NO5

「ちょっと配慮不足だったよ」
町田は電話の相手に、そう告げた。
『気をつけろよ。彼らは薬がなければ力を抑える事が出来ないんだから』
少し責めるような口調に、町田は溜息をつく。
「…とにかく、あと二人が見つかってないんだ」
『大丈夫。植村にメモを渡してある。入院していた屋良以外にはとにかくそこに行けとだけは話してある。逸れてしまった屋良が偶然お前に拾われたのはラッキーだったよ』
電話の相手は、少し小声で話している。
…周りには、聞かれるわけにはいかない話だからだ。
「でも、尋ねてこないんだよ」
道にでも迷ってるんじゃないだろうか…。
『体調を崩しているかもしれない…とくに木は能力的に突然人込みに入ったりすると危険が伴うから』
「…そこまで解ってて」
不満をぶつけようとした町田の言葉を、相手が遮る。
『解っていても、今すぐ逃がさなきゃいけなかったんだ。それに、そうなると解っているからこそ、お前を頼りにしたんじゃないか』
わかるだろ?町田。
問われて、仕方なく返事をする。
「それは、そうかもしれないけど…。でも、すずっくん…っと。鈴木の研究が上手くいけば彼らだって薬に頼り切る事もなくなるんだから、それを待ってからでも」
『懐かしいな』
「何が?」
『久しぶりに「すずっくん」って呼ばれたよ』
あの頃を…思い出すなぁ。
苦笑する声。
「うるさいな、つい言っちゃっただけだろ」
『ま、いいや。話戻すけど…俺の研究を待ってる間に、彼らはもっと酷い目にあう可能性が強かった。だから、即急に逃がす必要があったんだ』
「酷い目?」
これ以上に、酷い事があるんだろうか…。
『町田。お前が居なくなってから…すでに第二世代が誕生してるんだよ』
「え?」
『彼らの研究結果を踏まえた、第二世代が誕生した。彼らの欠点を踏まえて作られたいわば完成品だそうだ』
「それじゃあ…」
『…屋良達は、もう用無しってわけだ』

町田は言葉を失った。
そんな、酷い話があるだろうか。利用するだけ利用して…。
『町田…明日、もう一人逃がす予定だ』
答えの無い町田にかまわず、鈴木は続ける。
『その時、あいつも一緒に連れて逃げてもらおうと思ってる』
「…あいつって」
息を呑む。
だが、そんな町田の問いかけには答えず、話しつづける。
『とにかく、彼らが逃げた事は隠し通せている。研究対象として隔離している事になっているからな。だから今の内にお前のところに全員避難させたいんだ』
「…生きてるのか、まだ」
あれほどの目にあいながら、まだ…。
もう一度問いかけた町田に、鈴木は少し間を置いてから答えた。
『あぁ…大丈夫だよ。あいつは、強い。精神的に…とても強いんだな、アイツ』
あれほど長い間一緒にいたのに…初めて知ったよ。
少しの沈黙が続いた。お互い出来れば触れたくない傷跡だ。それでもなお聞かずにはいられなかった。
「あいつも…用無しって事なのか」
『そういう事だ…』
「あんな目にあわせておいて…朝幸達だってそうだ。誰のせいで彼らはあんな目にあってると思ってるんだよ」
思わず声を荒げてしまう。八つ当たりだとわかっているが、誰かを責めなければやりきれない気持ちでいっぱいだった。
『…俺達の、せいだよな。』
辛そうに呟く鈴木。
そして、深く深呼吸をすると、町田が一番聞きたくない言葉を続けた。
『町田…お前も含めてな』
町田自身、それは痛いほどよくわかっていた…。
++ ++ ++
目をあけると、横に良侑が眠っていた。
「俺…」
どのくらい寝ていたんだろう。
「…あ、れ?高木起きた?」
良侑も目を覚ます。
「うん…ゴメン」
「謝ることないじゃん」
「ケド…」
「高木、歩ける?」
「あぁ、もう大丈夫」
「じゃあ、行こうか」
「どこに?」
「言っただろ?メモの住所にだよ」
「あぁ…」
そういえば、眠る前にそんな話をした気がする。
「それからゆっくり屋良っちを探そう」
闇雲に探すより、その方が見つかるような気がする。
良侑の言葉に、俺は強く頷いた。
「で、その住所…誰の家なの?」
「町田、慎吾」
「…何者?その人」
「行けばわかるよ、多分ね。それに、正体がわからなくても、僕らが頼れるのは今この人だけだ」
ほら、行こう。
そう言って、良侑はドアを開けた。

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5話です〜vv
町田さん!!あなた一体何モノ??(って聞くなよ・笑)
さて、鈴木君の登場ですv一番最初に町田さんが電話してた相手もすーさんだったのですよ。
でも、まだ予定してるキャストの半分も出ていない…(苦笑)。


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