わかりました」 俯く萩原を残し、僕は悪夢のような情景の中へと走っていった。 残された萩原は… バリアーの破られた島田の元へと駆け寄った。 自分は…どうすればいいのか。 皆は…もう、限界の状態で闘っている。 屋良さん達も…そして、石田君も良知君も。 石田君の左腕は…きっと骨が粉砕してしまっているのではないだろうか。 力なくぶら下がっている。 良知君は…明らかにわき腹部分の服が血に染まっている。 力で…えぐられたんだと思う。 高木さんは身動きをしていない。 巨大な力を全身で受け止めたせいだ。 確かに…相手も数は減っている。 かなりの人数を倒したはずだ。 それでも… こっちの負傷はかなり大きい。 もう…どうすればいいのか。 僕には… もう、どうしていいかわからなかった。 「島田…」 島田の手を掴み、名前を呼ぶ。 何度も、何度も名前を呼ぶ。 そのうちに、気持ちが溢れて…止まらなくなっていった。 「島田…ダメだよ。僕じゃダメだ。どうすればいいかわかんないよ!!僕は…僕はどうしたらいいの?島田がいなくちゃ…僕はどうしていいかわかんないよ!!!島田がいなくちゃ何も出来ないままなんだよ!!!島田!!!おきてよ!!!ねぇ!!島田!!!お願い!!!眼をあけて!!!」 島田の手を両手で握り締めて、額へと当てる。 萩原の両目を流れる涙が頬を伝い、島田へと落ちていく。 その時 島田の指先が 微かに動いた。 ++ ++ ++ 俺は 漆黒の闇の中にいる。 そこでただ 息をしているだけ あの時 溢れるほどの声の渦にのまれて 俺は 死んだのだろう (違う) もう 何も感じる事は出来ない ( 死んだんじゃない ) 何も見えない (逃げたんだ ) ただ 誰かの声だけが 渦巻く (怖いんだ) カオスの世界 (俺はどうしたんだ) 洪水のように溢れる声 (誰の…?) 襲い掛かってくる声 (…俺?) いや、違う… 誰かの 張り裂けそうな胸の痛み (恐怖) 哀れみ (悲しみ) 色々な感情が渦巻く (のまれていく…) 混沌とした世界 ( この声) 声が 聞こえる 溢れる程の大量の声の中に 透き通るような (突き抜けるような) 悲痛な (懐かしい) 叫び声 『島田!!』 そうだ いつもそうだった。 俺の名前を呼ぶ声 その声を聞く度 思っていた 俺が 守ってやらなきゃ (違う ) そう 違う (俺が ) 助けられていたんだ いつも どんな時も 何の迷いもなく俺に全てを託してくるような 信頼しきったアイツの声に 『島田!!!』 その声を聞くたびに 俺は強くなれた いつでも アイツの声に救われていたんだ 『島田!!!!』 アイツが俺を必要としてるんじゃない… 俺にアイツが必要なんだ そして、今も… 『島田!!!起きて!!!』 漆黒の世界から 俺を救い出そうとしてくれている 見える 闇に差し込んだ一筋の光 それは、アイツに似た優しく温かな光 戻ろう。 逃げるわけにはいかない。 何故なら 彼が 俺を呼んでいるから 『目を覚まして!!!』 目の前が まばゆい光に包まれた。 ********** 37話です 後半の幸人の台詞から、直樹の心境までがかなり前から書き留めていた部分でした。 コレに繋がるように進むかがとっても不安で不安で(苦笑)。 あとは、思い描いているラストに繋がるように、頑張ります。 しかし、やっぱり40話は超えそうです(苦笑)。 ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |