++第5話++

「あれは4〜5日前だったと思う。このすぐ下の通りですっごく暗い顔した慎吾を見かけて…」
大野は思いだしながら話を続けた。
++ ++ ++
「慎吾!!何暗い顔してるのじゃ!似合わないのじゃ!!」
「…大野ぉ。俺、どうすればいい?」
突然抱き付かれ、大野は驚愕しながらも聞き返す。
「何が?」
「昨日、聞いちゃったんだよ」
「何を?」
「俺…町田慎吾じゃないのかもしれない」
「は?何言ってンの?熱でもあんの?」
額に手を当てようとした大野の手を、町田はやんわりと払う。
「だって、聞いたんだよ」
「だから、何を」
「俺…母さんの子じゃないって…」
町田の言葉に大野は一瞬目を丸くし、次の瞬間大爆笑した。
「ないない。それはない。ありえない。慎吾勘違いしてんじゃないの?」
笑いながら涙まで拭っている大野に、町田は怒った口調で答える。
「確かに聞いたんだよ!!俺は…町田慎吾じゃないんだ!!!」
あまりの剣幕に、大野もムッとする。
「そんなに怒る事ないのじゃ!!だって、ありえないもんはありえないのじゃ!!!」
「でも、そうなんだよ!!」
一向に引かない町田に、大野は溜息をつき、思わず言い捨てた。
「そんなに言うならそうなのかもね。慎吾、おばさんと似てないのじゃ」
その瞬間、町田は黙り込み、呼びとめる大野の言葉にも振り向かず去っていった。
++ ++ ++
「大野さんの言葉が決定打となって、町田さんは記憶を封印してしまったんですね、きっと。辛い現実を受け止めたくなくって…」
良知は一人頷きながら告げた。
「大野さん、それはあまりにも冷たいんじゃ…」
呟く石田に
「だって、真に受けるとは思わなかったのじゃ」
俯き加減で告げる大野の言葉を遮るように町田が叫んだ。
「思い出した!!そう、僕はここで母さんの言葉について考えていたんだ!!」
「お母さんは何て仰ってたんですか?」
良知の問いに、町田は少し涙ぐみながら答えた。
「あれは…夜、喉が乾いて水を飲もうと台所へ向かおうとした時でした。居間で母さんが父さんに向かって話していたんです」

『本当の子じゃないから…』
『やっぱり血が繋がってないと…』

「途切れ途切れにしか聞こえなかったけど…たしかにそう言ってたんです…」
そう告げる町田の手は震えていた。
「確認、しなかったの?」
島田の言葉に町田は弱弱しく首を振った。
「怖くて…面と向かって事実を付きつけられるのが怖くて…」
黙って聞いていた良知が不図、大野に尋ねた。
「町田さんは…本当にお母さんと似てないんですか?」
その言葉に大野は力強く答える。
「そっくり。めちゃくちゃそっくり。だから、まさか慎吾が真に受けるなんて思わなかったのじゃ」
「…どういう事?似てるのに親子じゃないの?」
一人パフェを食べ続ける幸人が首を傾げる。
しばらく全員で考え込んだ後、良知が口を開いた。
「考えてても、結論は出ないと思うんです。…町田さん、事実を確認しに行きましょう」
「えぇ?」
眼を丸くする町田にたたみかける様に続ける。
「お母さんに、直接聞いてみましょう」
「で、でも…」
躊躇する町田に、島田が身を乗り出す。
「そうしなきゃ、解決しないじゃん。このまま悩み続けてたら、また記憶を無くすかもしれない」
「そうだよ、この際ハッキリさせとこうよ」
ね?
と、幸人も続く。
「はっきりさせるべきですよ。町田さん」
石田の言葉に良知も頷き
「行きましょう、町田さん」
と、町田をまっすぐ見詰めた。
全員の迫力に押される様に、町田は小さく頷いた。
「わ、わかりました。はっきりさせます」
町田の言葉に全員が頷いた。
++ ++ ++
「ここが僕の家です」
翌日、町田に案内されて辿りついたのは、閑静な住宅街だった。
ドアノブに手をかけ、町田は開くのを躊躇する。
「町田さん」
良知に促され、コクっと頷き、震える手でドアを開けた。
「た、ただいま」
消え入りそうな声で告げた町田の元に、奥の部屋から母親らしき女性が走り寄ってきた。
「慎吾!!どこに行ってきたの!?…あら?お友達…?」
良知たちの姿を見て、首を傾げたその女性は…
「町田さんそっくり…」
と、幸人が思わず呟いてしまう程、町田をそのまま女性にしたような容姿の人だった。
「はじめまして。良知と申します。今回、町田さんから依頼を受けまして、こちらに伺わせて頂きました。少しお話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
取り出した名刺を渡しながらそう告げた良知に
「見つけ屋…?一体どういう…」
と、首を傾げながらも、「どうぞ」と部屋へと案内する。
「失礼致します」
良知に続き全員が奥の部屋へと進む。
ソファへ座る様に促され、良知は腰を降ろす。
「突然のことで驚かれたと思います」
「えぇ、もう何がなんだか…」
答える母親に、良知は頷き、続けた。
「経緯をお話致します。事の始まりは…」
突然町田が訪れた事。
記憶を無くしてしまっていた事。
そして…
「先程、記憶の断片が繋がりました。町田さんは、聞いてしまったんです。その為、町田慎吾である事すらも忘れてしまっていた…」
こんなに辛いのなら、全て忘れてしまえばいい…
「町田さんはそう考えたのだと思います」
「一体…何を聞いたというんですか?」
母親の言葉に良知は少し間を開けて答えた。
「町田さんがご両親の子供ではない、という事です」
その言葉に、母親は驚愕した表情を見せ、そして少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「どういう、事ですか…?」
「だって、母さん言ってたじゃないか!!俺、聞いたんだよ!!」
町田の言葉に、母親は更に目を丸くする。
「いつ、そんなこと?」
「ここで、父さんにいってたじゃないか!!本当の子じゃないって!!」
「父さんに…?」
しばらく首を捻っていた母親は「あ!」と突然声をあげた。
「もしかして…あの話?」
そう言うと、大声で笑い出した。
「な、なんだよ!何がおかしいんだよ!!!」
身を乗り出した町田に、母親は止まらない笑いの合間にこう告げた。
「だって…それ、お隣の犬の話だもの」
一瞬の沈黙の後、全員が一斉に声をあげた。
「はぁ?」
「お隣の犬がね、半年位、捨てられた子犬を育ててたんだけど、最近全くかまわなくなったらしいの。自分の子じゃないって気づいたのかしらねぇって話をしてたのよ」
「じゃ…じゃあ、俺は…間違いなく母さんの子なの…?」
裏返った声で尋ねた町田に母親はあっけらかんと笑いながら答えた。
「当たり前じゃない。何馬鹿な事言ってンのよ」
その言葉を聞き、町田は叫ぶ。
「俺の4日間はなんだったんだよー!!!」
そんな町田を横目で見ながら
「それより…俺達のがなんだったんだって感じだよ」
と島田がボソっと呟いた。
++ ++ ++
「お騒がせな依頼だったねぇ」
良知の家に戻り、幸人のいれた紅茶を飲みながら溜息と共に呟かれた石田の言葉に良知は苦笑する。
「まぁ、ね。でも、記憶が戻って良かったよ」
「仕事としては成功だよな。気分的にはなんだかなぁって感じだけど」
そう笑った島田の横で突如…
「あぁ!!!」
と、大声をあげる幸人。
「なんだよ、ビックリすんだろ」
島田が睨みつけると…
「島田ぁ!!約束!!!」
「は?」
「公園行かなくちゃ!!!」
立ち上がり、島田の腕を取る。
「はぁ?これから?やだよ。疲れてるし」
だいたい、なんで公園なんて…
島田の言葉に幸人はこれ以上なく頬を膨らませる。
「約束したのにぃ〜!!!…島田、約束破るような男だったんだ。そうなんだ。知らなかった」
見損なった…嘘吐き…最低…
と、思いつく限りの不満を吐き出す幸人に、島田は大袈裟に溜息をついた。
「ったく。しょうがねぇな…ほら、行くぞ」
幸人の手を掴み返し、引っ張っていく。
「いいのぉ?やった♪良知君、出かけてくるね♪♪」
幸人は幸せそうに笑うと、島田に付いて出ていった。
「島田も、幸人には弱いねぇ」
笑いながら呟いた良知に
「っていうか、幸人には誰も勝てないよ」
と石田ガ苦笑する。
「確かにそうかもね」
フフっと笑いながら紅茶に口をつける。
こうして、見つけ屋にまたゆったりとした時間が訪れようとしていた頃…
町田から依頼料を受け取る事をすっかり忘れているという事態に誰一人気が付いてはいなかった。

**********
第5話です。
町田さんの依頼終了…って事で。
や、怒ってます?怒ってます??(心配)
だから、とっても下らない結末が…って言ってあったと思うんですが(苦笑)。
町田さんと大野さんはキャラ的にとっても好評だったので、また登場させるかもしれません(笑)。
何せまだお金貰ってないし(笑)。

<< TOP                             << BACK      NEXT >>