++其の弐拾弐++ 翌日、訳もわからず病院へと到着した屋良は、不安げに良知を見た。 「大丈夫。大丈夫だから」 何が大丈夫なのか、聞かれても答えられないが、とにかく良知にはそれしか言う事が出来なかった。 あの少女はいわゆる「生霊」だ。 何故、屋良がとり憑かれる事になったのか、全くわからなかったが、とにかくこのままでは、少女の命も危険だった。 逢ってみないと。 そう思っていた。実際に逢ってみない事には、どういう状況なのかもわからない。 しばらく進むと、聞き覚えのある声が。 「何してんのじゃ」 その声に、屋良は目をウルウルさせて駆け寄った。 「大野く〜ん!!!助けてよぉ〜!!!」 突然抱きつかれ、ビックリした大野は目を白黒させる。 「何?何なのじゃ??」 如何して良いかわからず良知を見ると、良知が肩をすくめた。 「また、ですよ」 その言葉に、大野の眉間に皺がよる。 「また、なの?」 そして、萩原を見ると、 「どんな感じなの?」 と尋ねた。 「えっと…ちょっと危険な状態で」 萩原の返答に、屋良はキっと振り向いた。 「危険なの??危険なわけ??だって、ラッチ大丈夫だって言ったじゃん!!!」 我を忘れたような屋良を何とかなだめる石田。 「危険なのは…女の子の方だから」 萩原が告げると 「ソレを早く言ってよ…」 とぼやく屋良。 「…ちょっと、詳しく聞かせてくれる?」 大野はそういうと、来た道を戻っていった。 ++ ++ ++ 「何だ、今日はお見舞いに来てくれたわけじゃないんだ」 連れられてついた先は町田の病室。 また皆がお見舞いに来てくれたものと思った町田は喜び招き入れたが、大野が発した「で、どういう事?」という台詞で、事態を察し、少し拗ねてしまった。 「そんな呑気な事言ってる場合じゃないんだってば!」 半泣きの屋良の訴えに、町田は仕方ないって風に肩をすくめた。 その後、事の成り行きを一通り聞いた大野は、フム、と頷いた。 「それは…お気の毒に」 屋良の方を向き、いかにも神妙な顔つきで告げる。 それにあわせ、町田もいかにも哀れんだような顔で続けた。 「ホント、お気の毒」 そんな二人に、屋良はすっかり頬を膨らませて拗ねていた。 「ひどいよ、面白がってんでしょ」 その言葉に、大野は慌てて首を振る。 「違うのじゃ、ただ…ほんとに、お気の毒だなぁと思って」 言葉を捜しながら話す大野に向かい、屋良は諦めたように溜息をついた。 「いいよ、別に。助けてくれるならなんでもいいよ」 消え入りそうな声の屋良に、町田は少し苦笑した。 「ごめんね、屋良っち。別にふざけたわけじゃなかったんだけど」 ごめんね? 再度首をかしげながら、屋良を覗き込む町田。 「ま、それは置いといて」 唐突に間に入る島田。 「…置いといてって、お前が一番冷たいんじゃね?」 呟く石田をサラリと無視し、島田は話を続けた。 「とにかく、その女の子が今、どうしてるのか。そして、どうして屋良君に取り憑いたのか、それを解決しなきゃ」 「島田…お前、イイ奴だな」 ウルウルする屋良に 「責任、感じてるんですよ。これでも」 と肩を竦めてみせた。 「まずは…」 萩原が、言葉を発すると、全員が少し息を飲んだ。 「腹ごしらえしようよ」 続けられた言葉に、周りに、いいようのない疲労感が漂った。 「ちょ、だってさ!!!お腹すいてて、全然思考回路が働かないよ!!!」 必死な萩原に、石田が言った。 「一刻を争うんじゃないの??」 「でも、ボーっとしてちゃ、解決出来る物も解決できないよぉ」 そんな萩原の言葉を遮るように、大野が唇に人差し指を当てた。 「静かに…」 「大野君?」 