NO39

「島田!」
石田の声。
「悪かったな。遅くなって」
笑ってみせる、と石田は苦笑して
「ホント、遅すぎんだよ、お前」
と憎まれ口を叩く。
それでも…
明らかに、石田は弱っていた。
彼の左手は、力なくぶら下がって、全く動かせないようだ。
「ガキのクセに」
石田や良知君をこんなにまで追い込むなんて。
それに…屋良も。
「ふん…気にいらねぇな」
屋良と互角に張り合うなんて。
屋良を倒すのは自分だ。
他のヤツに譲るわけにはいかない。
奇声を上げた少年達が次々に飛び掛ってくる。
「めんどくせぇな」
島田は右手を高く掲げ、一気に力を集中させる。
そして、そこから放出された力は周囲から飛び掛ってきた少年達を一気に床へと叩きつけた。
不図、視界が歪む。
「ッ…」
さっきまで、眠り続けていたのだから、体がついていかないのは仕方がない。
でも…
「んな事言ってられないんだよ」
そう思って、軽く頭を揺すったその時
「ふざけんなよ、死にぞこないの癖に」
声が、背中から聞こえた。
慌てて振り向こうとしたとたんに、勢いよく吹き飛ばされる。
壁に激突する寸前、受身の態勢をとった。
それでも、勢いよくぶつかった体の上に、瓦礫が降り注ぐ。
「ちッ…油断したか」
瓦礫を力で吹き飛ばして、起き上がる。
体から血が溢れるほど流れているものの…
「痛くも痒くもねぇよ」
島田はニヤリと笑う。
そう、どんなに負傷しても。
守らねばならない人がいる。
だから、
「痛くなんか、ない」
島田はまた戦いの中へと戻っていく。
それでも…
島田の力を持ってしても。
仲間の負傷は大きすぎた。
「石田君!!」
萩原の声。
視線をやると、床へと崩れ落ちていく石田が見えた。
「石田!!」
良知君が叫ぶ。
「ご、めん…良知君…」
そう呟いて、石田は目を閉じる。
「石田ー!!」
駆け寄ろうとする良知君。
それを狙う少年。
「良知君、危ない!!」
叫んだと同時に、良知君をかばうように飛び出してきた人影。
「ッ…!!」
少年の力をまともにくらってそのまま倒れこむ。
「尾身っち!!」
屋良の声が聞こえた。
「…尾身さ、ん」
立ち竦む良知君。
「良知君!しっかりしろ!!」
目の前には、再度力を放出しようとする少年がいた。
「危ない!」
俺は右手で、目の前の敵に力を放出しながら、左手で、良知君の援護をしようとしたその時…
良知君の体の周りを、物凄い気が渦巻いている。
屋良に、負けないほどの力。
いや、それ以上かもしれない。
コレは…一体。
「ゆるさない」
良知君の呟きに合わせるように…体に纏った気が、次々に放出されていく。
「絶対に、ゆるさない」
良知君の気は次から次へと、少年少女を襲っていく。
…危ない。
瞬間、そう思った。
制御不能状態だ。
力がとめどなく放出されている。
このままでは…良知君自体が壊れてしまう。
かなりの負傷をおっている良知君が、このままこんな最大限の力を出し続けたら…
「うわぁぁぁ!!!」
「やめろ!良知君!!」
叫び声と同時に、良知君の気が更に大きくうねる。
その気は、強大な渦となって、敵を崩壊させていく。
良知君の…膝が揺れた。
「良知君!!」
辛うじて、手を突いて良知君は起き上がる。
ほとんどの力が…良知君の体から放たれていったのが見えた。
それでも…
「全員、力を統合する!」
煙の向こうから…奴らの声が聞こえた。
「無理…なのか」
良知君の力ない声が聞こえる。
無理…なのか。
ヤツらに…勝つことは。
こっちはもう、俺と良知君…そして、屋良しかいない。
所詮…真都にはむかう事が、無謀だったとでもいうのか。
そう、思ったその時…
「無理じゃないよ!」
屋良の声がした。
「僕等は…勝たなくちゃダメなんだ。約束したんだ。だから…絶対…」
負けるわけには、いかないんだよ。
「諦めちゃ…ダメなんだ」
その言葉は、俺を蘇らせる。
萩原への約束。
アイツの分も、屋良を助けてやると、約束したのだ。
そして、萩原を助けると。
「そうだな…諦めるのは…早いよな」
煙の向こうから、20人程度の少年達が浮かび上がる。
やつらも…残りわずかだ。
限界を迎えてるのは、俺達だけじゃない。
「僕は…負けない」
屋良が…前を見据えて、力を集中させ始めた。
屋良の眼は…少年達を見ているのではなく。
その先にあるはずの、自由に向けられている。
そんな気がした。
屋良の体から真っ白い気流が立ち上がる。
そして、その気が大きくなったその時…
屋良の体が大きく揺れた。
『屋良さんは…満身創痍なんだ』
萩原の言葉が頭をめぐる。
++ ++ ++
全ての力を集中して、僕は力をぶつけようとした。
でも…身体が、ついていかない。
力に…負けてしまって。
立っている事さえ…もう、辛かった。
気が…遠くなる。
このまま…巨大な渦に飲み込まれて終わってしまうんだろうか。
諦めるわけには…いかないのに。
負けるわけにはいかないのに。
僕の意志に反して…

