NO6 慎吾に宥められて、そのまま眠りについていたみたいだ。 そして寝ている間に、日付が変わったらしい。 眩しい太陽がカーテンの隙間からさし込んで、僕は目を覚ました。 が…周りには慎吾の姿が見えなかった。 「慎吾?」 ベッドから降りて、家中を歩き回る。 …と、初めて来た時、慎吾の声が聞こえてきた部屋の事を思い出した。 そのドアの前まで行ってみる。 すると… 「あんな目にあわせておいて…朝幸達だってそうだ。誰のせいで彼らはあんな目にあってると思ってるんだよ」 …慎吾の声だった。 『あんな目にあわせておいて…』 言葉の意味を理解するのに、数分かかった。 気がつけば慎吾は無言で受話器を叩きつけたらしい。 …何か、知ってる。 慎吾は確実に何かを知っている。薬の事だって知ってた。そして、僕の事も…。 慎吾と、ゆっくり話をしてみよう。 僕の事も…聞いてもらおう。そして…僕はこれからどうすればいいのか…少しでもヒントが貰えれば。 実際、僕はこの先どうすればいいのかさっぱりわからなかった。 決心を胸に思い切ってドアをノックした。 「朝幸?」 驚いた声がして、ドアに駆け寄ってくる足音。 「どうしたの?こんなところまで来て」 「…慎吾、探してた。一人になるのは…怖いよ」 「…ゴメンね。ちょっと用事があったんだ」 「用事って…電話?」 「…朝幸?」 一瞬ドキリとした慎吾の顔。 「ごめん、聞こえちゃったんだ」 『誰のせいであんな目に…』 確かに慎吾はそう言っていた。 「…そう。それで、朝幸はどう思ったの?」 何を尋ねられてるのかわからず問い返す。 「どうって?」 「僕の事、信用できない?怖い?」 尋ねられて、左右に首を振る。慎吾が何者なのかはわからなくても、信用できないとは思わない。 むしろ…今、慎吾から離れる方がよっぽど怖かった。 「…とりあえず、慎吾とゆっくり話がしたいよ」 僕の事も…聞いてもらいたい。 そう言うと、慎吾はにっこり笑った。 「いいよ、そうしよう。おいで、お茶を淹れてあげるよ」 慎吾の後ろからついていく。慎吾の背中を見ながら思った。直感だけど…慎吾は僕の、僕らの味方だ。 ++ ++ ++ 「よぉ」 ドアをあけて入ってきた少年に鈴木は片手を上げて笑いかける。 「何の用?呼び出したりして」 モルモットの俺なんか呼び出したら…目ぇつけられんじゃないの? そう尋ねられた鈴木は苦笑して答えた。 「お前は俺の研究対象って事になってんだよ」 「研究ねぇ。一体、どの研究の対象なんだか」 溜息をつきながら呟く少年。 「なんだよ、今日はやけに絡むじゃないか」 「別に。いつもの事だよ」 「心配しなくても…屋良なら、大丈夫。無事に拾われたから」 「そっか。…屋良っち、だけ?」 「とりあえずな。でも、大丈夫だろう。メモがあれば必ず町田のところに辿りつくはずだ」 「ねぇ…町田って何者?」 「お前も、知らないんだったっけ?」 「聞いた事ない」 「そっかぁ。お前等の研究の前だったか。アイツが去ったのは」 「ここの、人だったの?」 尋ねた少年に、鈴木は曖昧に笑ってみせた。 「その話は、直接本人に聞いた方がいい。俺が話す事じゃないだろ」 「…それって」 「そう。今日、午後からお前達を研究の対象として別棟に隔離する事になった」 上手く、やれよ。 小声で呟いた鈴木に、頷きながらも少年は聞き返した。 「俺…達?」 「そう、お前に…連れていって欲しいヤツがいる」 そのために、お前には残ってもらったんだ。 「…誰?」 問いかけに、鈴木は大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと答えた。 「大野…大野智」 ++ ++ ++ 昼休み。鈴木は部屋にこもって研究を続けていた。 一息つこうとコーヒーを淹れる。 と、 「生きてるか?」 覗き込んできたのは、同じ研究員の鎌田だった。 「あぁ、何とかね」 笑って返すと、鎌田は鈴木の机の上を覗き込んだ。 「どっちの研究?表向き?それとも…」 「秘密の研究」 「あぁ、実際に取り組んでる研究の方か」 「研究所から依頼されてる研究なんて、とりあえずコナしてれば何とでもなるからな」 でも、こっちはそうじゃない。 コーヒーに口をつける。 思えば、鈴木が今日口にするのはこのコーヒーが最初だ。 「で、どうなんだよ」 鈴木の研究データを1枚手にとって鎌田は尋ねる。 「難しいけどね、とりあえず解析はできた」 サンプルはすぐにでも出来る状態にまで辿りついたよ。 鈴木の台詞に、鎌田は大きく頷いた。 「あとは試薬段階でどうなるか…ってところか?」 「…確実に安全とわかるまでは投与はしたくない」 「でも、それは無理だろ」 「…彼らは、人間なんだ」 「それはわかってる。だからこそ、この研究で彼らを救おうとしてるんだろ?」 そのためには…試薬段階のデータが不可欠だ。 鎌田に言われ、鈴木は黙り込む。 鎌田が言うのはもっともだった。 でも…これ以上彼らの体を蝕むような真似はしたくなかった。 例え、実際に彼らに手を加えたのが自分ではないにしろ…研究に協力し、実験を止めなかった。それだけで同罪だ。 『誰のせいで…』 町田の言葉が頭から離れない。 「鈴木…何かあったのか?」 「はぁ?」 鎌田の突然の問いに、思わず間の抜けた返事をしてしまった。 「しっかりしろよ」 苦笑する鎌田。 「ゴメン。ちょっとな、町田と久しぶりに話をしたんだ」 「町田と?元気だったか?アイツ」 「あぁ。とりあえず、屋良が町田のところに拾われたらしいから」 「屋良だけ?」 「なんかね、屋良だけ逸れたらしい」 「…屋良らしいな」 思わず笑いが出る。 「で、町田が偶然拾ったらしいんだ」 「植村と高木はどうした?」 「まだ、町田のところには行ってないらしい」 「そうか…」 「今日、逃がすよ」 「尾身か?」 「あぁ。その時、大野も連れていってもらおうと思ってる」 「大野をか?どうやって連れ出す?」 アイツは今、研究病棟だぞ。 鎌田の問いに、鈴木もう一度コーヒーに口をつけ、気持ちを落ち着かせた。 「屋良も…研究病棟からの逃亡だったじゃないか」 「屋良のときは一般研究病棟だ。でも、大野は…特別監視付き研究病棟だぞ?」 「…危険は承知だ。でも、これ以上大野を苦しめたくない。大野が…人間でいられる間に逃がしてやりたいんだ」 鈴木の真剣な訴えに鎌田は大きく溜息をついた。 「それは、俺も同じ気持ちだ。できるだけ協力するよ」 そう言って、鈴木の手からコーヒーを奪い取り一気に飲み干した。 すでに、彼らの戦いは始まっている。 …引き返す事は、できない。 ********** 6話ですv一気に3人新たに登場ですvv 今回で大分真相が読めてきたんじゃないでしょうか? すーさんの研究とはなんなのか?そして、やっとわかり始めた町の正体とは? そしてそして、大ちゃんは一体?? …以下、次号(爆) ≪≪TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |