++其の七++

「石田君♪」
突然現れた萩原達に一瞬固まった石田。
「…何やってんの?」
こんなとこに来て。
尋ねる石田に良知が詰め寄ろうとする。
「お前こそこんなっ…」
やんわりと良知を止める萩原。
「ね、紹介してくれる?僕等にも」
にっこりと笑う萩原に石田がちょっと照れくさそうに笑う。
「えっと…マナ。この前、知り合ったばかりなんだけど」
「よろしく、マナさん」
差し出された萩原の手を…マナは触れようとしなかった。
「マナ?」
どうしたの??
尋ねる石田に、マナは黙って首を振る。
「もう…行こう?」
「どこに??」
「一緒に、行ってくれるっていったよね?」
「いったけど…どうしたんだよ、マナ」
「怖いの…この人、怖い」
「…萩原が??」
驚く石田。
「この人も…」
マナの指が良知にむけられる。
「どうして??良知君、怖くなんかないよ?」
「お願い…もう行きましょう?」
「…マナさん、どうしても石田君を連れていくつもり?」
萩原が問いかける。
「…」
「何?何なんだよ、皆」
変だよ??
重く沈む空気に眼を丸くする石田。
「行かせない…石田は連れていかせないから」
良知が手を強く握り締めながらマナを真正面から見据えた。
「…いやよ。友一君は一緒に来てくれるって言ったもの」
「石田君の事…好きなんじゃないの?」
「好きよ。だから離れたくないの」
「そんなの…一方的じゃないかッ」
良知が叫ぶ。
「ちょ、待ってよ。何なの??どういう事??説明してよ」
わけ、わかんねぇよ。
ぼやいた石田に萩原が告げる。
「マナさんは…もう、」
「やめてッ!!!」
「この世にはいない人なんだよ…」
「うそよッ…私、こうしてココにいるじゃないッ…」
「違うよ、あの時…あなたは歩道橋から…」
「…萩原、なんで歩道橋のこと知ってんの?」
俺ら、そこではじめて会ったんだけど…
少し不安げな表情で石田は尋ねる。
「マナさん…あなたは辛かったんだよね。どんなに傷ついてても相談する人も助けてくれる人もいなくて…寂しかったんだよね」
「マナ…どういう事だよ」
詰め寄る石田に、マナは涙を流して俯いた。
「…そうよ、散々酷い目にあったわ」
搾り出すように言葉を繋ぐマナ。
「会社では苛められたり…男の人にだまされたり…でもね、誰も助けてくれないのよ?慰めるふりをして近づいてきてはまた私を傷つけていくだけ。必死に頑張ってきたけど…ずっと親友だと思ってた人に裏切られて、結婚を約束してた人にまで騙されて嘲笑われて…もうどうでもよくなっちゃったの。馬鹿みたいに頑張ったところで、誰も私のことなんて愛してくれないのよ。歩道橋から少し身を乗り出して下を覗いて見たわ。とても高くて…怖かった。でもね、そんな時ですら…誰も助けてくれないの。とめてくれないのよ?見て見ぬフリ…私が飛び降りたって周りには何にも関係なんてないんだな…って思ったら、あまりの虚しさに笑えてきちゃったわよ。そしたらね、飛べる気がしたの。このまま…笑ったまま死にたいって…せめて死ぬ時は笑っていたいって思ったの。誰にも愛されずに…死んでいく。だからせめて笑っていたかったの…でも、結局後悔したのね。毎日やり直したくて…歩道橋から下を覗いたわ。誰かが気付いてくれたら…やりなおせる気がしたの。そんな時…」
「俺が…声かけたんだ」
頷くマナ。
「驚いたわ。危ないですよって…私に言ってくれたの。私のこと、気にかけてくれた人。嬉しくて嬉しくて思わず追いかけたの。そして、決めたの…この人と一緒にいようって。この人とやり直そうって」
「マナ…」
「でもね、結局私はもうこの世にはいないの…どんなに後悔しても戻ってこれないのよ。だったら…友一君を連れていくしかないじゃない!!!」
そう言うとマナは石田に抱きついた。
「マナッ…」
「離せよッ!!!!」
良知が叫ぶ。
島田と屋良は石田に駈け寄ろうとする。
「来ないで!!!邪魔しないで!!!こんなに優しくて…居心地のいい人なんて他にいないわ」
「…そんなの、一人よがりだよ。押しつけてるだけだよ…石田の事全然考えてないッ…」
涙で視界がぼやけても、良知はマナから眼を離そうとしない。
「毎日…やつれていく石田をみて、なんとも思わなかったのかよ。罪悪感感じなかったのかよ。石田の気持ちとか…考えなかったのかよ。石田はきっと…本気でアナタの事…それなのに、あなたは石田を道連れにしようとして…そんなの…愛じゃないよ」
溢れる涙を拭おうともせず、良知が訴え続ける。
「うるさいわよッ!!!愛なんて…私は信用しない。だって愛された事なんてないものッ」
激しく首を振って更にきつく石田に抱きつく。
「一緒に行ってくれるっていったじゃない!!!ずっと一緒にいてよッ!!!」
約束、したじゃない!!!
叫ぶマナを石田がゆっくりと抱きしめ返す。
「…マナ」
「絶対に連れて行くわ!!!」
「…マナさん、石田君のこと…愛してるなら…連れていくなんてやめた方がいいよ」
きっと後悔する。
萩原がゆっくりと近づく。
「愛なんて…信用しないっていってるじゃない…」
「あなたが、そんな事言っちゃダメだよ。あなたはご両親から溢れるくらいの愛を受けて産まれてきたじゃない」
「どうして.…どうしてそんな事あんたにわかるのよッ!!!」