良知の問いに、大野は少し頷く。 「…来る」 そう告げた大野の目から、全てを射抜く程、鋭い眼光が発せられていた。 「慎吾、準備して」 手を出す大野に 「俺、動けないって」 と答える町田。 「あ、そうか。もう!!!不便なんだから!!!!」 ブツブツと怒りながら、自分で鞄をゴソゴソと漁った。 「大野君…すぐ出る場所に準備してなきゃダメなんじゃないの?」 少し呆れた良知に、 「違うの。今日はお仕事するつもりなかったから…」 そういいながら、探し続ける大野が 「あったあった」 といい、御札を取り出した。 そこに、五芒星を書き込む。 『バン・ウン・タラク・キリク・アク…』 呪文を唱え、念を込めると、屋良に貼り付けた。 「よし、大丈夫なのじゃ」 そうニッコリ笑う大野に、萩原が頷きながら小さな声で問いかける。 「清明なんですね」 「あれ、わかるの?そう僕の家系はねぇ、代々清明桔梗なんだよ」 「へぇ、僕は道満なんだけどな」 とコソっと呟いた萩原に 「あ、やっぱりそうなんだ。萩原って」 とニッコリ笑う大野。 慌てて萩原は首を振ったが 「大丈夫。黙っててあげる」 と悪戯をした子供のように大野が笑った。 「だから…」 僕のことも、ね? 萩原は「違うんだけど…」と困った顔をしたが、それでも小さく頷いた。 「さて、もう近くまで来てるみたいなのじゃ。それも、実体じゃない方が」 大野が全員に聞こえる声で言う。 全員が息を呑む。 「萩原、ご飯は少しおあずけなのじゃ」 そう言って、大野はドアを真っ直ぐに見据えた。 「ほら…彼女が、愛しい彼に逢いにきたよ」 その言葉と同時に、ドアから白い霧のような何かが通り抜けてきた。 それは少しの間を置き、姿を現す。 「違う…」 島田は無意識に呟いた。 違う。 そうとしか思えなかった。 何故なら、目の前にある姿は、自分がぶつかった少女よりもはるかに成長していたのだ。 「彼を…何処に隠したの?」 その声は、怒りに震えていた。 「居るんでしょ?わかるんだから。ねぇ!!!!彼は何処!!!!」 少女が叫ぶと同時に病室のカーテンが物凄い勢いで揺らいだ。 風が…部屋中を荒らすように吹いている。 まるで、屋良を探しているかのように。 風に乗せ、屋良を少女の前に運ぶ為に。 部屋中をくまなく吹き荒らしていった。 「ダメだよ」 萩原が告げる。 「ダメだ。こんな事してちゃ。身体に、帰るんだ」 その言葉に、少女はキっと視線を萩原に向けた。 「関係ないでしょ!!!いいから、彼に逢わせて!!!」 「身体に、帰りなさい」 大野がピシャリと強い口調で告げた。 その勢いに、少女は少し怯み、声を震わせた。 「嫌よ…戻りたくない。あんな体…戻りたくないの!!!!」 最後は絶叫となり部屋に響いた。 「帰りなさい。じゃなきゃ、君が死んじゃう」 そう言って、大野は少女の前に立ちはだかる。 萩原も、横に並んだ。 そう、後ろに蹲った屋良を少女から守るように。 二人は、吹き荒れる風の只中に立ちはだかった。 ******* 第22話です。 すっごくお待たせいたしました。 やっと徐々に復活の兆しを見せて参りました。 という事で、やっと更新。 ホント、遅くて申し訳ない。 さらに展開遅くてより一層申し訳ない(滝汗)。 あぁ、大野君。大活躍です。そして幸人も大活躍です。 素敵です。こんなに素敵なのに、そこはかとなくボケてるところがまた素敵です(爆)。あぁ、自分で書いてて何言ってんだか(苦笑)。 次回こそ、このお話終わる予定。次回の主役は誰にしようかなぁ… TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |