++其の四++

 
時間は午前4時30分を少し過ぎた頃。生徒会メンバーが学校へ到着した。
「ねぇ、ほんとに行くわけ?」
少し不安そうに屋良が尋ねる。
「もちろん!!絶対謎を解いてみせる!!!」
そういう島田に
「でもさ、霊が出てきたらどうすんだよ」
と、こちらも不安そうな石田が尋ねる。
「なんとかなる!!!」
と、他人任せのように言いきった島田をよそに萩原が良知に聞く。
「2年前の時、良知君は霊を見たの?」
「…まぁね。俺、結構見える性質だから」
良知の答えを聞いて納得したように頷く萩原。
「で、結構すごい霊とかいた?」
「うーん、どうだろ。ほとんど大野君が解決してたからなぁ。でも、最後の方はかなり苦労してたけどね」
「そっか…」
じゃあ、それなりに心構えがいるかなぁ…
と、ボソボソ言いながら学校の中へ入る萩原。
学校の中は、この先待ち構える恐怖を象徴するかのように深い深い闇が続いていた。
「おじゃましま〜す」
誰に言ってるんだ?と、怪訝そうに萩原を見る石田。
そんな石田に萩原が
「や、人として…」
と、的を得てるのか得ていないのかわからない返答をする。
「ねぇ、もうすぐ44分になるよ?」
島田が時計を見て、全員を急かす。
「じゃあ、早速音楽室に向かうか」
そう言って、良知を先頭に全員が1歩1歩恐怖への階段を上っていった。
+++++++++
音楽室の前に到着。まだ、ピアノはなっていない。
「…まだかな」
島田がつぶやく。その時、萩原が良知に向かって尋ねた。
「ねぇ、良知君。寒いでしょ」
少し驚いて萩原を見る。
「何でわかるの?もしかして萩原…」
来るよね、もうすぐ
萩原がつぶやいた瞬間、ピアノの音が…
「マジ、ヤバイってぇ〜〜!!!」
怖がる石田と屋良に
「少し黙って!!ここで待ってていいから」
と告げ、中に入っていく良知。
「ちょっと、待ってよ良知君」
そう言って島田も萩原も後に続く。
「…俺達も、行く?」
屋良は石田の顔を覗き込んでそう言った。
+++++++++
中は誰もいない。
が、とても冷たい空気が教室内を取り巻いているのがわかる。
ピアノの音は鳴り止む気配もない。
「良知君…あれ」
萩原が指差す先に良知が視線をやる。
そこには…確かにピアノを弾いている少女がいた。
「2年前と…同じ?」
尋ねる萩原に
「まさか…確かに2年前、大野君が…」
「じゃあ、同じなんだ」
そういって萩原がピアノに1歩近づいたその時。
『こないで!!』
その声と共に強い風が吹き荒れる。
「な、なんだよ…これ。2年前と同じじゃん…」
あっけにとられる屋良をよそに、良知は少女に話し掛ける。
「君は…2年前に…」
『戻ってきたのよ。私が必要だって言ってくれる人がいたの。その人の為に…私、ここへ戻ってきたわ』
「…て、事は他の人達も皆戻ってきたって事か…」
七不思議復活の理由が少しわかってきたな…
そう良知が思った瞬間。
『悪いけど、今回は邪魔させないわ。あの嫌な男もいないみたいだし』
大野がいないのを確認し、少女はピアノを弾くのをやめた。
「邪魔??いったい何しようっていうんだ?」
島田が叫ぶ。
『そうね、教えてあげる。あの人を助けるために…あなた達が必要なのよ

そう言って少女はゆっくりと、島田に近づく。
「島田、逃げろ!」
良知が叫ぶ。と同時に良知めがけて楽譜が飛んでくる。
間一髪よけたが、頬にかすり、うっすらと血が滲む。
「やばいよ…」
石田が呆然と呟いた…
そんな中、少女は島田に近づき、その唇の端を微かに上げた。
とたん、
「う…っ、わぁっっ…」
少女の髪が島田を捕まえる。笑いながら、島田を引き寄せその首に手を回す。
逃げられないよ…
助けようと、屋良も石田も飛びかかろうとするが、その度に楽譜が舞う。
良知が1歩前にでて大野に教わった呪文を唱えようとしたその時。
    …っ」
萩原の口から発せられた言葉が少女に動揺を与えた。
『やめてっ!!!』
島田を掴む力が少し抜ける。
  ゲホッ…、く、るし  …」
「島田っっ!!!」
駆け寄ろうとする良知。
『くるなっ!!』
叫ぶ少女。
「…だめだよ。君はここにいちゃいけないんだ」
萩原が諭すように告げる。
『うるさいっっ!!』
そういうと、少女は島田ごと宙に浮き、首筋に手をかける、と少女が指を滑らせた後から島田の首に血が溢れ出す…
「ぅ、あぁ     っ」
痛みに叫ぶ島田。
「仕方ない」
そう言うと萩原はまた呪文を唱え始めた。
       …」
『いや   っ…』
苦しむ少女。島田を捉えていた髪が解ける。
床に打ちつけられた島田に3人が駆け寄る。
「島田、大丈夫か!!」
石田が助け起こすと、島田が微かに返事をする。
「…だ、いじょうぶ。それより…」
と、島田が目線を送る先には萩原と少女。
「だめだよ…君は本当は人を傷つける事なんてしたくないでしょ?」
『…』
ふと、少女の眼が揺れる。萩原は続ける。
「だって…君は傷ついた人がどんなに辛いかを痛いほど知ってるはずだもの」
萩原がそう言うと、少女の眼から一筋の涙が頬をつたう。
『私…辛かったの。妬まれて…せっかくピアノで留学も決まってたのに。あの人達は、私の指を…だから…仕返ししたい…』
「でもね、君はもうここにいちゃだめだよ。もう、仕返しする相手もいないでしょ。それにね、仕返ししたら…君は、君をいじめた人と同じになっちゃう。ダメだよ、君は本当はとっても優しい人なんだから…」
萩原が話し終えると、少女は泣き崩れた。
「…もう、行かなきゃね」
そう言って近づくと、少女は黙ってうなづいた。
そんな少女にゆっくりと近づき、萩原は手をかざし、呪文を唱える。
一筋の光が差し込み、少女の体を包み込む。
ゆっくりと消えていく少女。少女の姿が見えなくなったと同時に5人の周りを暖かい風が流れた。
『ごめんね、ありがとう…』
そう聞こえた気がした。
+++++++++
「大丈夫?」
眼を開けた島田に良知が尋ねる。
「あ、れ…?」
わけがわからないという顔をして回りを見る島田に石田が笑って言う。
「良知君の家。お前、学校出たとたんに気を失ったんだよ」
あ、そういえば…と、自分の首に手を当てる。
「あ、それ。屋良っちが手当てしてくれたんだよ」
「ありがとうございます」
「…まったく、世話やけるよなぁ」
と、少し照れながら島田の頭を軽く叩く。
そんなやり取りを見ながら、萩原がふわりと笑った。
「…そういえば、萩原。お前すごいな」
萩原を見て、思い出したように島田が言う。
「何が?」
首をかしげる萩原に
「何ってなんかすげー呪文みたいなヤツ」
興奮して起きあがる島田。
「ああ、あれ。なんかね、気がついたら覚えてたの。だから、試しに使ってみたら上手くいったみたい」
そういって良知のくれたお菓子を美味しそうに食べる萩原を見つめ、島田はふと呟いた。
「七不思議より、お前の方が不思議だよ…」


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