視界が  揺れた。

崩れ落ちるかと思った、僕の身体は後ろからしっかりと抱きかかえられていた。
「大丈夫。俺が支えるから」
聞こえたその声は
「島田…」
「屋良。力を集中させるんだ」
そう言って、島田の右手が、僕の手に重なる。
左手で、僕を抱えたまま、島田は右手から力を流し込んでくる。
僕の身体に、気が渦巻く。
身体の中で、僕の気と島田の気が、今までにない強大な力を生み出していく。
「終わりにしよう。これで、全てを」
耳元に聞こえる島田の声に、僕はコクっと頷いた。
もう、皆闘える状態じゃない。
僕と、島田を除けば…辛うじて立っている事が出来ているのは真次だけだった。
敵は…後20人ほど。
真次も、近づいてきた。
「俺の力も…」
真次の手が、更に重なる。
温かく、力強い気が流れ込んでくる。
「勝とうぜ、屋良」
島田の声。
「終わりにしよう」
真次の声。
僕は、ただただ頷いて…
僕の持っている全ての力を、全神経を集中させて、手のひらへと集めた。
体中を包み込む、強大な気。
その全てをも、手のひらへと集中させる。
足が…震える。
身体は、もう限界だった。
それでも…
島田が、僕を支えてくれているから。
どんなに大きな力を放出したとしても、バランスを崩す心配はない。
目の前に少年達が近づいてくる。
彼等の手にも、気が渦巻いているのが見える。
あれを一斉に浴びせられたら…
あれに負けないほどの力をぶつけなければ。
真次の手が…僕の手をしっかりと握った。
「そろそろだ」
真次が言う。
確かに、僕の体の中に、押さえきれないほどの気が溢れている。
「行け!屋良」
島田が、耳元で言った。
「攻撃!!」
少年の声が響く。
同時に、僕の手から、龍の様に巨大にうねる気が、まるで生きているように大きな口をあけて、彼等に向かっていく。
彼等から発せられた気は、僕等の気に次々とぶつかり、そのたびに、小さく起きる爆発音。
放出したと同時に、僕の体は一気に力が抜けたように、立つ力も失っていた。
それでも、島田は僕を支え続けてくれている。
真次も、僕の手を握り続けてくれている。
負けたくない。
僕等の為に。
慎吾の為に。
これ以上、あの悲劇を繰り返さない為に。
「お願い!!」
最後の力で、僕は叫んだ。
少しでも、力を増大させるために、僕の感情を送り込む。
それに答えるかのように、気は更にうねり、彼等の気を蹴散らしていく。
「蹴散らせー!!」
島田が叫ぶ。
そして…
あたりがまばゆい光に包まれた。






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39話です
後半の部分がこの間、書き留めた部分だったのですが。
何とかつながりました。
えっと…次の40話ですずっくんたちの事を書いて…
そして、その後、どうなったかを書いて…
そしてそして、ずっとずっと思い描いていたラストにつなげられればいいなぁと。
って事で、40話じゃ終わりませんね(苦笑)。


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