++第7話++

「声、って言われてもね」
数秒の沈黙の後、良知は思わず一人ごちた。
「確かに、ねぇ」
島田がそれに答えるように呟いた。
屋良は、薄っすらと涙を浮かべて、良知と町田の間で視線を泳がせる。
「助けてあげてよ。可哀想じゃん」
町田が良知に訴える。
そりゃ、助けてあげたいのは山々だ。
良知は不図溜息をついた。
どうして、こうも変わった依頼が続くのだろうか。
助けます。と自信を持って言い切れない。
かといって、出来ません。と断る事は、あまりにも非情に思えた。
「…とりあえず、お話伺いましょう」
その言葉に
「助けてくれるの??」
と、なぜか町田が縋りつく。
「何とか…出来る限りの事をやってみましょう」
良知の言葉に、町田は屋良をギュッと抱きしめた。
「良かったね〜!!!もう大丈夫だよ!!!」
キャッキャと二人でハシャいでいる姿を見ながら
「まだ、見つかる、とは言って無いけどね」
と妙に冷静な島田。
「けど、何でも見つけますって前に言ったじゃん」
強気な町田。
「尽力しましょう」
良知はそう告げて、屋良に向き直った。
「とりあえず、何時ごろから声をなくしたのか…そこからお聞きしましょう」
++ ++ ++
屋良との筆談は声を失った頃に遡る。
それは、一週間前の事だった。
朝、起きて、顔を洗い、一通り学校へ行く準備をし、軽い朝食を取ろうと玄関に行く前に、台所へ立ち寄った屋良は、目の前に、いつもなら用意されているトーストが置いてないことに気がつき、母親に言った。
「かぁちゃん。飯は?」
ところが、母親は全く返事をしない。
「ちょっと!!!聞こえてんだろ??返事ぐらいしろよ!!」
それでも一向に答えはない。
不図、母親が振り向いた。
「あら、朝幸。何黙って突っ立ってるの?」
愕然とした。
黙っても何も、さっきから声をかけているのに…。
最初は母親の耳がおかしくなったのかと思った。
けれど…
「母さん、行って来る」
その父親の言葉に
「気をつけて下さいね」
と、母親は普通に答えたのだ。
という事は。
「朝幸、どうしたの?」
母親の問いに
「あの…」
と言ってみるも、
「何、ふざけてるの。言いたいことがあるならちゃんと言いなさい」
全くもう。と母親が言う。
おかしい…。声が、出ていないのか?
自分ではちゃんと話しているつもりだ。
なのに…
「あぁ、パン準備してなかったわね。そういえば。それならそうと言ってくれれば…朝幸???」
振り向いた母親は驚いた顔で自分を見ていた。
そりゃ驚くだろう。
自分の喉に手をあて、眼からは自然と涙がこぼれていた。

声が…出ない。

「どうしたの??具合悪いの??朝幸!!」
母親の声を振り切り、とにかく部屋に戻った。
鍵をかけ、ベッドに蹲る。
夢かもしれない。
また、眼が覚めたら…普通に言葉を発しているかもしれない。
色々あったし、疲れているのかもしれない。
とにかく、眠ろう。
まさか、次に眼が覚めた時に、更に愕然とした気分に陥るとは思っても見なかった。
++ ++ ++
「結局、声は戻ってこなかったんですね」
その言葉に、屋良はコクっと頷いた。
「で、どうしたものか、とフラフラしていたら、ここの看板を見かけた。と」
再度頷く。
「看板をじ〜っと見つめてたから、僕が声をかけたんだよ。そしたら、急に涙がポロって…」
と幸人が冷めたお茶を取り替えながら言う。
「困り果ててるんだなぁって思ったから、連れてきたんだ」
ニッコリと笑う幸人に
「幸人、優しいからね」
と良知は笑い、屋良を見た。
「屋良さん自身、心当たりはないんですか?」
きっかけになるような、出来事とか。
良知の問いに、屋良は暫く首を傾げる。
そして、ハッっと顔を上げた。
何やら文字を書き始める。
それを見て、良知がウンウンと頷いた。
「だったら、それをあたってみましょう。案外、早く解決するかもしれませんよ」
その言葉に、屋良は心細げに頷いた。

『一週間前、親友とケンカしました』

その文字は、とても小さく申し訳なさそうに書かれていた。

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第7話です。
あれ、何だか決めてた設定と違う気がする今日この頃(ぇ)。
って事で、7話です。
屋良っち、声が出ないなんて!!!あの可愛い舌っ足らずな声が!!
って事で、何とか連載続きましたね〜。
つ−か、この連載。覚えてくれていた人がいるのでしょうか?
でも、ひっそりと続けます(笑)。

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