++第8話++

「ケンカ、ですか…」
良知は少し眉間にしわを寄せてしまった。
屋良が申し訳なさそうに項垂れる。
「あ、すいません。別に責めているわけではありません。重要な手がかりかもしれませんよね」
慌てて、弁解する良知。
「とりあえず、その友達のトコに案内してもらえば?」
島田の言葉に、屋良は目に涙を溜めて首を横に振った。
「何、どうしたの?」
町田が尋ねると、屋良はまた文字を書き始めた。
『逢いたくない…』
「どうして?」
萩原が尋ねる。
すると、屋良は少し首を捻って…
『何となく、顔をあわせ辛い』
「ケンカ、したから?」
石田が尋ねると、屋良は少しだけ考えるような顔をして、文字を書いた。
『怒らせたから…嫌われたかもしれない』
「そっか、逢うのが怖いのか」
大野がウンウン、と頷く。
「じゃあ、その友人の家だけ教えてください。僕等が逢ってきますから」
良知の言葉に、屋良は暫く俯き、そして覚悟を決めたように手を動かした。
「米花さん、ですか」
「あぁ、ヨネかぁ」
町田の言葉に
「知ってるの?」
と良知が尋ねる。
「ヨネも、後輩」
ニッコリ笑う町田。
「じゃあ、町田さんにも一緒に行ってもらった方が何かといいかもしれない」
そう言って、良知は立ち上がった。
「じゃあ、早速行きましょう。えっと…幸人」
「はい!!!」
「幸人は、屋良さんと一緒に此処で待っててね」
「え〜!!!」
と脹れる幸人に良知は優しく笑う。
「屋良さん、一人だと心細いでしょ?だから、幸人が話相手になってあげてよ」
「…わかった。そうだよね、屋良さん、心細いよね」
不図横から大野の声が。
「じゃあ、僕も残るのじゃ」
「なんで?」
「なんとなく」
真顔で答えた大野の言葉に
「…理解不能だ」
と、石田。
「何となく…アイツと同じ匂いを感じるよな」
と、島田は幸人を指差しながら呟いた。
++ ++ ++
屋良のメモを頼りに、米花の家に辿り着いた。
「ここか」
良知はチャイムを鳴らす。
「は〜い」
と、母親らしき人の声が聞こえ、ドアが開く。
「どちら様、ですか?」
「あの、私こういうものです」
ニッコリと笑い、良知は名刺を差し出した。
「…見つけ、屋?」
「はい、実はある依頼を受けまして。此方の剛史さんのお話を是非伺いたいと思いまして…ご在宅でしょうか?」
尋ねると母親は申し訳なさそうに答えた。
「剛史、出かけたんですよ。ついさっき」
「どちらに行かれたか、わかりませんか?」
「さぁ…何も言ってなかったし」
すみません…と謝る母親に、良知は微笑んだ。
「いえ、此方こそ突然お邪魔して申し訳ありませんでした。また、後日お伺いするかもしれませんので、その時はよろしくお願い致します」
ドアが閉められたと同時に、全員が溜息をついた。
「どうする?闇雲に探したって見つからないよ、きっと」
「此処で、帰って来るの待つ?」
「っていうか、お前探偵なんだからさ、探せよ」
島田が石田に向かって言った。
「関係ないだろ、それ」
石田もムキになって言い返す。
「二人とも…もめるんじゃないよ」
溜息をつく良知。
その時…
「あ!!!!」
町田が叫んだ。
「何??」
三人が一斉に町田を見る。
「…僕、知ってた」
「何を???」
「番号」
「は???」
「ヨネの携帯の番号…」
一瞬の沈黙が流れた後、島田と石田が一斉に責める。
「最初っから言えよ〜!!!!」
「無駄足じゃん。ココ来たの」
「だって…」
シュンっと小さくなる町田。
「まぁまぁ、二人ともそんなに怒るなよ」
そう言って、良知は町田に話しかける。
「携帯、かけてもらってもいい?」
「…うん」
頷いて、携帯を取り出す町田。
かけようとして、不図手を止めて良知を見る。
「何?」
「…ゴメンね」
ちょっと上目遣いに謝る町田に、良知は苦笑した。
「怒ってないよ」
「ほんとに?」
「ホント」
「よかった〜」
ニコっと笑い、町田は携帯をかけた。
++ ++ ++
「何だか、暇だね」
大野の言葉に、
「…あ!!そうだ。ケーキがあったんだよね〜。屋良さんも食べるでしょ?」
尋ねると、コクっと頷いた。
「じゃあ、準備してきますぅ〜」
そう言って、幸人は下へ降りていった。
「ねぇ、屋良っち」
大野が呼びかけると、屋良は顔を上げた。
「久しぶりだね」
大野の言葉に、屋良は頷く。
大野も、町田と同じく、屋良の先輩だったのだ。
「ケンカって…何が原因だったのじゃ?」



「言えないの?」
近づいて顔を覗き込むと、屋良は目をそらす。
「教えて?じゃなきゃ、声、戻ってこないかも」
目を丸くして屋良は大野を見る。
「困るでしょ?」
壊れるくらい首を縦に振る屋良。
「じゃあ、教えて欲しいのじゃ」
大野がにっこりと笑う。
屋良は、少し戸惑う表情をみせたが、ゆっくりと書き始めた。
そこへ、
「お待たせしました〜♪また紅茶も淹れてきたの。ケーキはね、僕の手作りだから♪なんと!!!イチゴタルトです〜!!!」
そう言って幸人が入ってきた。
「ありがとうなのじゃ」
嬉しそうに笑う大野。
「あれ、屋良さん喜んでくれないの?」
少し難しい顔をしている屋良を見て、幸人が尋ねた。
「違うのじゃ、屋良は今一大決心をしたところなのじゃ」
「決心??」
「そ、ケンカの真相を語るのじゃ」
「そうなの??そうなの??聞かせて〜!!!!」
と、何故かテンションの高い幸人に、少しだけ屋良は溜息をつきながら頷く。
そこに書かれた最初の言葉。
『僕が…ひどい事を言ってしまったから。ヨネを、とっても傷つけちゃった』
「ひどい事…?」
『大っ嫌いだ!!!顔も見たくねぇ!!!お前なんて、消えちまえよ』
「…それは、ひどいね」
言われてシュンとする屋良。
「なんでそんな事言ったの?」
『ヨネが…僕の事、いつまでたってもちっちゃいとか可愛いとか馬鹿にするから』
……………。
「それは、馬鹿にしてるのかなぁ」
「うん、あんまり馬鹿にしてるように聞こえないよね」
と、そろって首を傾げる二人。
『馬鹿にしてるの!!!僕は言われたくない言葉なの!!!』
口を尖らせて訴える屋良。
「わかったのじゃ。事実でも言われたくない事ってあるのじゃ」
大野の言葉に、屋良は顔を真っ赤にして大野を見る。
「あ、ゴメン…つい」
大野は自分の口を塞いだ。
『で、しばらく言い合ってたら…ヨネが「そんなにムキになるなんて、女みてぇ」っていいやがって…』
「あぁ、それは禁句だね」
大野は思った。少しでもそう見える人間に、そういう事は言っちゃいけない…。
まぁ、町田は言うと喜ぶけどね…と関係ないことまで考えてしまった。
「で、さっきの言葉を言っちゃったんですね?」
幸人が尋ねると屋良はコクっと頷いた。
「本気じゃ、なかったんでしょ?」
また頷く。
『その時のヨネ、ものすごく傷ついた顔してて…それ以来、顔をあわせてないから』
「その頃から、声が出ないの?」
『…次の日から』
「あらら…それは完全にケンカが原因だよね」
「でも、どうして声が出なくなったのじゃ??」
「…何か、きっかけがあったんだよね、きっと」
「何だろ…」
二人が考え込んでいると、不図屋良が何かを書き始めた。
『…最後に、ヨネが何かを言ってたんだ。覚えて…ないんだけど』
それを見て、二人は顔を見合わせた。
「その言葉がわかれば…解決するんじゃない?」
「そうだよね、しかもそれは本人に聞けばすぐわかるしね」
「なんだ、案外簡単な依頼だったね〜」
「ホント、楽なもんなのじゃ」
「じゃあ、安心してケーキ食べよ〜」
「僕も〜」
「ほら、屋良さんも食べましょうよ!!」
「そうなのじゃ。屋良っち、食べるのじゃ!!!」
二人につられて、屋良も思わず笑ってしまった。
といっても、顔だけが笑っただけであって、声が出るわけではなかった。
簡単な依頼なら、こんなに深刻に声が出なくなるわけがない。
そのことに、二人は全く気がついていなかった。


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第8話です。
しばらく忘れてたんですよね、この連載のことを(爆)。
そしたら、何書こうと思ってたんだかも忘れちゃって(苦笑)。
自分でも書いててわけわかんないです。
しかも、屋良っち…ケンカの原因がねぇ…(苦笑)。
実は最初もっと下らない内容にしてたんですけど、あまりにも小学生レベルだったんでやめたんですよ。でも、これも小学生レベルですよね(笑)。
けどね、一応「伝説の教師」での屋良っちのいじめられてた内容が「女の子みたい」とか「チビ」とかだったし、アリかなぁみたな(何)。

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