++其の八++ 「え??」 昼休み、何気ない会話の中で身に覚えの無い事を言われ野田の箸がとまる。 「昨日だよ、渋谷でさぁ野田見かけたから声かけたのに振り向きもしないんだもんな」 つめてぇよな。 クラスメイトの橋田に言われ困惑する野田。 なぜなら… 「僕、昨日は渋谷に行ったりしてないけど…」 「はぁ?何行ってんの?だっていたじゃん。間違いなく野田だったよ」 「…本当に行ってないんだけど」 「マジで?おかしいなぁ…」 首を捻る橋田。 「きっとさぁ。すごく似てる人だったんじゃない?」 ニッコリと笑いながら食後のお菓子を頬張る萩原。 数時間後、野田はその萩原を生徒会室まで尋ねる事になる。 ++ ++ ++ 「気味が悪いんだけど…」 放課後までに10件以上も身に覚えのない目撃情報を聞かされ、野田は迷わず生徒会室のドアをノックしていた。 生徒会室に入り、役員全員に囲まれる状態で席についた野田が緊張しながら口を開く。 …だいたい、全員そろうと迫力がありすぎる。 ひっそりと溜息をついた野田。 そんな野田に全員の視線が集中している。 緊張のあまり次の言葉が出ない。 …ある意味、今の状況が一番怖いかも。 そんな事を考えていたら突然名前を呼ばれた。 「野田君」 「え?」 「聞いてる?」 「あ、すいません…なんでしたっけ?」 「だからさ、偶然にしてもおかしいよね」 こんなに皆に目撃されてるのにさぁ。 不思議そうな顔で屋良が呟く。 「でも…どれも僕じゃないんです」 「野田君さぁ、夢遊病とかだったりしない?」 尋ねた屋良に野田は思いきり首を振る。 「…だって、渋谷に居たっていう時間…僕は塾に行ってたし。それに、新宿の駅で見たって言われてる時間には家族とご飯食べてたんですよ??」 おかしいじゃないですか… 泣きそうな野田を良知がなだめる。 「大丈夫。ちゃんと調べてあげるから。だから元気だしなよ」 よしよし、と頭を撫でる。 「ラッチってさ、お母さんみたいだよね」 真顔で呟いた屋良に 「何言ってんの?屋良っち。そんな冗談…」 と、良知は笑ってみせたが、周りは全員屋良の言葉に頷いていた。 「俺も思ってたんだよね〜」 「石田も?俺も思ってたんだよ」 「あれ、島田も??僕もね、いっつも頭ナデナデ〜ってされるたびに思ってたんだぁ」 そんな皆に… 「…皆、本気で言ってたりしないよね」 とちょっと引き気味の良知だった。 ++ ++ ++ 「で、調べるっていってもさ」 どうやって調べるわけ? 良知の家でコーヒーを飲みながら島田が尋ねる。 「もしかすると…ドッペルゲンガーなのかもしれない」 顎に手を当てて、書棚に近づきながら呟いた良知に石田が聞き返す。 「ドッペルゲンガー?」 「そ、ドッペルゲンガー。知ってるだろ?」 「えっと…自分とそっくりなヤツでしょ?」 「まぁ、そんなトコ。もう一人の自分って感じかな」 そう言って、良知は書棚から1冊の本を取り出した。 「研究してる学者もいて…脳と関係あるって説もあるんだけど」 「脳??」 「そう、脳のある部分に何らかの刺激がかかる事によって、自分の意識と体が分離した感覚に陥るらしいんだよ。だからドッペルゲンガーを見る人には頭痛持ちの人が多いんだって」 「ふ〜ん」 といって、良知の取り出した本をパラパラと捲った島田が呟いた。 「げ、これ英語じゃん。良知君、これ読んだの?」 「うん、一応ね」 「すげ…」 ちょっと眼を丸くしている島田をよそに、良知は話を続ける。 「で、そういった症状の場合は、たいてい自分が自分を見ている感じなんだよ。自分のすぐそばで自分と同じ行動をとっているドッペルゲンガーが見えるらしいんだ」 「同じ行動???」 「そう、脳に刺激が加わった事で精神と肉体のバランスが崩れているだけだからね。ようは自分そのものなんだよ」 でも… と、良知は続ける。 「この説では解明出来ない事例も数多く存在してる。で、野田君の場合はこの解明出来ないタイプなんじゃないかな」 「…つまり?」 石田がキョトンとした顔で見つめる。 「だからね、自分の知らないところでもう一人の自分が存在してるっていうタイプ」 「解明出来ないって事は、助ける方法もわからないって事?」 屋良が尋ねると、良知は少し笑って萩原を見た。 「僕には、手に負えないけどね。こうなってくると、萩原の得意分野なんじゃないかな?」 言われた本人はココアをゴクっと飲みこむと… 「得意分野じゃないけどね」 とりあえず、もう一人の野田君と会ってみたいな。 と屈託のない笑顔で答えた。 ******* 第八話です。 ココ最近にしては結構早い更新ではないでしょうか?? ちょっと勢いに乗ってみました(笑)。 えっと予告通り野田君でv実はいっちゃんの話よりも先に思い浮かんでいたのはコッチのお話だったんです。 ドッペルゲンガーをネタに野田君で…と考えていた矢先にいっちゃんの方のイメージが突然膨らんでしまいまして、後回しになってしまったんですね(苦笑)。で、やっと出番ですvでも、考えていたのはココまでなんで(ぇ)、これから一生懸命続き考えます。 前回までのお話が結構重い内容だったんで…今回は少し軽い感じの部分も出したいなぁと思ってます。 …が、どうなるかはわかりません(爆)。 TOP ≪≪BACK NEXT≫≫ |