++其の弐拾四++ 「なんだ、君たちは!!」 叫ぶ医師。 「すいません!!!説明している暇はないんです!!!」 町田が叫び返す。 「ホラ、早く戻らなきゃ死んじゃうよ!!」 屋良が少女の方を向いて泣きそうに言った。 少女は…不安と恐怖に固まっていた。 「戻れない…の。どうやって戻ればいいのかわかんない…いつもは勝手に戻ったんだもの。自分から戻る方法なんてわかんないもん」 そんな少女に大野が力強く告げた。 「大丈夫。僕が戻してあげる!!」 そう言って、少女を連れて、少女の身体に近づく。 「何をやってるんだ!!!離れたまえ!!」 医師たちが、大野を取り押さえようとする。 「あぁ!!もう!!1言ってもわかんないなら、自分の眼で見てみればいいのじゃ!!!」 そういった大野が不図呪文を唱えると、医師たちの目の前に、少女の姿がはっきりと浮かんだ。 「な…なんだ、」 ざわめく医師たちをよそに、大野は少女に近づく。 「萩原、力貸して!!」 「はい!!!」 呼ばれた萩原も少女へと近づき、二人で呪文を唱える。 大野は、人型の紙を取り出し、呪文とともに、息を吹きかける。 すると、少女の魂は吸い込まれるように、人型の紙へと吸収されていった。 「今!!!」 大野は叫び、少女の体の中心へと紙を貼り付け、人差し指と中指で押さえながら、術を唱える。 唇に左手の人差し指を当て、呪文を吹き込み、それで右手の人差し指と中指を撫でるように呪文を送る。それにあわせ、萩原も術を唱え続けた。 「間に合った…」 大野の呟きとともに、少女の頬に赤味が差していく。 「先生!!動いてます!!」 止まっていたはずの、少女の脈も動き始めた。 「あとは…まかせよう」 目の前で起きた光景に驚く間もなく、医師たちは、少女の救出へ取り掛かっている。 大野は萩原と屋良をつれ、部屋を後にする。 「あの!!!」 後ろから、少女の母親に呼び止められた。 「ありがとうございました!!!本当にありがとうございました!!」 深々と頭を下げる母親。 そんな母親に大野はフワリと笑った。 「僕の方こそ…救われました」 大野は、そのまま歩いていく。 残された3人は、大野の言葉の意味が理解できずにいた。 ++ ++ ++ 町田の病室へ萩原と屋良が戻ったとき、先に戻っていたはずの大野の姿がなかった。 「あれ?大野君は??」 尋ねると、町田が柔らかく笑う。 「ちょっと、ね。すぐ戻るって」 二人が座ると、島田が「ほら」と飲み物を手渡してくれた。 「お疲れ、助かったんだって?女の子」 「まぁ、ね。でも、別に僕等何もやってないよ?」 ねぇ? 「そうそう。特に、俺なんてな〜んにもやってないよ。全部大ちゃんがやったの」 ねぇ〜。 と屋良と萩原が答えると、石田がボソッと告げた。 「いつもの、大野君じゃなかったよね。大野君、ちょっと怖かったね」 ひっそりと呟かれたその言葉に、町田が答えた。 「大野は、昔色々あってね」 ダブって見えちゃったんじゃないかな、自分と。 そう告げた時、大野が戻ってきた。 「自分が、許せなかった気持ちを思い出したんだよ」 ゆっくりと話し始めた。 「僕は…生まれた時から特殊な力を持ってた。そのせいで、お母さんは困ってた。いつも泣いてた。だから、僕は今の家に自分から引き取られに行ったんだ。父親の兄の家だ。子供が居なかったから、喜んで僕を受け入れてくれた。そういう力を求めている家系だったからね。僕はお母さんは、これで楽になっただろうって思ってた。その家に入ったら、もう二度とお母さんには会えないって言われてて…それでも、いいと思ってた。でも…数年後、お母さんに再会したのは…もう、お母さんの魂はこの世になかったんだ」 「大野君…」 「その時、本当の父親に言われた。「お母さんは、最後までお前の事を気にかけてた。逢いたいと泣いていた」って。その時、気がついたんだ。あの時、お母さんを楽にしたいって思ってた僕の行動は、ただただ苦しむお母さんを自分が見たくなかっただけなんだって。自分の為に逃げただけなんだって。その為に、かえってお母さんを傷つけてしまったんだって。ものすごく、自分が許せなかった。だから、あの子には同じ思いをして欲しくなくって…」 「だから、あんなに必死だったのか…」 石田が呟く。 「…あれ、もしかしてさっきの言葉」 屋良が言うと、大野はコクっと頷いた。 「そ、なんだかね、あの子のお母さんを助ける事で、僕のせめてもの罪滅ぼしが出来たんじゃないかって思ってさ」 「そうそう。それでね、ちょっと感極まって泣いちゃったんだよね〜」 と笑う町田。 「え??泣いたの??」 全員の言葉に、大野は顔を真っ赤にする。 「慎吾!!!余計な事言わないの!!」 「だってさ〜泣き顔見られたくなくって、部屋出てったんでしょ?大野ってば可愛い〜vv」 とからかう町田に、大野は更に紅くなって詰め寄った。 「慎吾の馬鹿!!!もう、助けてなんかあげないからね!!!」 そう言って、ベッドに横たわる町田の上にダイブする。 「痛い!!!!!大野!!!!骨折してんだってば〜!!!!」 「しらないよ、馬鹿!!!誰のおかげで骨折ですんだと思ってんのさ!!!」 ベッドで暴れる二人を呆れた顔で見つめる5人。 「どうする?」 「とりあえず、ほっとく?」 「…帰るか」 「そうだね」 「…いい話、聞いた気がするんだけど…何か、すっとんだな」 5人は、喧嘩してるのかじゃれているのかわからない二人に気付かれないようにそっと部屋を後にした。 ++ ++ ++ あれから、1週間。 屋良は病室のドアをノックした。 「は〜い」 「お邪魔します〜」 「お兄ちゃん!!!」 少女は満面の笑みを浮かべる。 「元気そうだね?どう??今日は調子いい??」 少女に近づくと、少女は大きく首を縦に振った。 「元気だよ!!もうすぐね、手術受けるの。そしたらね、唯は何してもいいんだって!!お母さんが言ってた」 「そっか、よかtったね〜唯ちゃん。じゃあ、手術終わったら約束どおりデートしよう!何処に行きたい?」 「唯ね、水族館に行きたい!!!」 「お〜!!俺もね、水族館大好きv」 「ホント?」 「うん。だから、楽しみにしてるから!手術頑張って」 「ありがと!!」 「あ、そうそう。これ、皆から」 屋良は花束を差し出した。 「うわ〜綺麗♪ありがとう〜♪」 「あら、唯。綺麗なお花ね」 後ろから母親が入ってきた。 「ありがとうございます」 「いえいえ、此方こそ、勝手におじゃましちゃって」 じゃあ、帰るね。 少女に手を振り、病室を出ようとして、不図振り返った。 「そうだ。唯ちゃん。もう、お母さんの愛情疑っちゃだめだよ?」 「え??」 「だって、君の名前…すごく愛情こもってるじゃん」 「??」 キョトンとして首を傾げる少女に 「まぁ、いいか」 と、笑って手を振り、ドアを閉めた。 「唯だってさ。いい名前だよな〜。他に、変える事の出来ない「唯一」の存在って事だもんな〜」 不図、考えた。 「俺の唯一って…誰だろ」 周りを考えても、萩原は何となく島田とべったりだし…石田はラッチに付きまとってるし。まぁ、ラッチは迷惑がってるかもしれないけど。 町田さんには大野君… 「あれ…俺って一人ぢゃん」 そう思ったら、ちょっと切ない気持ちになってきた。 「や〜めた!!考えたら俺、すっげー惨めな感じするし?気を取り直して町田さんと遊ぼ〜っと♪」 そう言って、町田の病室に駆けていく。 町田は、大野に飛び乗られたおかげで回復が遅れたらしい。 「フフ、町田さんってば馬鹿なんだから」 思い出し笑いしてしまった屋良に何かが勢いよくぶつかってきた。 「イテ…」 「痛い!!」 目の前に、少年が転んでいる。 「大丈夫??」 しゃがんで、少年を抱き起こす。 「ありがとうございます。大丈夫です。ごめんなさい」 必死に頭を下げる少年に 「いいのいいの。俺がちゃんと前観てなかったら…ごめんね?」 覗き込むようにして、謝ると、少年がニッコリと笑った。 「ホントに、ありがとうございます。大丈夫ですから」 笑って、少年は立ち上がった。 少年の目は、少し輝いて見える。 不図、屋良の脳裏の掠める不安。 …まさか、な。 とは思うものの、とりあえず先手を打っておこう。 「あ、頼むから、惚れないでね。せめて逢いたい時は本体で逢いに来て。いい?」 少年はキョトンと目を丸くしたものの、ニッコリ笑って 「わかりました」 と答えてくれた。 「よかった〜。立て続けじゃあ洒落にならないもんなぁ〜」 笑って去っていく少年の後姿を見ながら思った事を町田の病室に行って、町田に尋ねてみた。 「俺、この優しい性格が災いしてんのかな?」 「優しい??誰が??優しい人は僕をからかっていじめて遊んだりしないと思うけど??」 心底ビックリ!!!という顔で驚く町田に、屋良は口を尖らせる。 「酷いや〜。やっぱり大野君が大事なんだ」 先程考えていた惨めな思いがフツフツと蘇る。 「はぁ?何のこと?」 尋ねた町田に、 「だってさ…」 と屋良が思った事を口にすると、町田はフワっと笑う。 「馬鹿だね、屋良っちは」 「馬鹿って…酷いよ」 そうは拗ねて見るものの、頭を撫でる町田の手が優しくて、甘えてしまう。 「大野も屋良っちも僕にとってはかけがえのない大事な友達だよ。同じ同じ」 ヨシヨシ。 と慰めてくれる町田が嬉しくて、でもちょっと照れくさい。 「じゃあさ!!大野君と俺が溺れてたら、町田さんどっち助けてくれる??」 照れ隠しに聞いてみた屋良の質問に、町田はやってはいけない失敗をしてしまった。 「え…っと、」 答えに詰まったのだ。 「町田君酷い!!!どっちも助けるよって言ってくれればいいだけの事じゃん!!今、悩んだでしょ??やっぱりそうなんでしょ??」 町田さんの馬鹿〜!!! そういって、町田の上にダイブする屋良。 「屋良っち!!!苦しい!!!痛い!!!」 叫びながら、町田は思う。 「なんで、こんな眼に…」 もちろん、その後、町田の退院が遅れたことは言うまでもない。 ******* 第24話です。 いや〜。今回はですね、大ちゃんの背景を少し、と人間関係についてちょっと触れてみました(笑)。 だってね〜。本当は、前回で完結するはずだったんですよ。ただ、微妙に長くなりそうだってだけで、一話引き伸ばしたものだから…書きたい事は、最初の部分で終わっちゃったんですよ(爆)。だから、後半は無理やり伸ばした感じですね〜(苦笑)。 えっと、とりあえず次回の主役をそろそろ考えたいと思います〜。 誰がいいでしょ?(笑) TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |