NO4

薄暗いホテルの部屋。頭痛と吐き気が止まらない…。
「大丈夫?」
覗き込んでくる良侑に、微かに首を振る。
「薬がね、効いてないみたい」
「…辛そうだよ」
「今は大分落ち着いたよ」
周りに人がいないから…。
食事をとろうと入ったファーストフード。あまりの人の多さで俺の脳内は聴き取れないほどの言葉で溢れかえってしまった。とにかく人から隔離されたくて、すぐ傍にあったホテルにかけ込んだ。
「でも、まだ頭痛いんでしょ?」
「うん、でも…少し横になれば大丈夫だと思うから」
「…寝たほうがいいよ、高木」
「そうする…ゴメンな」
目を閉じる。
何も、考えないように…
頭の中心から何かが流れ出していくような奇妙な感覚に襲われる。
脳が、溶ける…。
オーバードライブかもしれない。
前に、研究所で言われた事がある。
『必ず、薬を飲む事。そうしなければ、自分自身の力によって精神が壊れてしまう事もあるんだから』
…壊れるのか?俺。
不安が広がる。
キュっと目を瞑り直すと、良侑の手が俺の頭を撫ぜる。
「高木、今は何も考えない方がいい」
僕も傍から離れようか?
聞こえてきたその声に
「…ココに、いてよ」
と答えた。
脳に侵入してくる声も、良侑のなら不快感はない。
脳を刺激されてオーバードライブでおかしくなる怖さよりも、今、一人にされる方が怖かった。
「そういえば、出てくるとき、メモ渡されたよね」
良侑がふと思い出したように呟く。
「あぁ、そういえば…」
あったような気がする。
「確か、街に辿りついたらココを尋ねろって…」
必ず助けてもらえるからって…
「高木、少し眠ったらココに行ってみよう」
クシャクシャになったメモをポケットからとりだした良侑が言う。
「うん…わかった」
何よりも…とにかく、少し眠りたい…
俺は、無理やり外界の音を遮断する為、眠りにつく。
薬が効かない今、頭の中の声を消すには…ただひたすら眠るしかない。
++ ++ ++
「さて、どうしようか」
しばらく街中を歩いてみたものの、そんな簡単に出会えるわけもなく。
「…もう、逢えないのかな」
悲しくて、どうしていいかわからなくなっている僕に慎吾は優しく語りかける。
「大丈夫だから。絶対に逢えるから」
また、明日ゆっくり探そう?
「うん…そうする」
「じゃあ、せっかく街に来たことだし。朝幸のものを買って帰ろう」
「僕の、もの?」
「そう、服も買わなくちゃいけないし…ベッドもいるだろ?」
「ベッドはいいよ…僕、ソファでも寝れるから」
「だめだよ、ゆっくり寝れないじゃない」
「でも…悪いよ」
たまたま僕を拾ってくれただけなのに、そんなにしてもらうなんて…
「いいんだよ、気にしなくて」
好きでやってるんだから。
そう言いながら、慎吾は店に入っていった。
置いていかれないように跡を追う。
が、人ごみに紛れて、あっという間に見えなくなってしまった。
「慎吾…?」
どこ?
…怖い。一人にされるのは、とても怖い。
「慎吾っ!」
返事はない。
「慎吾!!!」
力いっぱい叫んだ。
瞬間、周りで悲鳴が起きる。
しまったっ!!
そこには、散らばったショーウィンドウの破片…。
どうしよう…一度動き出したら自分では止められない。
薬は…車の中に置いてきてしまった。
どうしよう…どうしよう…
こんな時、頭のいい良侑ならなんとかしてくれるはずなのに…。
誠君だってそうだ。
でも、今僕は一人。
助けてくれる人は…一人だけ、いたっ!!
「慎吾…慎吾…助けてっ」
小さな声で必死に祈る。
大きい声は感情が表れやすくて危険だから。
小さな声では慎吾には聞こえないかもしれない…。
でも、僕に出来るのは、小さな声でずっと慎吾を呼びつづける事だけだった。
「朝幸っ!!!」
いきなり腕を掴まれる。
驚いて顔を上げたら…
「慎吾っ」
「早く、コッチに」
無理やり引っ張られて店を出る。
「大丈夫?怪我は??」
「ごめんなさい…」
「どうして謝るの?」
「…だって、僕のせいだから」
「…とにかく、車に戻ろう。薬飲まなきゃね」
慎吾に連れられるまま僕は車に戻った。
薬は、あと僅かしかない。
貴重な薬を一粒無理やり飲み込む。
これが無くなってしまったら…
『薬が無くては、お前達は生きられない』
言われた言葉が頭を駆け巡る。
『ここから、離れて生活しようなんて考えるな』
『お前達は、ココでしか生きられない』
『もう…普通じゃないんだからな』
…考えたくないのに、言葉が次々と思い出される。
「朝幸、落ち着くんだ。大丈夫だから…」
そっと、慎吾に抱きしめられる。
「ほら、深呼吸してごらん」
言われたとおり深呼吸する。少しだけ、落ち着いた気がする。
「泣くんじゃないよ」
言われて、頬に手を当てると、知らない間に涙が溢れていたらしい。
「あれ、なんで泣いてるんだろ…」
「環境の変化で疲れているんだよ。僕の配慮が足りなかったね。ゴメン」
「…慎吾は悪くないよ。それより…」
どうして、聞かないの?
「ガラスが割れたの、僕のせいだって言ったよね?慎吾、驚かないの?」
「朝幸、話したいの?」
「…わかんない」
話してはいけない気がするけど…聞いて欲しい気もする。
混乱してきている僕に慎吾が優しく言う。
「とりあえず、続きはゆっくり休んでからにしよう」
OK?
頷く僕を見て、慎吾は車を走らせた。



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さて4話。
少しずつ、彼らが何モノなのかは解ってきましたねv…つーか、最初から解っていた方もいっぱいいるでしょうけど(苦笑)。
で、まだ4人の登場人物しかでておりませんが、次回また新たな人物が登場する予定です。

ちなみに…小説内の「オーバードライブ」は「酷使する」の意味で使っております。速度を増す…方ではないです(笑)。皆様わかっているとは思いますが、念の為…。

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