++第4話++

ファーストフードであの時座っていた窓際の席につき、町田は同じように景色を眺めた。
道行く人の動きを眼で追いながら、町田は溜息をつく。
「すいません…何だか、グルグルしてて思い出せないんです」
その言葉に、良知はうんうん、と頷いて石田を手招きする。
「何?良知君」
近寄った石田に、「耳を貸せ」と合図する。
近づいた石田の耳元に手を当てながら何やらヒソヒソと話すと、石田は「わかった」と頷き、店を出た。
「…何?」
島田が尋ねると、
「うん、ちょっとね。石田にはちゃんと探偵さんらしい仕事をしてもらおうと思って」
そうニッコリと笑う。
「町田さん。あなたが記憶を無くしたのは、そんなに前ではないと思うんです」
「…どうしてですか?」
尋ねた町田に
「ココから記憶を思い出すのが困難になっている。ココに居た事は思い出せたのに、何を考えてたのかは思い出せない。つまり、考えていたのは記憶をなくす要因となった出来事ではないでしょうか」
「はぁ」
何とも間の抜けた町田の返事とは裏腹に良知は力強く頷く。
「ですから、その要因を探す糸口を探りましょう」
「…どうやって?」
尋ねる町田に良知はニッコリと笑う。
「うちにはね、とても腕のイイ探偵がいるんですよ」
「…良知君、どういう事?」
眉を顰めた島田が尋ねる。
「つまりね、ここで要因について考えていたって事は、ここまでは町田さんは記憶があったんだと思うんだよ。と言う事は、ココは町田さんがよく訪れる場所だと思うんだ」
「どうして?」
幸人がシェイクを飲みながら小首を傾げる。
「だってね、記憶をなくすくらいの出来事について考えようとする時に自然と足を運ぶ場所って、落ちつける場所っていうのが普通なんじゃないかな」
「確かにじっくり考えようと思ったらそういう場所を選ぶよね。…でも、ココってそんなに落ちつけるとも思わないんだけど」
島田の言葉に
「そう。普通だったらココは落ちつけるとは言えないかもしれない。人は多いし、賑やかだし。でも、ココに頻繁に訪れていたとしたら…この窓から景色を眺めながら考える事を前にも何度かした事のある人だったら…」
「あ、そっかぁ!!」
突然幸人が声をあげる。
「町田さんは普通なら落ちつけないようなココを選んで考え事をしてた。つまり、ココは町田さんにとって何度も来てた落ちつけるスペースって事だぁ」
「そう、その通り。町田さんはココを頻繁に活用してた。と言う事は、町田さんはこの辺に生活の基盤を置いていた可能性が高い。住んでいる場所は違ったとしても、何度もココに訪れてたんだからね」
良知の言葉に、島田がハッと顔を上げる。
「そっか!だから石田の出番なのか」
「正解。だんだん二人ともこの仕事、馴れてきたんじゃない?」
ニコニコ笑う良知に向かい、町田が心配そうに尋ねる。
「あの…僕、よくわかってないんですけど」
「あ、すいません。とにかく、この辺にあなたがよく訪れてたとしたら、あなたの事を知ってる人がこの付近にいる可能性があります。友人だったり、どこかのお店の店員だったり。ココで、町田さんの記憶は遡る事が出来なくなりましたよね。ですから、今度は周りからあなたの記憶の糸口を探る事にしよう、というわけです」
「…はぁ」
何だか歯切れの悪い返事だが、町田はとにかく良知にまかせるしかない、と深く頷いた。
++ ++ ++
ファーストフードで、2時間ほどたった頃、良知の携帯が鳴った。
「もしもし、あぁ…うん。ホント?…ん、ありがと。さすが石田だね〜。頼りになるよ。…とりあえず連れてこれそう?…うん、じゃあ戻ってきて」
電話を切った良知に3人が視線を送る。
「町田さんの事を知ってるという人物を探し出しました。今、一緒にココに向かっています」
「じゃあ、町田さんの記憶、戻るかも♪」
良かったね、とニッコリ笑う幸人に町田も微かに笑う。
「ありがとうございます。でも…何だか怖い気がする」
「怖い?」
島田に尋ねられ、町田はコクっと頷いた。
「記憶をなくすほどの衝撃…それを知るのが怖いんです」
「や、でもそれはあくまで良知君の仮定、だから」
そんなに思いつめなくても。