「だって…あなたの名前、「愛」じゃない。ご両親はきっといっぱい愛を受けて、いっぱい愛を捧げる人になってほしいって思ってたんじゃないの?それなのに…愛を信用しないだなんて…言っちゃダメだよ」
「だって…信用しても裏切られるのよ?だから愛なんて信用しないって思ってた。でも…好きなのよ!!友一君が好きなの…だから、一緒にいたいの…なのに…どうしてダメなの??友一君は…私の事好きじゃないの??」
泣き叫ぶマナに、石田は優しく答える。
「好きだよ、俺。マナのこと…でもね、今は一緒には行けない。俺が行ったら…哀しむ人達がいるから。まだ、遣り残してる事もいっぱいある。マナの分も思いきり生き抜いてから…行くから」
「…友一君」
「頼むよ、石田を連れていかないで…。石田は俺の親友なんだ」
「…そう、俺たちの親友なんだよ」
島田も頷く。
「マナさん…石田君の事好きなら…石田君の事、連れてくなんて出来ないはずだよ」
目の前まで近づいた萩原に石田が尋ねる。
「…マナは、ココに残れないのかな」
「ダメだよ、マナさんのいる場所はココじゃない」
「でも…でも、もう少しくらいダメかな?もっと…話したい事もいっぱいあるし…一緒にいたいよ」
「石田君…」
「なぁ、萩原…」
涙する石田に、萩原はゆっくりと首を左右に振った。
「もう…限界なんだよ。これ以上一緒にいると…石田君の魂が磨り減って無くなっちゃう」
「でも…ッ!!!」
まだ何かを言おうとした石田をマナが遮る。
「…友一君、もういいの…。ゴメンネ。いっぱい迷惑かけちゃったね…。でも、羨ましい。こんなに真剣に心配してくれる友達がいるなんて…。そんな人達から、友一君を奪う事なんて…出来ないよ。友一君が…私のこと、こんなに愛してくれただけで充分。それにね、私も…友一君の事、本当に好きだった」
だから…
「サヨナラ」
マナは笑顔で石田を突き放すと萩原の方を向く。
「もう…行くわ」
この姿のまま…行けるかな?
「大丈夫。いつ石田が会いにいってもわかるよ」
「ありがと」
「…送りましょうか?」
「いいの、一人で行くわ。あなたの力は借りない」
そう言ってマナは良知の方を見た。
「…負けたわ。だから、しばらく友一君はあなたに預けておく事にするから」
よろしくね。
笑って言うと、最後にもう一度石田に向き直る。
「さようなら。絶対に…絶対に会いに来てね。待ってるから…」
「マナ…」
石田が呟くと同時に、マナを優しい光が包み込む。
「マナッ!!!」
光に飛びこもうとする石田を、屋良と島田が必死に止める。
「幸せに…なってね」
私の分まで…
言葉を残して…マナは行ってしまった。
++ ++ ++
その後、石田が泣き止むまで全員で待ちつづけた。
ひとしきり泣き終えた石田は照れくさそうに顔を上げて、
「…ありがと、皆」
と笑った。
「さて、帰ろうか?」
萩原も笑う。
「そうだな、…どうする?俺の家にくる?」
「行く〜♪」
お菓子、買ってね?
喜ぶ萩原をよそに、島田が石田に笑いながら言う。
「お前さ、家すぐ傍なんだから帰れば?」
「ひでぇよ…。俺だって良知君の家行きてぇよ」
「それにしてもさ…」
と、屋良がふと呟く。
「何?」
「マナさんさ、ラッチに向かって「負けたわ」って言ってたよな」
「あー、言ってたような…」
良知が答える。
「それってさ…意味深だよね〜」
ニヤリと笑った屋良に島田がのった。
「マナさんの愛より、良知君の愛が勝ったって事かぁ」
愛されてるねぇ〜、石田。
ニヤリと笑って島田が石田を肘でつついた。
「な、なんだよッ…」
「あれ、なに赤くなってんの?石田ってば」
「あれれ??石田ってばもしかして〜」
はしゃぐ島田と屋良の後ろから
「馬鹿な事言ってんじゃないの、二人とも…」
溜息をついて二人を小突く良知。
「あー、ラッチ。照れてるんでしょ?」
「うーるーさーい!!!」
そんな彼らを見ながら…
石田は改めて、強い友情を感じていた。
ある意味、マナに教えられたのかもしれない。
当たり前だと思っていた友情や愛情。
それは…とても大切な、かけがえの無いモノなんだと。
眼の前にいる親友達と出会えた事は本当は奇跡の様な事なんだと。
…少しだけ大人になった気がした。
一緒に居ると、暖かい気持ちにさせてくれる相手。
そんな彼らに、照れ隠しに石田は笑って呟いた。
「そんなにはしゃいじゃって…まだまだ子供だなぁ、皆」
その後、全員に本気でボコボコにされた事は言うまでもない。

*******
第七話です。
いやぁ…遅くなりまして(汗)。
風邪も引いてた上にスランプでしょ?もう最悪ですよ(自分が)。
なんだか無理やり終わらせた感じになってしまいましたが…。
全然当初のプロットと違うんですけど(苦笑)。
最後はもっと暗い感じに終わる予定だったんですけどね。
暗いのもちょっと自分的に辛い時期だったんで(何)、ちょっとふざけてみました。
…え、ふざけ過ぎですか?(苦笑)
マナはですね「愛」と書いてマナと読むんですよ。
これだけは当初からずっと決めていたんですね。
ですから…決してマリ●ミ●ルのマナ様からとったわけではないのですよ?(笑)
最初にね、ある人に言われたんですよ。「え?●リスミゼ●?」って(笑)。
えっと、次回は多分野田君で。



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