++其の十壱++ 「名前は…無いんだ」 はじめて聞いたその声は…野田そのものだった。 「でも、名前無いと不自由だよね〜。じゃあ、とりあえず…ドッペル君って呼んでもいい?」 「…なんでもいいよ」 少しの沈黙のあと、ニッコリと笑った「彼」。 そんな「彼」の横で、 萩原…そのセンスはどうだろ。 と、疑問に思いつつ島田が萩原に尋ねる。 「…野田の弟なわけ?」 「うん、そうだよ」 「なんで、わかったんだよ!!」 ちゃんと説明しろよ。 そう言われて、やっと説明をはじめる。 「シンクロ…させてみたんだ」 「…シンクロ?」 石田が尋ねる。 「うん、シンクロ。後つけて歩いてた時に、意識を彼に近づけてみたんだ」 「だから、お前途中無口だったのか」 「そうだよ。鈍いわけじゃないからね」 少し膨れて島田を見る。 「…で、それで?」 そんな萩原をさらっと無視して島田が続きを促す。 「…ほんの一瞬だけ、彼の意識が見えたんだよ」 お兄ちゃんを…守らなきゃ。 「守る??」 「うん、それだけが見えた。だから、気になって…一体街をウロウロするのと、野田君を守るのに何の関係があるんだろうって…」 だから、説明してくれる? 尋ねた萩原に、「彼」はゆっくりと頷いた。 「兄に…危険が迫ってるんです」 「危険?」 毛布の隙間から顔をだした屋良が尋ねる。 「そう、僕等のようにこの世に存在していない人間には、ちょっと特殊な能力があって…自分の大切な人の死期がわかるんです」 「それって…野田君に死期が迫ってるって事??」 「正確には…死霊に狙われているというか…」 「えっと、それって死神って事かな?」 問いかけてきた良知に、「彼」は頷いた。 「皆さんの間でそう呼ばれているものが一番近い表現ですね」 死霊に狙われた者は事故にあったり、病気になったりと急に命の危険に晒されてしまうらしい。 「それで…ドッペル君はどうしようと思ったの?」 萩原が尋ねると、「彼」は少し俯いてから呟くように答える。 「教えたかったんです…危険が迫っている事を。あらかじめ予知出来る危険を教えておきたかったんです。そうすれば、兄を助けられるかもしれないと思って」 「でも…なんで街中うろうろしてたわけ?」 少しだけ身を乗り出してきた屋良が尋ねる。 「…思った以上に、兄が僕に気付かなかったんです。全く僕の存在に気付かない…。このままじゃ危険を教えることすら出来ないと思って…危険が迫ってるから、教えたいのに…でも、兄はなぜか僕が見えないみたいで。だから、まず僕の存在に気付いて欲しくて。色々な所に兄の姿で現れれば誰かは僕の存在に気付いて、兄に伝えてくれるだろうと思ったんです」 でも… 「気付いてもらった所で、僕の伝えたい事は一向に伝わらない。困って街中をウロウロしていたら…あなたがいたんです」 と、萩原を見る。 「どうして、僕なの?」 「僕の意識にはいってくるなんて、初めてでした。僕の事をわかってもらえる。そう思って…」 そこまで言った「彼」に島田が言う。 「ちょっと、待って。萩原が意識を繋げた事に気がついてたの?」 「はい…すぐにわかりました」 「…だったら、すぐ言えよ」 どいつもこいつも… 溜息をつく島田をよそに、石田が訪ねた。 「で、萩原にどうして欲しいわけ?」 「あなたの力で、兄を助けて欲しいんです」 「助けるってどうやって?」 良知が訊くと、「彼」は少しの沈黙のあと、 「危険を、知らせてください。そして、僕の存在を…それだけでいいんです。」 「…存在を教えて、危険を知らせれば野田君は助かるの?」 「兄は…僕が守ってみせます」 「どうやって?」 「僕が…兄に襲いかかる死霊を追い払ってみせます」 「…あのね、もし良かったらお手伝いしようか??」 そう言った萩原を不思議そうに覗きこむ「彼」。 「手伝うって…」 「僕もね、微力ながら手伝わせてもらいたいんだけど」 にっこり笑う良知。 「あの…どういう、」 わけがわからないという顔で「彼」は良知と萩原を交互に見比べた。 「死霊を…追い払うお手伝いさせてよ」 「出きるんですか??」 「一応、ね」 「僕はともかく、萩原の力は保証付きだよ」 「…本当ですか??助けてもらえるんですか??ありがとうございます!!」 兄を、絶対に助けてやってください。 「お兄ちゃん思いなんだね〜」 笑う萩原に、 「…会った事もない兄だけど、僕のたった一人の大切な兄なんです。僕は産まれる前に死んでしまったけれど、」 兄には、僕の分まで幸せに生きていて欲しいんです。 と、「彼」は切なそうに微笑んだ。 …と、ベッドの方からすすり泣く声が。 「…いい話じゃん。助けてあげてよ〜、彼のためにもさぁ」 感動のあまり涙する屋良に、萩原は胸を張って、 「大丈夫。絶対に野田君を助けてみせるよ」 と力強く言った。 「じゃあ、野田君呼ぼうか?」 早く伝えてあげた方がいいでしょ。 そういって、島田は携帯を取り出した。 ******* 第11話です。 いやぁ…また終わりませんでした(苦笑)。 次回で終わる予定。 それにしても野田君、たいへんなことになってたんですね〜(笑)。 大丈夫なんでしょうか?(聞くなよ) TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |