++其の十九++

「町田さん、起きてる〜?」
病室のドアを勢いよくあけ、大きな声で尋ねる屋良に
「…ここ、病院だよ?もっと静かにしなくちゃ」
とたしなめる良知。
「いいの。町田さん、個室だから」
そういって、ズカズカと入っていく屋良。
そういう問題じゃあないだろ。
と思いながらも後に続く良知たち。
「屋良っちvきてくれたんだぁ〜。あれ?皆も??」
ニッコリ笑って手を振る町田。
「大丈夫なんですか?」
と尋ねた石田に
「大丈夫〜。大野がね、助けてくれたから」
ニコニコと答える町田に
やっぱり…大野君は大変だ。
そう思いながら、良知も口を開く。
「だいぶ入院するの?」
「何だかね、1ヶ月は入院するみたい。骨つけなきゃ駄目なんだって。今、ボルトで固定してるんだよぉ」
すごいでしょ。
と意味不明な自慢を繰り広げる町田。
そんな町田を見て、苦笑しながら島田が全員に向かって尋ねた。
「何か、飲む?そばに自販機あったし。俺、買ってくるけど」
その声に、
「じゃあコーラv」
と真っ先に答える萩原。
「お前は一緒に行くんだよ」
一人じゃ持てねぇだろ。
とあっさり却下。
とりあえず、全員の希望を聞き、自販機へ向かう。
「あ、僕お財布置いてきちゃった!!!」
突然萩原が叫んだ。
「俺、持ってるからいいよ」
と、島田が言うが
「でも…取ってくる」
と、萩原は病室へ戻っていく。
「仕方ねぇな…」
あいつ、逃げたな。
苦笑しながら、また自販機に向かい歩き始めた島田。
と、その時…
「イテッ」
後ろから、思い切りぶつかられた。
「きゃッ」
悲鳴とともに、ドスンっと音が。
振り返ると、小さな女の子が転んでいた。
「大丈夫?」
島田が手を差し伸べる。
「うん…大丈夫」
そう言って、女の子は島田の手を取る。
すると…
「…」
女の子が何か呟いた。
「何?」
聞き返すと
「ううん。なんでもない。お兄ちゃん、ありがとう」
ニッコリと微笑む。
「や、別に…」
言い淀む島田。
お礼を言われるほどのことはしたつもりがない。
「お兄ちゃんのおかげで、わかったの。お兄ちゃんから、あの人の匂いがしたの」
「…あの人?」
「フフ。良かった」
これで、また逢える。
そう言って、少女は走っていった。
「何なんだ…?」
島田が呟く。
「島田ぁ〜」
後ろから、萩原が駆け寄ってくる。
「遅いじゃん」
「…つーか、お前は財布取りに行くのにどれだけ時間かければ気が済むんだよ」
と言い返してみる。
「や、だって…」
と慌てる萩原に
「そんな事はどうでもいいや。なぁ、今…」
と、少女の事を話してみる。
「なんだろね、それ」
「や、よくわかんねぇ」
目をパチパチさせる萩原に首を傾げる島田。
そこへ…
「あのッ!!」
息を切らせた女性が話しかけてきた。
「どうしたんですか?」
尋ねると
「女の子…みませんでした?」
その言葉に、島田は「あぁ」と頷き
「さっき、走っていきましたけど」
と、少女が走り去った方角を指で指す。
すると
「また…あの子は!!走ったりしたら…」
とオロオロしながら、「ありがとうございました」と頭を下げ、その女性も走っていった。
「…なんなわけ?」
思わず萩原に問いかける。
「よく、わかんない」
萩原もただただ首を傾げるだけだった。
++ ++ ++
病室に戻り、町田と話をしているうちに、島田も萩原もさっきの出来事はすっかり忘れていた。
そして…
「じゃあ、そろそろ帰るわ」
屋良が切り出し、病室を後にした。
「また来てね〜」
と、少し寂しそうな町田の声を聞きながら、廊下を歩いていると
「何か…寒い」
突然、屋良が呟いた。
「え??何で?全然寒くないよ??」
石田が言うと、
「や、何か背筋が…ゾクってした」
そう告げた屋良の顔は、確かに少し青白かった。
「大丈夫?」
島田が覗き込む。
「全然大丈夫じゃないかも」
何か、怖い。
屋良が言う。
「怖い?」
良知が尋ねると
「何となく…怖い」
早く、ココ出よ?
そう言って、足早に病院を出ようとする屋良。
「ちょ…待ってよ、屋良っち」
全員が慌てて追いかける。
そして、彼らは病院を後にした。
そんな彼らを…二つの小さな瞳が射抜くように見つめていた事にも気づかずに。

「見つけた…もう逃がさないから」


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第19話です。
更新しました。えぇ、更新します。前向きですよ、もう。
って事で。
いや、どうなる屋良さん。そして少女は一体何なのか。
いやぁ…危うく設定忘れるところでしたよ(ヲイ)。


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