そう言った島田に
「…島田は僕の事を信用してないんだね」
と、こぼす良知。
「や、そういうわけじゃないけど…」
焦る島田に
「島田、酷い」
何故か幸人が拗ねる。
「ちょっ、待てって。別に信用してないとかそういうわけじゃないって!!!」
慌てて弁解するも、すでに遅し。
「まぁ、島田も言ってるとおり、あれはあくまでも僕の推論です。もし、事実衝撃的な出来事があったにせよ、記憶を無くしたままいるよりも、真実を知った方がいいと思うんです」
良知の言葉に、町田は微かに頷いた。少し、手が震えている。
落ちつこうと手を伸ばしたコップがカタカタと震え、町田は深呼吸した。
その手を良知がしっかりと握る。
「大丈夫です。もし、衝撃的な出来事があったとしても、僕らがついてます」
頼りないかもしれませんけど…
チラっと島田を見て、そう続けた良知。
島田は方眉をあげ、「しつこいなぁ…」と呟くと、町田に向かって言った。
「良知君はね、すっごく信頼できる人だから。だから、安心して」
「そうそう。良知君はね、とっても頼りになるんだよ!!それに優しいし。それにね、島田だって怖そうだけど…いや、怖いけどホントは優しいとこもいっぱいあるんだよ!!!」
シェイク片手に力説する幸人に
「…お前、微妙に引っかかるモノの言い方するよな」
と何気なくツッコミを入れるも聞き流される島田。
「…ありがとうございます。僕、真実を受けとめます!!頑張ります!!!」
少し裏返った声で叫び、お辞儀をした町田。
その時、
「お待たせ」
石田が一人の少年を連れて返ってきた。
「慎吾、何やってンの?」
そう言いながら町田の前に立ち、町田の頬を両手でウニィ〜っと引っ張る。
「いひゃいッ…」
涙目な町田。
「…石田。この方が?」
喋れない町田に代わり、良知が尋ねる。
「あ、そうそう。この人が町田さんをよく知ってるっていう…」
「大野なのじゃ」
「大野さん、ですか」
「そ、大野なの。…慎吾、しばらく逢えなかったから、嫌われたかと思ったのじゃ」
そう言って、手を離す。
「あの…僕、あなたと友人…だったんでしたっけ?」
首を傾げる町田に
「酷いのじゃ!!!ちょっと冷たくしたからって…意地悪なのじゃ!!」
今度は大野が涙目に。
「…すいません、大野さん。町田さんは今、記憶喪失なんです」
慌てて告げた良知に、大野は小首を傾げた。
「…記憶喪失?」
「そうです。記憶が無くなってしまってるんです。そこで、大野さんから、町田さんについて色々お聞きしたいと思ってココに来ていただいたんです」
「そ、なのか?なんだ、慎吾記憶ないのか。なら仕方ない………………って、それ大変なのじゃ!!!」
オタオタする大野に向かい、良知が「まぁ、落ちついて」と座るように進める。
とりあえず座り、横に座っていた島田の手からコーヒーを奪い取り、一気に飲み干す。
「…苦いのじゃ!!」
ヤツあたり気味な文句を言いつつ、大野は良知を見た。
「慎吾は、元に戻るの?」
「大野さんの助けがあれば…」
「…何、話せばいいの?」
「先程…「冷たくしたからって…」と仰ってましたけど…それは一体?」
「あ、あれ?あれはね。5日くらい前に、慎吾がすっごく深刻な顔して…すっごく下らない事言ってきたから冷たい態度とっちゃって…」
でも、慎吾が変な事言うからいけないのじゃ。
と、少し口を尖らせる大野に向かい、良知は身を乗り出した。
「大野さん、その事について、詳しく聞かせてくれませんか?町田さんは一体何を言ってきたんです??」
「もしかして、それが…」
呟いた島田に向かい、良知は真剣な眼差しで頷いた。
「そう。…町田さんの記憶を探る鍵だ」





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第4話です。
あらら…またしても終わらなかった。
いつもと違って、PCではなく、紙上で空き時間を使って細切れ執筆の為、自分でもなかなか感覚が掴めずにいる今日この頃…。
でも、次回で解決予定(多分)。


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