++其の十壱++


確実に、足音は近づいてくる。全員が息を潜めて立ち尽くしていた。
「あ…」
萩原がふと顔を上げた。
「今、通りすぎた」
風が…通りぬけてったよ
そう呟く萩原に、
「…この霊、今までの霊と違うね」
と屋良が何気なく言う。
「なんで?」
尋ねた島田に
「だって、今までは近づいたら攻撃されたじゃん。でも、渡り廊下にいたって誰も被害に遭ってないよ?」
足音を聞いただけだもん…
「確かに…」
「ここ、霊の通り道なんじゃない?」
そういう良知に石田が振り向く。
「通り道??」
「そう、通り道。霊の世界からの…」
「そっか。だからここから始まるのか」
島田が言う。
「そうすると、桜の霊と図書室の霊が同じとも限らないよね」
屋良が言うと萩原が首を振る。
「や、それは一緒みたい。ここの道使ってるの、この霊だけみたいだから」
「なんでわかんの?」
「だって、」
他に気配がしない…。
遠くを見つめながら答える。
「とにかく、図書室に向かおう。そうすれば全てわかるよ、きっと」
良知が全員を促して図書室へ向かった。
+++++++++
図書室の前は渡り廊下以上に異様な空気が漂っていた。
「なんか、音が聞える」
良知がドアに耳を当てて様子をうかがう。
「始まったかな?」
萩原は大きく深呼吸をした。
「入ろう」
+++++++++
ドアを開けると…今まで聞えていた音がぴったりと止んだ。
「あれ?」
屋良が不思議そうに辺りを見渡す。
何も起きていない。気味が悪いほど静まり返っていた。
「さっき、聞えてたのに…」
全員が入ってドアを閉めた…その時
「うわっっ」
どこからか、突然本が島田目掛けて飛んできた。
間一髪よけた島田。
しかし、次から次へと本は彼等に向かって飛びかかってくる。
「な、なんだよ。これっっ」
必死によけながら尋ねる石田に
「やってる本人に聞けよっ」
と前を指差す良知。そこには…学生服の少年が立っていた。
や、正確には…浮いていた。
「う、わぁっ…」
よけた拍子にバランスを失って倒れる石田、助け起こす島田。
そんな中、
「ちくしょう、よけるだけで精一杯だよっ」
と、ぼやきながら良知がゆっくりと呪文を唱える。
    っ、 
すると、飛んできた本が、目の前で突然意思を失ったように床に落ちていく。
『…なんだよ、邪魔するなよ』
せっかく的が来たと思ったのに…
ぶつぶつと呟く少年に萩原が尋ねる。
「ねぇ、何してんの?」
…おかしな質問だな。
そう笑って少年は答える。
『ゲーム。昔ね、流行ったんだよ。1人を狙って全員で本を投げつけるの。で、その子が立てなくなるまで続くんだよ』
今日の的は君達に決めたんだ…だから、
『おとなしく、しててよ』
そういうと、少年は本を手にとり、投げつける。
本は微かに屋良の頬をかすめた。
「…ってぇ」
頬に一瞬痛みが走り、手を当ててみると…
「…切れてる。ヤバイよ、当たったら」
ただの本じゃないよ…
「ヤベぇじゃん。ドア、開かないし」
島田が後ろ手でドアを開けようとするが、開かない。
「逃げられないって事か…」
だったら…ゲームに勝つしかないよね。
萩原が1歩前に踏み出す。
『勝つつもりなわけ?』
少年は笑う。
「負ける気は…ないけど」
こう見えて、負けず嫌いだったりするんだよね…
そう言いながら萩原は胸ポケットへ手を入れる。
『無理だよ…僕はこのゲームをずっとやってきたんだ』
少年が手をかざすと、本棚の本が宙に浮く。
萩原の方を指差すと同時に本が一斉に萩原目掛けて襲いかかる。
全ての本が鋭い刃となって萩原を襲う。
それを必死によけながら少年に近づく。
「オン、ソワカ…」
呪文を唱えながら少年の傍へ…
『く、くるなよっ…なんで、当たらないんだよっ』
焦る少年はさらに大量の本を萩原に向ける。
集中的な攻撃に、逃げ場がない。
しまったっ…
身を屈めた瞬間、本が次々落とされていく…。
そこには、呪文によって、本を落としている良知と…
「こんなもの、動きさえ見えれば怖くもねぇよ」
ただの本じゃん、
そういいながら、本を拳と蹴りで叩き落している石田の姿が…
「ほら、早く行けよ。本はひきうけるから」
頼もしく言う石田に
「ありがと」
と、短くお礼を言った萩原はもう一度少年に近づいていく。
『く、くるなって…。なんで、なんで当たらないんだっ』
混乱しはじめた少年に萩原が告げる。
「…だって、君は当てる側じゃなかったんでしょ?」
『なっ…んで、』
あきらかに動揺した少年の目。
「君は…当てられる側だったんだよね。毎日、ぶつけられていたんだよね」
…だったら、わかるよね、痛みが。
そう言って少年の目の前に立つ。
『お、お前には、わかんないだろっ。僕がどんな思いでっっ』
「…辛くて、桜の木に向かったんだよね」
そう告げた萩原。
言葉に詰まる少年。
「そうか、だから桜の木が…」
そう言った島田に
「…桜の木が怒ってたのは、大事にされていないせいだと思ってた。でも、違ったんだよね。君をこんな目にあわせた生徒達に怒ってたんだよね」
毎日、世話をしてくれていた君を苦しめた生徒たちを…
優しく言う萩原。少年は少しずつ口を開く。
『…だって、辛かったんだよ。どんなに頼んでもやめてくれない…でも、彼が僕を呼び返してくれた。仕返ししてやれって。どんなに辛いのか思い知らせてやれって。1回元の場所に帰されちゃったけど…また、彼が呼んでくれたよ…今度こそ、仲間を増やせって』
「な、かま?」
尋ねた屋良に、少年は不適な笑みを浮かべた。
『だって…
1人じゃゲームはできないだろ?
瞬間、少年は手に持っていた本で萩原に襲いかかる。
「っ…」
左腕に本が突き刺さる。
「萩原っっ」
島田が駆け寄ろうとする。
が、本が嵐のように吹き荒れる。
「君は…やっぱり他の人達と違うね。もう、罪の意識が…ないんだ」
本当はしたくないんだけど…
と、一瞬躊躇した萩原の頭に声が聞える。
【彼を助けるには…それしかないよ】
そう言った声の主は…
と、屋良の携帯がなった。
「誰だよっ、こんな時にっっ」
屋良に向かって良知が叫ぶ。
「屋良っち、俺に向かって投げてっ」
「えっ?あ、あぁ」
なんとか、本をよけつつ、急いで良知に向かって携帯を投げる。
受け取った良知は通話ボタンを押し、すぐに携帯を少年に向ける。
電話を通して、呪文が聞える。
まるで、その場で唱えているかのように鮮明に響き渡る。
『や、やめろっっ』
動揺して耳をふさぐ少年。萩原への攻撃が緩む。その隙に…
          っ」
胸ポケットから一枚の紙を取り出し、呪文を吹きこむ。
『た、たのむっ…やめ…』
その紙を少年の額に貼りつけ、更に呪文を唱える。
         っ」
その呪文に重なるように受話器から聞えるもう一つの呪文。
少年は、光となって消えていった…
+++++++++
「それにしても…」
良知の部屋で萩原の腕の包帯を取り替えながら、屋良が言う。
「あの時、なんで電話がかかってくるってわかったの?」
良知をみる、と少し笑って答える。
「聞えたんだよ、電話するからすぐ相手に向けてくれって」
「…なんで俺の電話なわけ?」
ラッチのでいいじゃん…
不満そうな屋良に
「あんなとこに、携帯もってったりしないもん、俺」
霊と対面って時に、携帯いらないでしょ…邪魔だしね。
もっともだ…と、萩原も頷く。
「なんだよぉ、俺が持ってってたから助かっただろっ」
と、逆切れする屋良を見ながら、自分も持っていた事に、ちょっとバツの悪い島田が話題を変える。
「そういえばさ、石田もすごかったね」
石田は少し照れて頭をかきながら、
「や、空手やってたし…」
動きさえ見切ってしまえば確実に当てられる自信があったんだ。
そう言って笑う石田に
「ほんと、皆がいなかったら、僕今ごろ大変だっただろうなぁ」
と人事のように笑う萩原に
「や、お前がいなかったら俺達もっと大変だから」
と少し照れながら言う島田。
「めずらしい〜。誉めてくれんの?」
笑った萩原に、
「でも、半分は電話の力だよな」
ところで…
「誰、だったの?」
と、今更のような質問で話をそらす島田。
「あんな事してくるの、一人しかいないでしょ」
声をそろえる良知と屋良。
「…それじゃあ、やっぱり」
なるほど…
と頷く島田をよそに
「それにしても…なんで様子がわかったんだろ?大野君」
と、屋良は首を捻る。
そんな中、すっかり包帯も巻きなおしてもらった萩原が呟く。

「良知君…お腹空いた」


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お〜、勢いに乗って十壱話書いちゃったよ(笑)。
とうとう、登場してきましたねぇ、声の主こと大ちゃん。これから、徐々に終盤にさしかかろうとしています。やっと…私の連載の中で完結する兆しの見えるものが出来ました(爆)。
が、最後が見えてくると、ふと「あー、この話自分でも好きなんだなぁ」と思ったりして、ちょっと終わるのも寂しい気分(笑)。っていっても、まだありますからね。気を抜かずに書かないと、気がついたら終わらなかったってこともありえるし(爆)。

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