NO38 ゆっくりと、眼を開けた。 まばゆいほどの光。 そして、ざわめき。 でも…一番最初に、眼に、耳に…飛び込んできたのは 「し、まだ…?」 驚愕した顔で覗き込む、萩原の姿。そして、声。 あの…俺を呼び続けてくれた、声。 「島田!」 その声に、導かれるように、俺は上体をゆっくりと起こした。 「島田ー!!」 しっかりと、抱きついてくる萩原。 萩原の頬は、涙に濡れていた。 あぁ…こんなにも。 泣かせてしまったんだ。 悲しませてしまったんだ。 俺は…自分だけ逃げてしまったんだ。 後悔が押し寄せる。 それでも…そんな俺を萩原は助けてくれたのだ。 頬に伝う涙を拭ってやる。 「島田…」 優しく微笑む萩原。 「…ゴメン」 それだけ、告げた。それしか、言えなかった。 「起きたのか!?」 駆け寄ってくる人影。 「町田さん…島田が!」 萩原が答える。 「良かった…本当に良かった…」 そう頷く、その人の腕は真っ赤な血で染まっていた。 「…一体」 「真都は…狂ってる」 萩原が言う。 「島田を、助けてくれたのは町田さん達だ」 僕等は、一緒に真都と闘ってるんだ。 萩原は、力強く俺を見る。 「助けたのは萩原君だよ。僕は何もやってない」 「真都と…闘う?」 頭が、痛い。 微かに、頭の奥が。 「彼等は…命を懸けて自由を勝ち取ろうとしてる。自分達の為だけじゃない。君達のような、被害者をこれ以上出さないためにも…彼等は全てを賭けて闘っているんだ」 町田慎吾の声を聞きながら先を見つめる。 はっきりしてきた視界の中に、激しく負傷する石田や…プロトタイプ達。そして、良知君… 「…屋良、」 屋良朝幸。あれほどの力を出して…俺の目の前で崩れ落ちたはずなのに。 それでも、なお。 あの、震える程激しい気をまとって、闘っていた。 頭痛が… 「島田…真都は、僕等を助けてはくれない」 縋るように見つめてくる萩原の声が、自然と入り込んでくる。 少しだけ感じていた頭痛が…霧が晴れるようにスッと消えていった。 「今の戦闘状態は?」 尋ねた俺に、萩原は一瞬、本当に嬉しそうな顔をして、そしてすぐに硬い表情へ戻し説明してくれた。 「敵は相当数送り込まれてる。アンドロイドは松本さんが全て排除してくれたから…残るのは全て能力者だけ。僕等の能力をコピーして大量生産された子達だ。半数以上戦闘不能状態へ持ち込んだけど…その代わり、こっちの負傷も大きい。完全に戦闘不能に陥ったのは、こちらでは高木さんと植村さん。ただ…石田君はきっと、片手はもう使い物にならない。良知君だって、わき腹をかなり深くえぐられているみたいだ。尾身さんは、何とか闘ってはいるけど…コピーの催眠状態は相当強くて、中々マインドコントロールが効かない。そして…屋良さんは…満身創痍なんだ」 僕の力だけじゃ、治しきれなかった…。 萩原は俯いた。 「大丈夫です、治しますって…僕、言ったのに。彼の怪我は凄くて…僕の力じゃ治しきる事が出来なかった…それなのに、屋良さんは…僕に、休んでてって…高木さんを後で助けて欲しいからって…まだ、内臓からの出血だって完全に止まっていないのに…」 俺は、屋良を見た。 とても、負傷しているとは思えない力の放出が見える。 俺は…腕に刺さっていた点滴の針を引き抜いた。 「島田!」 「大丈夫。俺が、お前の分も彼を助ける」 「島田…」 「俺は…何も理解出来ていないけど…萩原がそれを望むなら」 お前は…俺を助けてくれたから。 「今度は、俺がお前を助けるよ」 だから、自分を責めるな。 「島田…僕、皆を助けたいんだ!お願い!」 悲痛なまでの萩原の叫び。 俺は、立ち上がり、萩原の髪をクシャっと撫でた。 「まかせろ」 目の前に、広がる光景。 血の海へと。 血と、気が渦巻く戦場へと。 一歩、一歩と踏み出していく。 自分でも、不思議だった。 何故、こんなにも力が漲っているのか。 「これが…屋良の強さ、か」 守るものがある。 守るべき人がいる。 それが…強大な力を生むのだ。 視線の先で、良知君が片膝を突いて崩れ落ちる。 そこへ、力を放出しようとする相手。 俺は、右手に力を集中させ、ソイツめがけて一気に放出した。 「ガキが。調子にのってんじゃねぇよ」 俺の力は一直線にヤツの身体に突き刺さる。 ソイツは、数メートル吹き飛び、そのまま床へと倒れこんだ。 「…し、まだ!?」 良知君が顔を上げる。 駆け寄って、手を貸す。 「ったく、なんだよ。だらしないな。オチオチ寝てもいられねぇじゃん」 ニヤっと笑うと、良知君の目に、光るものが見えた。 「泣いてる、場合じゃないよ、良知君」 「馬鹿…心配させやがって」 軽く頭を小突かれた。 「ゴメン…」 一言謝って、そして、俺は全身に力を集中させる。 「その分、今から暴れてやるよ」 勝つんだろ? 聞くと、良知君は頷いた。 「絶対に、勝つ」 「俺には…負けるって言葉は似合わないしな」 軽口を叩いて、俺は目の前にいる数人の敵に向かって一気に力をぶつけた。 やつらが力を合わせて巨大化させた気が俺の力とぶつかる。 それでも…俺の力は奴らの気を飲み込んで、更に膨張していく。 今までに、感じた事のない力の漲り。 助けてみせる。 彼等を…そして、萩原を。 「言っただろ?ガキが調子にのるんじゃねぇよ」 島田は、目の前で、一斉に崩れた少年たちに不敵に笑った。 ********** 38話です 一気にラストまで突っ走ろうと思ってます。 島田さんがとうとう目覚めました!!カッコいいです。カッコいいです島田さん(笑)。 一応、書きたい事がまだ浮かんでいるので書き留めました。 それに上手く繋がるかどうか…。 とりあえず、更新にはそんなに時間はかからないと思います。 すぐ更新予定。もしかすると、40話で終わる…かな〜? ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |