++其の八++
放課後、生徒会室でお菓子を食べながら寛ぐ萩原の横で
「不思議なんだけどさ」
と、ふいに屋良が口にした。
「何が?」
良知が聞き返す。
「だいたい、誰が呼び戻したわけ?あの人達」
あの人達。とはもちろん七不思議の霊の事だ。
「それがわかれば苦労しないって」
島田が答える。
「でもさ、前回はボスを倒してるんでしょ?」
缶コーヒーを開けながら石田が尋ねる。
「ボス…まぁ、確かに封印したよ。大野君が」
良知が言い終わらないうちに、すかさず屋良が尋ねる。
「もし、封印が解けていたとしたら?」
「…まさか。故意的にしないかぎりあの封印は解けないと思うけど」
「だからぁ、誰かが封印を解いたんだとしたら??」
全員が一斉に屋良を見る。
「…や、例えば、だって。それが一番納得できるかなぁって」
「けど、何が目的なわけ?」
島田が尋ねる。
「それがわかれば苦労しない、っていったのお前だろ?」
石田が笑う。
そんな中、黙々とポッキーを食べていた萩原がポツリという。
「仕返し…だよね、きっと」
「え?萩原…?」
「2年前、学校を恐怖に陥れようとして大野君に邪魔されたから」
「一体誰が仕返しするんだよ」
尋ねる島田に萩原が言った。
「さっき、島田が言ってたじゃん。それがわかれば苦労しないって」
+++++++++
そんな話をしている間にすっかり日が暮れてきた。
「そろそろ帰るか。もうじき日も暮れるし」
良知が立ち上がった時、窓を見ていた島田がボソっと呟いた。
「あれ…?あの人、大堀くん…だよね」
島田の目線をたどると、中庭の木に向かって歩いていく学生の姿が見える。
「あ、ホントだ。治樹、何やってんだ?こんな時間に」
屋良が窓から声をかけようとした時、石田がある物に気がついた。
「ね、手にもってるの…あれ、ロープ、だよね」
まさか…
全員が顔を見合わせた時、屋良が呟いた。
「あの木…七不思議の木だよな。花の咲かない桜の…」
「急ごう!!」
良知が言うと同時に全員が部屋から飛び出した。
+++++++++
「治樹!!!おい、何やってんだよ!!!」
離れた所から叫ぶ。が、大堀はまったく反応しない。
黙って木の枝にロープを縛る。
一番最初にたどり着いた屋良が大堀の肩を掴んで揺する。
「おい、治樹!!聞いてんのかよ!!!」
ゆっくりと振り向いた大堀。その目は虚ろで、何も映っていないかのように見える。
「治樹、目ぇ覚ませって!!」
揺すりつづける屋良の手を大堀はものすごい力で捻りあげた。
「邪魔すんなや」
やっと追いついた良知が大堀の手を掴む。
「大堀!しっかりしろって!!」
そんな良知をキッと睨みつける。
「邪魔すんなゆうとるやろ」
それは、大堀の声とは思えないほど低く沈んだ声だった。
「何かがとりついてる」
良知が呟く。
「とにかく、全員でおさえないと」
島田が大堀を後ろから羽交い締めにし、石田が、良知とは反対の手を押さえ込む。
「離せやっ!!」
暴れる大堀。4人がかりでやっと押さえ込む。
「いったい何が…」
呟いた島田に、萩原が答えを告げる。
「桜だよ」
「は?」
「この桜、すごく怒ってるみたい」
「怒ってるって…?」
わけのわからない状態の石田をよそに、
「とりあえず、大堀君の事が先だね」
と言って、萩原は大堀に近づく。
暴れる大堀に手をかざし、また呪文を唱える。
「 、 っ 」
その瞬間、うっすらとした光が大堀を包み込む。
「…あ、れ?何や、皆。何やっとんの?」
「いつもの治樹だ〜〜〜」
全員が安堵の表情を浮かべた。
その時、
「うわぁっ!!!」
とっさによけた石田のすぐ横に桜の枝が突き刺さっている。
「これ、今、俺の事狙ってたよね…」
青ざめる石田。
「とにかく全員木から離れるんだ」
良知の言葉に全員が猛ダッシュで木から遠ざかる。
が、萩原は動かない。
「萩原!!」
叫ぶ声にふわっと笑い振り返る。
「大丈夫。心配いらないから」
そう言うと桜に向かって手を合わせる。
不気味な唸り声のような音を響かせながら桜は枝を振り回す。
枝は萩原の数ミリ横をかすっていく。しかし萩原は逃げようとしない。
ついに枝が萩原を捕らえ、右腕を制服ごと切り裂いた。
「っ…!」
痛みに耐えながら呪文を唱え続ける。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在…」
断末魔の叫び声のような音をさせ、木が狂ったように暴れる。
ヤバイ…かな。
ふと、思った瞬間。ただ暴れていた桜が突如萩原に狙いを定めた。
左右から萩原目掛けて枝が襲いかかる。
もう、ダメかも…
と、あきらめかけたその時、真っ白い鳥が枝目掛けて飛びこんできた。
枝は鳥によって次々と切断されていく。
萩原は木に手をかざし、最後の言葉を発した。
「 …」
眩い光が木を包み、そして、花びらが舞う。
「なんとか…助かっ…た」
呟いた萩原はその場に倒れこんだ。
+++++++++
「ん…、っ」
「気がついた?」
ゆっくりと目を開けた萩原の目の前に飛びこんできたのは心配そうな島田の顔だった。
「…ここ、は?」
「保健室。お前、倒れたから運んだんだ。腕の怪我はそんなに酷くないみたい」
良かったな。
そう言って笑う島田の後ろに皆がいた。
「萩原…ありがと」
大堀が近づいてくる。
「あ、大堀君。無事だったんだ。よかった」
大堀の話によると、放課後帰ろうと、渡り廊下を渡ったとき、急に頭の中で「桜の為に死ね」と声が聞えてきたらしい。徐々に「死ななければ」という気分になってしまいその後の行動はほとんど覚えていないそうだ。
「気がついたら、皆が俺の事囲んでたんや。せやから、その前は何やってたんだか自分でもようわからへん」
「あの桜、栄養が足りなすぎて花が咲かなくなっちゃったから、人間を養分にするつもりだったんだよ」
「恐ろしいなぁ。木は大切にしなくちゃだめだな」
石田の台詞をさえぎるように屋良が言う。
「…でも、誰かが桜に何かをしたんだよね。じゃなきゃいきなり人間襲ったりしないでしょ」
「確かに…変だよな」
島田も頷く。
「変…といえば、あの鳥。なんだったんだろう」
石田がふと尋ねる。
「…式神」
萩原が呟いた。
「式神??」
「そ、あれ、式神だよね。良知君」
全員が良知を見る。と、少し驚いた顔で答える。
「俺も…びっくりした。まさか本当に出せるとは思わなかったんだ。今まで上手くいった試しもなかったし」
「でも、すごく綺麗な式神だったけど」
「けどさ、俺だけの力じゃなかった気がする…。声が聞えた気がするんだ。今だ、行け…って」
「声?そんな声聞えなかったけど…」
不思議そうな顔で見つめる萩原。が、良知にはその声の主に覚えがあった。
「でも…いったい何処から?」
独り言のように呟く良知。
「それにしても…」
少し大きな声で発せられた台詞に全員がいっせいに萩原を見る。
その萩原の口からでた言葉は…
「…お腹、減ったね」
その後、島田が萩原に殴りかかったのは言うまでもない…。
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はいっ!!なんとかきましたねぇ。3つ目。ってか順番変わってんじゃんとか言わないように(笑)。
今回、不思議へのナビ役は大堀治樹様でした。これは別に最近今まで以上に治樹にはまっているから出した。というわけではなくて、この桜の回は治樹にしよう、とずっと決めてありました。なぜなら、桜の下に立ってる姿を想像した時に文句なしに似合うと思ったから(爆)。
日に日にわけのわからない話になっていっていますが、いかがなもんでしょうか?やっぱり無理ある??
でも、このまま行きます(笑)。なんとか終わらせます(爆)。
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